ニッポン靴の新境地
「極 KIWAMI」
“上質の限界を突き詰める”――「極」の名を冠する三陽山長の最高級コレクションは、そんなスローガンのもと誕生しました。ニッポン靴職人が誇る技巧を凝縮した「匠」シリーズの、さらに上をゆくクオリティを実現するにはどうすればいいか。私たちがたどり着いた答えは、靴作りの原点である“素材”でした。世界最高峰のタンナーから選び抜いた極上の革を厳選し、それをニッポン最高峰の「匠」仕立てで形にする。奇をてらわず、とことん実直に上質を積み重ねる。そのことでしか、“極上”の実現は成し得ないと考えたのです。20年以上にわたってニッポン靴の頂を追求してきた三陽山長の品質、ここに極まれり。そんな矜持を込めたコレクションです。
最高級シリーズ「極」の基本的な仕立ては、上級シリーズ「匠」と同様。リブテープとよばれる内部の構造物を省き、履いた瞬間から圧倒的な足馴染みのよさを味わえる「フレキシブルグッドイヤーウェルト製法」が最大の特徴です。「極」ならではのポイントは、各所の素材を最高級にアップグレードしていること。今回発表したモデルはすべて、フランスを代表するタンナー、デュプイ社が手がける「マロカーフ」をアッパーに採用しています。 “水シボ”とよばれる繊細な模様が全体に浮かび、ドレッシーでありながら表情豊かな風合いもたたえる、同社のなかでも最高品質と謳われる高級革です。一方、アウトソールにはイタリアの名門タンナー、ヴォルピ社が手掛ける最高峰の底材「ロッカ」を採用。植物のタンニンでなめしたオークバークベンズで、非常に丈夫ながら柔らかさも備えた希少素材です。さらに、ライニングのレザーもデュプイ社製。これまでは期間限定のオーダー会でしか選べなかったもので、有料オプションながら非常に高い人気を博する仕様です。外からは見えない部分ですが、履き心地をいっそう贅沢なものにする重要ディテールといえます。そんな「極」シリーズの証となるのが、ブロンズ色で表現した三陽山長ロゴ。見る人が見ればわかる、さりげない特別感を意識しました。
三陽山長を代表するマスターピース「友二郎」を極上品質で表現。王道普遍の黒ストレートチップながら、土踏まず部分をグラマラスに絞り込んだセミベヴェルドウエストやカカト部分を一枚革で形成したシームレスヒールなど、高度な職人技を随所に宿しています。ここまでは「匠」シリーズと同様の仕様ですが、「極」シリーズでは後述のヤハズ仕立てやカールエッジを採用することで、いっそう研ぎ澄まされた表情に。水シボが浮かぶマロカーフともあいまって、ベーシックながら格別のオーラを放つ一足が完成しました。
コバの断面を三角形に削り上げる「ヤハズ仕立て」を採用。日本刀を思わせるシャープな面持ちから、ニッポン職人ならではの美意識が香ります。セミべヴェルドウエストによって曲線的に仕上げられた土踏まずとのコントラストも印象的。
アッパーの繋ぎ目部分にご注目。よく見ると、革の断面を覆うように内側に折り込んでからステッチをかけているのがわかります。これは「カールエッジ」とよばれる意匠。繊細な技巧美によって、さりげない存在感を発揮しています。
「友二郎」と双璧を成すマスターピースのトップグレードモデル「極 勘三郎」は、従来の「勘三郎」から表情を一新。トウ周りにボリュームをもたせた木型「R2021」を採用することで、より重厚でカジュアル使いしやすい一足となりました。同木型の特徴は、質実剛健なフォルムからは想像できないほどのフィット感。代表木型である「R2010」と同様にヒールカップを小さめに設計しているのが特徴で、足を包み込むようにホールドするため、一般的なカジュアルシューズとは一線を画す履き心地を実現しています。
靴底はつま先側を二枚重ねのダブルソールに、土踏まず部分はシングルソールにしつつ、その境目を緩やかに馴染ませた「スペードソール」。骨太さを感じさせつつ、流麗な曲線美も演出しています。この仕様にも職人の卓越した手仕事が不可欠。
アッパーと靴底を繋ぐ出し縫い糸がヒールをぐるりと一周するダブルウェルト仕様を採用。ボリュームのある木型とあいまって、どっしりとした重厚感を醸し出します。スーツは勿論、昨今人気を博す武骨なヴィンテージチノとも好相性です。
本来カジュアルシューズに属するローファーですが、「極 弥七郎」はスーツの足元にもぴったり。きめ細かなマロカーフ、曲線美あふれるセミべヴェルドウエストといった最高級仕様が、際立つ品格の源です。加えて、「R2010」をローファー用に改良した木型「R2010S」を採用しているのもポイント。甲部分を低めに、ヒールカップはさらにコンパクトにしてホールド感を高めることで、抜群のフィット感を実現しました。柔らかなフレキシブルグッドイヤーウェルト製法ともあいまって、まさに極上の履き心地を味わえます。
ベーシックなコインローファーのアクセントになっているのが、つま先に施された「スキンステッチ」。革の裏側から針を通し、表側へ貫通させずにステッチをかける超絶技巧で、世界的にみてもこれを行える職人はごくわずかです。
ヒール部分で革を継ぐことなく、一枚革で仕立てる「シームレスヒール」を採用。意外と目に留まる靴の後ろ姿を一段とエレガントに見せる仕様です。継ぎ目がないぶん、立体的にヒール部分を形作るには高度な職人技を必要とします。
アッパー全体を一枚の革で仕立てるホールカットは、素材の品質と仕立ての良し悪しが如実に表れるデザイン。継ぎ目がないぶん誤魔化しが効かず、丁寧に時間をかけて吊り込まなければ美しいフォルムに仕上がらないためです。その点「極 勇一郎」は、これぞ「極」の品質と胸を張っておすすめできる一足。マロカーフが備える繊細な水シボの表情も存分に味わうことができます。木型はマスターラストの「R2010」。日常使いだけでなくフォーマルシーンにも映える、品格たっぷりな一足に仕上がりました。
大きな一枚革でアッパーを仕立てるため、継ぎ目はインサイドヒールの一箇所のみ。履いた際にできるだけ目立たない位置に設計していますが、そのシームも手縫いのスキンステッチという、大変贅沢な仕立てを採用しています。
ミニマルを極めたホールカットだからこそ、フォルムの良し悪しが端的に表れます。歪みなく、美しい立体感を表現するには、優れた技術と手間ひまを惜しまない実直さが不可欠。品質に自信があるからこそ提案できるデザインなのです。