「ニッポン靴の最高峰」という矜持。
わが国には、世界のどこにも負けない
靴作りの技がある。
そんな確信とともに、三陽山長は生まれました。
以来20年にわたって、私たちは
“ニッポン靴の最高峰”を具現化すべく、
ありったけの情熱を注いできた自負があります。
剛健、実直、繊細、精緻。
三陽山長の靴には、
そんな“ニッポンの職人気質”が凝縮されています。
日本人にしかできない靴作り。
その技と美意識をお伝えします。
革から靴へ。
それを叶える、職人たちの手
“革が化ける”と書いて、“靴”と読みます。
それを叶えるのが、熟練の技を身につけた
靴職人たちの手。
三陽山長の靴は、
ニッポン靴の聖地・浅草で作られています。
決して大きくない、昔ながらの工場。
そこでは、伝統の美意識を受け継いだ職人たちが
日々粛々と、その技をふるっています。
ニッポン靴職人たちの手仕事は、
どのように“革を化けさせる”のか。
実際の工程を追いながら見てみましょう。
“いい靴”を作る工場か否かは、音とニオイですぐわかります。安価な量産靴を作る場所では、会話もできないほどの轟音が常に鳴り響き、現場は溶剤のニオイが立ち込めています。対して良質な本格靴を作る現場は、時折聞こえる吊り込み機やミシンなどの音を除いてはいたって静か。そして悪臭はまったくありません。三陽山長の靴が作られる現場も、まさにそんな環境。カンカンと金槌を使う小気味のいい音や、昔ながらの機械を使うどこか懐かしい音が、浅草の小さな工場を満たしています。それはつまり、三陽山長の靴作りにおいて、職人の手仕事がいかに大きな比率を占めているかを表しています。
「靴作りには多くの工程がありますが、その要所要所でいかに“ひと手間”をかけて作れるか。その積み重ねが、仕上がりを大きく左右します。いくら高級な材料を使っても、手間をかけずに作った靴は決して美しく仕上がりません。その“ひと手間”というものはやはり、職人の手によってしかできないんですよね。我々は職人ひとりひとりが、自分の仕事にプライドをもって靴作りに取り組んでいます。だから、みんな“ひと手間”をかけることに妥協しません。そんな仕事が積み重なって、三陽山長の靴は出来上がっています。ほかにはできない。そう自信をもって言えますね」
この道30年、ファクトリーマネージャーとして職人たちを束ねる佐藤徳道さんは、そう胸を張ります。
靴作りは原料となる革を裁断するところから始まりますが、そんな第一工程から熟練の職人技が宿っています。裁断専門の職人がまず行うのは、革の見極め。どんないい革にも、細かなキズや血管の筋などがあります。職人は革全体をくまなく検分し、それらに印をつけていきます。これが甘いと仕上がりに大きな影響を与えてしまうため、最初の工程ながら非常に責任の重い仕事です。
1、 2:革の検分が終わったら、金型と裁断機を使って各部位の形に裁断していきます。キズなどを避けることはもちろん、革が伸びる方向も考慮して裁断するには長年の経験が必須。加えて、極力革をムダにしないよう裁断するのも職人技の見せどころです。 3:裁断された革は、“製甲職人”と呼ばれる担当者に渡されます。製甲とはアッパーを縫い合わせること。足踏みミシンを使って、慎重に縫い進めていきます。革の端ギリギリを乱れなく走るステッチを見ていただければ、職人の技術力はすぐにお分かりいただけるはず。 4:世界を見てもごくわずかの職人しか行えない“スキンステッチ”を行える職人も擁しています。わずか1.4㎜ほどの革を、裏まで貫通させずに縫合する絶技です。
──ブランドのイメージを
形にするうえで
「できない」とは言いたくない。
だからこそ、
技術を磨くことが大切
三陽山長の生産体制には、普通とは大きく違うことがあります。一般的な靴工場では工程ごとに細かな分業制が敷かれ、それぞれの職人は決まった工程しか手がけません。一方、三陽山長の現場では、例えば底付け職人がコバ塗りなどの仕上げも行ったり、日によって異なる工程を担当したりと、受け持ちの幅が広いのが特徴です。若手の有望株・小島宙丸は、そんな靴作りについてこう話します。
「任されている範囲が広いぶん、自分が作っている靴に対して愛着がもてますね。作り終えた時には達成感も高いので、向上心も湧く。職人としては、いいサイクルの中で仕事をさせてもらっていると思います」
さまざまな工程の中でも、小島が特に得意とするのが“底付け”。アッパーを木型に吊り込み、中底・本底を取り付けていく、靴作りのハイライト的工程です。
「自分のこだわりとしては、アウトラインの取り方に気を遣っています。アッパーのデザインによってラインの取り方も変えたりしていますね。美しい靴作りはバランスが大切で、どこかが少しでも狂うと全体の雰囲気が出ません。なので、集中力を切らさずに取り組んでいます。ひとつ失敗したら台無しなのでプレッシャーもかかるのですが、ブランド側のイメージを形にするうえで、職人として“できない”とは言いたくない。こっちの技術不足でデザインに制約をかけないように、技術は広く磨いていきたいですね」
アッパーを縫い上げたら、いよいよ木型に吊り込んで靴の形に。つま先とカカトは専用の吊り込み機を用いますが、美しいシェイプの要となるウエスト部分などは手作業で吊り込んでいきます。同じ木型を使っても、吊り込み方ひとつで仕上がりは大きく変わってきます。
1:木型にアッパーを吊り込んだら、ソールを繋ぎ合わせるためのウェルトを取り付けていきます。縫製自体はミシンが行いますが、オートメーションではなく靴をひとつひとつ手で持って作業するため、手仕事の技が結果に反映されます。 2:コルクを詰めたあと、アウトソールを取り付ける準備を行っているところ。三陽山長の靴は靴底に縫い目を出さないヒドゥンチャネル仕様のため、アウトソールの端に刃を入れてめくっていきます。 3:グッドイヤーミシンで縫い上げ、アウトソールを取り付けていきます。 4:底が付いたところ。この後、めくれている部分を閉じるとヒドゥンチャネル仕様に仕上がります。
──最後の仕上げまで、
“手の味”を大切に。
底が付いたら靴はほとんど完成……と思いがちですが、最後に大切な仕事があります。それが“仕上げ”の工程。ここにも、三陽山長は決して手を抜きません。仕上げをメインに担当する職人・竜田大輔は、仕上げの重要性について次のように語ります。
「完璧に吊り込んでも、よく見るとアッパーには細かな小ジワが入ってしまうものなんですね。それから、工程を進める間にホコリなどが付着したりもしています。それらを綺麗に取り除いて初めて、靴は完成するんです。小ジワは鉄のコテを使って革をならすと整えることができます。これを行わないと靴クリームが綺麗に入らなかったり、輝きが不均一になったりするので、手を抜けないところですね。仕上げの段階にも職人の手仕事が入ることによって、一足一足に味が生まれてくると思います」
出荷前に一足ずつ、職人がアッパーにクリームを入れて仕上げていきます。最後まで“ひと手間”を欠かさないのが三陽山長の信条です。
1:ヒールの側面にやすりがけを行い、滑らかにならしていきます。 2:コバクリームを塗ったあと、熱した鉄のコテを当ててコバを仕上げます。 3:一見わからないような小ジワも、コテでならして入念に整えます。 4:出荷を待つ完成品。箱に詰めれば、いよいよ店頭へ。
あらゆる工程に、
職人たちの“手仕事”を宿す三陽山長の靴。
効率は悪くても、
昔ながらの“いい靴”作りを忠実に守る。
これが、永遠に変わらない私たちの真骨頂です。
三陽山長、5つの“代表銘靴”
伝統ある和菓子店には必ず
“代表銘菓”とよばれるものがありますが、
三陽山長も20年の歴史が生んだ
“代表銘靴”を擁しています。
それぞれに異なる魅力を有した人気モデル5足、
その見どころを解説いたします。
友二郎
ブランドの哲学を象徴する
ストレートチップ
靴ブランドにとって、ストレートチップは“看板”のような存在。“基本のき”といえるベーシックデザインゆえ、靴作りに対する美意識が如実に表れるためです。この友二郎も、三陽山長の姿勢を象徴する一足。日本人にとって最も履きやすく、美しく見える形を追求した「R2010」ラストを採用し、ステッチ一針まで精緻さを突き詰めた一足です。時代を超越した普遍的デザインゆえ、一生かけてご愛用いただけるモデル。
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さりげない優美を宿す
スワンネックステッチアイレットのすぐ横には、独特なカーブを描くステッチがあしらわれています。白鳥の首のように見えることから“スワンネックステッチ”ともよばれる意匠で、シンプルなストレートチップに控えめな華を添えています。
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小ぶりなトウキャップ
ストレートチップの印象を左右するのがトウキャップ。これが大きめだと素朴で力強い印象が、小ぶりだと端正でストイックな印象が強くなります。友二郎のトウキャップはやや小ぶり。繊細なステッチともマッチしています。
勘三郎
手仕事が凝縮された
Uチップ
下で解説するとおり、世界的に見ても希少な職人技によって作られた一足。工芸品のようなたたずまいを宿す一方、程よくカジュアルなデザインのため合わせる洋服を選ばない使いやすさも備えています。スーツやジャケットに合わせてビジネスシーンに活用するのはもちろん、ジーンズに合わせて休日スタイルに取り入れてもよし。やや明るめのブラウンカーフは、経年変化によってさらに味を増すのも魅力。ラストは友二郎と同じ「R2010」。
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職人技の象徴・スキンステッチ
つま先にあしらわれたスキンステッチは、靴好きなら誰もが知る意匠。厚さわずか数ミリの革に貫通させることなく針を通し、繋ぎ合わせるテクニックです。ごく一握りの熟練職人だけが可能な超絶技。
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カジュアル使いしやすい外羽根
靴紐を通す部分のパーツが靴の上に被さる外羽根式デザインで、カジュアルな印象を発揮。友二郎と同じドレス木型との組み合わせによって、品格と軽快感を兼備したたたずまいを演出してくれます。
源四郎
品格を宿す
ダブルモンクシューズ
ラウンドトウラスト「R2010」を採用しながら、一味違う表情をたたえたダブルモンクストラップシューズ。勘三郎と同様、オン・オフどちらにも対応する万能靴です。深みのあるコーヒーカーフを採用し、大人らしい落ち着きに加え、品のいい色気も醸し出す一足に。小ぶりなトウキャップは友二郎にも通じるデザイン。端正で凛とした足元を演出できます。
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程よく主張する横顔
ダブルモンクはボリュームのあるフォルムのものが多いですが、源四郎の横顔は洗練された品のある面持ち。足元の存在感が強すぎないため、スーツスタイルにもマッチするエレガンスを備えています。
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一閃の輝きを放つバックル
シャープな印象のスクエアバックルが足元でキラリと輝き、程よいアクセントとして機能。これ見よがしには見せず、さりげない華やかさを装いにプラスできます。
弥伍郎
フィット感を追求した
ベーシックローファー
甲を短めに設定し、丸みをもたせたフォルムが愛らしい一足。とはいえ決して野暮ったくは見えず、三陽山長らしい洗練をベースにしています。ローファーは踵が抜けやすいなどフィッティングが難しいものですが、R2010をベースに開発した「R2013」ラストは日本人の足にぴったり沿う優れたホールド感を実現。一格上の履き心地を味わえると評判です。
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手縫いで施されたモカステッチ
アメリカンローファーを思わせるつまみモカは、熟練職人による手縫いで仕上げられたもの。力強い存在感を漂わせつつ、繊細さもたたえた表情がニッポン靴ならではです。
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奥ゆかしく仕上げた “窓”
甲を覆うストラップ部分にあしらわれた“窓”はコインローファーの顔といえるデザイン。ブランドによってさまざまな形状がありますが、弥伍郎のそれは小さめで奥ゆかしい印象です。
鹿三郎
トラッドな趣が薫る
タッセルローファー
房飾りのついたタッセルローファーはトラッドのアイコンシューズ。コインローファーよりもドレス感が高い靴とされ、スーツにもマッチするデザインとして知られています。弥伍郎と比べるとやや細身のフォルムで、クラシックな足元に貢献。近年人気を博している裾幅広めなパンツにも好相性で、装飾性の高いルックスでありながら万能にコーディネートできます。
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存在感ある編み紐使い
履き口からタッセルにかけてを囲む革紐は編み込みのものを採用。よりトラディショナルな趣を醸し出し、存在感を高めてくれます。モカ部分は弥伍郎と同じく手縫い仕上げ。
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定番ラストを
ローファー用にモディファイ代表木型R2010をアレンジした「R2010S」を採用。流麗なラウンドトウシェイプはそのままに、甲やヒールなどに修正を加えてローファーに最適な履き心地を叶えました。
“本当にいい靴”は
履くほど美しく育つ
三陽山長が志すのは、
履くほどに美しく育つ靴づくり。
手入れさえすれば、長く履き込んでも
決してくたびれることなく、
むしろ新品のときよりも
味わい深く“経年美化”していきます。
ここからは、三陽山長スタッフが実際に
長年愛用した、自慢の私物をご紹介。
手入れ方法やエイジングの進み方など、
愛靴の“育成記録”を語ります。
「寿三郎」20年着用
「愛用するほど、
美しいツヤが生まれてきました」
【愛用者の“育成記録”】「購入後5年くらいの間は、週2〜3回のペースでヘビーローテーションしていました。以降は少しずつ着用頻度を緩やかにして、大切に愛用しています。月イチペースで乳化性クリーム、ポリッシュ、ソールローションによる基礎メンテを行い、2ヶ月に一回程度ステインリムーバーを使ってフルメンテという、ごく普通のお手入れをしていただけですが、磨きを重ねるうちにフレンチレザーのナチュラルな光沢感が際立ち、美しいツヤ感が増していきました。小さめのトウキャップや控えめなコバ周りなど飽きのこないデザインなので、今後もマイスタンダードとして活躍してくれそうです」
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「善八郎」18年着用
「履くほど柔らかくなり、
今や全くストレスがありません」【愛用者の“育成記録”】 「週に1度くらいのペースで愛用。アッパーはシボ革で存在感があるのですが、シェイプは細身でコバの矢筈仕上げもシャープな印象。このバランスが非常に合わせやすく、ジャケパンスタイルの際に大活躍してくれました。履き込んでわかったのは、足馴染みのよさ。時を経るごとに柔らかい履き心地に育ち、非常に快適です。お手入れは月イチの定期メンテと2ヶ月ごとのフルメンテを欠かさず行っていました。18年経っても、上質な表情をキープできています」
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「友二郎」10年着用
「磨きを重ねることで、
いっそうオーラを感じる靴に」【愛用者の“育成記録”】 「スーツスタイルに合わせる王道の一足として購入しました『友二郎』はオーセンティックなストレートチップですが、10年履いても全く飽きがこず、いまだに履くと惚れ惚れしてしまいます。トウキャップが小ぶりで控えめな顔つきなのがいいですね。履いては磨き、履いては磨きを繰り返していくうちに、アッパーのツヤがよりしっとりとした味わい深いものになり、買いたてのころよりオーラが増したと思います」
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「源四郎」8年着用
「途中でラバーソールに換えて愛用中」
【愛用者の“育成記録”】 「もともとレザーソールが装着されていた一足でしたが、3年ほど履いてオールソールするタイミングが来たとき、ラバーソールにチェンジしてみました。これが個人的には大正解で、海外出張で石畳を歩くときなどは“ソールを交換してよかったな”と実感しています。スエードなので、時々ブラッシングをするだけでメンテナンスがラクなところもいいですね。履き込んでややフィッティングが緩くなったのですが、中敷やタンパッドを入れてジャストに調整しました」
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「勘三郎」6年着用
「ライニングの品質も
長く愛用できるポイント」【愛用者の“育成記録”】 「ストレートチップの『友二郎』と並ぶ定番モデルです。極めて難度の高いスキンステッチがトウに施されていて、三陽山長ならではの“匠の技”が詰まった一足。これを履いていると、足元に視線が集まっているのを意識することが多いです。長く愛用して気付いたのは、アッパーだけでなくライニングの耐久性が高いこと。なので、ソール周りを修理するだけでずっと愛用できることが発見でした」
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「弥伍郎」3年着用
「履くほどに
フィット感のよさを実感しました」【愛用者の“育成記録”】「靴紐のないローファーなので、最初はタイトめを選んで購入。2ヶ月ほどで足に馴染み、それからはクセになるほどのフィット感を味わえるようになりました。日本人の足に合わせたラストのため、カカトが抜けることもなく、ぴったりと足をホールドしてくれます。カジュアルからジャケパンまで合わせたかったので、あえてポリッシュをかけず、乳化性クリームを2週間ごとに塗ってケアしています。迷ったらコレという便利な一足ですね」
──小さな“ひと手間”の、
ファクトリーマネージャー 佐藤徳道地道な積み重ね。
“いい靴”を作るには
それしかありません