【Paul Stuart Men’s 2023 FALL COLLECTION】「最新コレクション+私物ミックス」がスタイリングをもっと面白くする!若きクリエイターがハダカにする、鴨志田康人のオシャレ論


 

 

ディレクター鴨志田康人が手がける2023年秋冬シーズンの「コレクションライン」に、自身の私物の古着を交えてコーディネート。おしゃれの達人が古着を取り入れるいろはの「い」と「ドレスの普段着としての着こなし方」を、国際色豊かなクリエイター集団によるインディペンデント・カルチャー・マガジン「MCNAI MAGAZINE」のメンバーで、神戸出身・22歳の大学生にしてクリエイター、高原健太郎が撮影。若者ならではの視点でのインタビューも必読です。

 

Photo&Text. Kentaro Takahara
Edit. FUTURE INN

 

 

ビジネスライクではない本来のスーツの楽しみ方をもっと味わってもらいたい

 

―今季のテーマが「So British」ということですが、このコーディネートのポイントから教えていただけますか。

 

タイドアップしたわりとフォーマルなスーツスタイルですが、バブアーを羽織ることによって都会的なビジネスライクなスーツスタイルでは途端になくなります。ブリティッシュスタイルというのは、原点的には“ブリティッシュカントゥリースタイル”のことを言います。

「田舎に住んでいる貴族の人がスーツを着て、自分の会社はどうなっているのかを見にレンジローバーに乗って街へ出かける」、そういう世界観です。ビジネスライクではない本来のスーツの楽しみ方というのをもっと味わってもらいたい、そんな思いもあってのスタイリングです。

 

 

 

 

―ポール・スチュアート自体はアメリカのブランドですが、イギリス的な要素を組み込んだ洋服でありながらも、どのようなポイントがアメリカのブランドらしさなのでしょうか。

 

それはポール・スチュアートに限らず、アメリカのクラシックブランド、それこそBrooks Brothersに始まりRalph Laurenもそうですし、今は無くなってしまった数多あるアメリカンクラシックブランドも含め、ルーツは英国から来ているんですね。それはアメリカに限らずイタリアなんかもそうで、やはり源流というのはイギリスにありますから。

これを語り出すと少し長くなってしまいますが、アメリカは大量消費国なので、カタログで物を売るような文化は50年代から始まっています。そのような環境においては幅広い層のお客様にわかりやすく、かつ誰にでもフィットする服を適切なタイミングで提供できるかが大事になってきますよね。ですからマシンメイドであまり絞りがないシルエットの洋服がどんどん出てきたんです。だから源流はイギリスにあるけれど、アメリカのそういった文化を介することによってどこか軽快であまりシリアスに考えないで着られるものに発展してきた、それがいわゆるアメリカンスタイル。ポール・スチュアート2023年秋冬コレクションは、素材やスタイリングでイギリスらしさを出しながらもシルエットはアメリカ的ですね。

 

 

 

 

―ありがとうございます。この1着目のような総柄のスーツの場合、ネクタイはどのように選びますか?

このようなグレンプレイドの場合は、少し深みのあるプリントでもジャガードでもいいんですが、古典的なネクタイと相性が良くて且つバブアーを羽織ることを踏まえてブリティッシュらしいVゾーンを作りました。

 

―バブアーって男臭いアイテムじゃないですか。着ることにちょっと気恥ずかしさというか、抵抗感があるような人もいるんじゃないかなという風に思って……。年齢は関係なくこういうのは着てもおかしくないですか?

自分自身は?

 

―女の子と会う時はぶっちゃけ着ることはないですね(笑)

モテないから?

 

―はい。

それで言ったらトラッド自体モテ服じゃないけどね(笑)。大前提、メンズのこういう服はエイジレス・タイムレスだし、それこそイギリスに行けばバブアーは5歳ぐらいのサイズから揃っていますよ。

 

 

 

 

 

 

―僕が今回一番伺いたいのは、アメリカに対するイメージや考え方で、というのも僕の場合、金髪碧眼といったアメリカ像はあまり無くて、どちらかというとヒップホップなどのイメージが強いのですが、鴨志田さんはいかがですか。

アイビーの文化はもちろんですが、僕が10代の頃はジャズの人気が凄くあった時代で、マイルス・デイヴィスをはじめとする黒人ないしアメリカ人のライフスタイルを軸としたカッコよさはテレビや映画を通してどっと日本に入ってきていたので、ヨーロッパのカルチャーに比べると親しみや憧れがあったのは事実です。

 

―初めてアメリカに行かれた際にギャップは感じましたか?

思ったほどなかったね。初めてアメリカに行ったのが80年代後半で、雑誌で見ていたお店自体はだいぶ変わっていたけど、特にマンハッタンの建物は昔と何ら変わってないし、イエローキャブやマンホールから出ている煙は、映画『タクシードライバー』の世界観だよね。

 

―昨今のアメリカについての印象はありますか。

アメリカに限らないけど、やっぱりブティックがどんどん無くなっているのは残念ですよね。最初に行った80年代のミッドタウンあたりを歩いていると、スーツ姿の格好いいマディソンボーイがいたけれど、今はネクタイを締めている人もグッと減りましたよね。時代の流れなのでしょうがないけど、個人的には少し寂しいなとは思いますね。

 

―コレクションのインスピレーション源は、古き良きアメリカンブリティッシュじゃないですか。少し踏み込んだ質問ですが、そのスタイルに共感する自分はいるものの、実際のアメリカ・イギリスの姿と比べるとあまりにも差があるように感じてしまって、クラシックな装いを現代の日本人がどのような感覚で着ればいいのかなとは思います。

物作りをしている身としてはいつも一番そこを考えますよ。ポール・スチュアートというアメリカのブランドを日本で展開する意味って何なのか? 思うのはあまりアメリカを意識するというよりも、ポール・スチュアートのアイデンティティはちゃんと守りつつも、日本の風土や環境、嗜好に合ったアレンジをすることは、リアリティを出すという意味で凄く大事なことですよね。あまりアメリカンブリティッシュとかポール・スチュアートが今向こうでどんな商品を展開しているとか、そういったことはなるべく考えないようにしています。

 

 

色柄や質感に圧倒的に現れる、英国製ツイードの本物の良さ

 

―2つめのスタイリングのポイントを教えてください。

これも“古着ミックス基本のキ”ですね。ツイードのジャケットとアーミーパンツは非常に相性の良いアイテムだし、ジャケットをドレスダウンするのにとてもやりやすい。
中にスウェットを着てもいいだろうし、ツイードというのはそれぐらいカジュアルに着こなせるジャンパー的なもので、タイドアップを意識するというよりはもっと普段羽織るアウターとして考えてもらえれば、必然的にドレスダウンができるんじゃないかな。今回のラインナップでは、大体英国製のツイードを使っています。本物の良さは色柄や質感に圧倒的に現れるので。

 

 

 

 

 

 

―初めてのツイードの選び方はありますか。

ツイードというのは自然の中から色を取り出してミックスさせているので、色合いがナチュラルじゃないですか。茶系、グリーン系などいろいろありますが、何色がいいというよりは自分が純粋に興味のあるものでいいと思いますよ。ツイードに変な色ってそうそうないので。

 

―若者がツイードのジャケットをジャストサイズで着ると少しギャップがあるように感じるケースが多いのですが、サイズ感は自由なんでしょうか。

若い子はオーバーサイズで着るといいと思いますけどね。店員さんに勧められるサイズが決して良いとは限りませんから。今日着ているツイードは、撮影があるので慌てて昨日洗濯機を回して。ツイードを新品で着るのはやっぱり嫌じゃないですか。

 

―本当ですか!? 裏地は大丈夫なんですか?

大丈夫ですよ。良い感じにヨレます。

 

―僕は一回ツイードで失敗をしていて……。19歳の頃ツイードのジャケットを買った際、ちょうど読んでいた白洲次郎さんの本の影響で、軒下にワンシーズン吊るしていたことがあったんですが、いざ着ようと思って裏を見たらカメムシが棲みついていて泣く泣く処分しました。

 

 

 

 

カジュアルな服装がかっこいい人は、ドレスの着こなしも上手です

 

―最後のコーディネートもポイントからお聞かせいただけますか。

ネイビーブレザーにデニムは、ドレスダウンの定番中の定番だと思います。コンサバに行くんだったらオックスフォードのボタンダウンでもいいでしょうが、今回はデニムのウエスタンシャツを合わせて70年代っぽい感じも出したかったので、デニムは517という少しフレアしているシルエットを選んで、靴はクロコダイルのビットローファーを合わせたというまとめ方です。

 

 

 

 

―このジャケットの特徴を教えてください。

これはツイードのブレザーです。シェットランドツイードというハリスツイードよりもう少し柔らかい生地感です。ブレザーというとフランネルとかメルトンとかもう少しヌメっとした生地が基本なんですが、シェットランドツイードを使うことで少し粗野な感じが出て、デニムとはより相性が良いです。

 

―デニムシャツにデニムっていうのは結構定番なんですか?

定番だよね。

 

―僕の周りではあまり見たことがなくて、逆に新鮮です。デニムジャケットにジーンズをセットアップみたいな感じで着ることはあるんですが。

60年代かもしれないけど、それは若者の基本中の基本だった(笑)。

 

―デニムにベルトをされていない理由などあったりしますか。

いや、気分です。例えばスティーブ・マックイーンなど、憧れの人たちがデニムにベルトをしているスタイルを見たことがなかったことの影響かな。

 

―僕自身も含めて、今の若者って特定の何かに影響を受けたみたいなのがないような世代なんですよね。

僕が若い頃は海外の物事に対してすごく貪欲で敏感だったし、飢えてた時代だったから海外がお手本みたいな風潮はありましたね。

 

―今や鴨志田さんはイタリアなど海外に行かれたら、日本のウェルドレッサーの一人としてカメラを向けられることも多いと思いますが、かつての憧れでもあった海外で認知されるようになったことについてどう思いますか。

日本はこの半世紀ですごく成熟したし、いろいろなものに影響を受けそれが日本人の中に定着して、逆に日本から発信するようになったという流れがあるじゃないですか。それをずっと体感してきているので、海外から影響を受けて、それを自分たちのものにして、逆に日本人のマインドをうまくミックスさせたことが、結果的に海外から注目を浴びるようになった理由の一つかと思います。

 

 

 

 

 

 

―この前、三國清三シェフのインタビューを拝見して、その中でおっしゃっていたのは、2020年にフランスで日本のシェフの方が初めてミシュラン3つ星を取られたらしいんですよ。三國シェフの時代はそういうのは絶対考えられなくて、それは日本人が本場に認められたということは快挙だけれど、その一方現在日本でフレンチをやっている人は、三國シェフの時代と比べて何かこぢんまりやっているように見えるとおっしゃっていたんですね。料理の世界に限らず、僕ら世代ってどのジャンルにおいても何となくこぢんまりしているように見えているのかなとふと思ったんですけど、何か若い世代に対して良くも悪くも思うことはありますか。

確かにパリとかニューヨークのレストランやカフェで日本人が絡んでいるものはどことなく落ち着いていて温もりがあって決してきらびやかではなくてそれでいて味は凄く美味しい、そんなお店が増えてきていますよね。僕は昔から日本人の味覚って基本的には変わっていないと思うんですよ。むしろ海外の人が昔は醤油の味を受け付けなかったのが、ポジティブに日本のテイストを味わうようになって、そのおいしさに気がついていくじゃないですか。やっぱり本能的には馴染んでない味は拒絶するじゃないですか。それが時代を経て受け入れるようになって、今世界的なブームになっている。

日本人の繊細さとか規模感の小さいものって、日本の島国という小さな土地で育まれる良さ、ある意味ローカルな良さだと思います。それが逆に海外の人にはすごく新鮮に見えるんだと思います。自分の場合はやっぱりグローバル化されすぎた物事って何か味気ないなと思うし、日本人の良さというのはローカルの良さにありますよね。それこそ今地方再生で若い子たちがいろいろなことを始めているのはすごくいいことだと思うし。

ただ若い子たちにあえて言いたいのは、日本の中だけでやるのも悪いことではないけれど、外を見て日本の良さっていうのを気づいてからやるべきじゃないかなって感じる。ちょっと小さな幸せになり過ぎているんじゃないかとは少し思います。

 

―比べる対象がないと、日本らしさのニュアンスが分からない部分もきっとありますよね。それが冒頭でお話していたリアリティに繋がってくるんですかね。

そうかもね。

 

―ポール・スチュアートの洋服はどんな感じで着こなすとリアリティが出ますか。

全部綺麗なものでまとめるというよりは、一点そこに着込んだものとか、ノイズの入るようなものを入れることでドレスダウンする着こなしが、僕はリアリティを一番感じるところですね。

今回は古着を取り入れるいろはの「い」を紹介したくて、そういう着こなし方というのをこの世界の人ってあんまりしないんですよ。平日は仕事着としてドレス、休日はカジュアルと分けるんじゃなくて、ドレスの普段着としての着こなし方もあるんだよっていうことを伝えたかった。カジュアルな服装がかっこいい人ってドレスの着こなしも上手なので、そういう男性像を目指してほしいなと思います。そこにリアリティがあるかな。

 

 

 

 

取材・撮影
高原健太郎(たかはら けんたろう)
フォトグラファー、ビデオグラファー。大学に通う傍ら、インディペンデント・カルチャー・マガジン「MCNAI MAGAZINE」の制作を行っている。

 

SARTO × Arteferro × Paul Stuart AOYAMA イベント開催
ポール・スチュアート青山本店では、10月7日(土)・8日(日)11:00-17:00の日程で、高い技術を持つリメイクのプロフェッショナルSARTO、こだわりの高級衣類クリーニング店のArteferro(アルテフェロ)とコラボレーションし、リメイク・リフォーム・クリーニングイベントを開催いたします。
※リメイク・リフォーム・クリーニング対象商品は過去にポール・スチュアートで購入された商品(メンズ・ウィメンズ)になります。
詳細は こちら

ポール・スチュアート 青山本店
TEL 03-6384-5763
東京都港区北青山二丁目14-4 ジ アーガイル アオヤマ 1F
営業時間 11:00~20:00
併設するバー「THE COPPER ROOM(ザ コッパー ルーム)」
18:00~24:00 ※同一テーブルでの会食は4人以内
※酒類の提供を再開しております
これまで同様、感染防止対策を徹底し営業いたします。
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