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【メンズディレクター鴨志田康人の秋冬コレクション解説】
'70〜80年代と2026年に見出す、時代の共通点


2026年秋冬のコレクションラインは、「Nu-Country」をテーマとしました。
コーデュロイやツイードといった伝統素材を、モダンな色彩とデザインで表現ーー端的にいうとこういったご紹介になるのですが、その心はもう少し大局的なところにあります。ちょっと大袈裟にいえば、ドレススタイルの新たな可能性に挑戦するコレクション。そんな目標を掲げて取り組みました。
メンズウェアの常識が変わった'70〜80年代

コレクション全体のムードとして構想したのは、1970〜80年代の空気感。僕もリアルタイムで経験していますので、今でもありありと思い出せます。イタリアから新進気鋭のデザイナーが台頭し、メンズスタイルに大きな変革がもたらされた時代。現在の視点からすると “モードファッションが隆盛した”と感じるでしょうが、当時は今ほどモードとかトラッドとかいったカテゴライズの意識は低かったので、僕のような人間にとっても、イタリアンデザイナーたちが提案する服はただただ新鮮で、大いに心惹かれましたね。実際自分のワードローブにも取り入れて、手持ちの服と組み合わせて楽しんでいました。

振り返れば、英国を源流とする厳粛なクラシックの枠を飛び出して、自由な解放感を味わいたいという機運が人々の間に満ちていたように感じます。それは日本だけでの現象ではなく、当時の米国ポール・スチュアートもイタリアの影響を受けて随分と様変わりしていました。もともと英国製を中心としていたポール・スチュアートの品揃えは、このころからイタリア製に軸足を移行。控えめではあれども、凡庸に甘んじるべからずーーそんな哲学を根底にもつポール・スチュアートにとって、時代に沿った進化はごく自然なことだったのです。

翻って現在。気候変動やライフスタイルの多様化、価値観の変化などに伴って、メンズウェアは今、かつてないほど大きな転換点を迎えています。ビジネススタイルにしてもステレオタイプな服装規程はもはや過去のものになりつつあり、多くの方々がひと昔前の堅苦しさから解放されて、新しい時代の装いを実践したいと感じているのではないでしょうか。 この状況が、'70〜80年代のそれと非常によく似ていると僕は感じました。ですから今季、この時代に再びインスピレーションを求めたのには、単なるファッショントレンドの視点を超えた理由があるのです。
シーズンビジュアルでも“自由なムード”を表現

シーズンカタログのビジュアル制作も、'80年代テイストを強く意識しました。昔のカタログって、一冊まるごとモノクロだったり、服がほとんど見えていなかったり、今見ると大胆というか破茶滅茶でしたよね。でも、それが想像力を掻き立ててブランドの世界観を鮮烈に伝えていましたし、ファッション写真史に刻まれる名作も多数生まれました。今は時代が違いますから、往時そのままのアプローチを実践するのは難しいものがありますが、アートディレクターやフォトグラファーと意見を交換して、とてもいいバランスに表現してもらえたと思います。モノクロやソフトフォーカスを多用して、とても味わい深いビジュアルになりました。
2026年秋冬を象徴する注目アイテムは?

さて、今季を象徴するアイテムもいくつかご紹介しておきましょう。目新しいところでは、これまでになかったデザインのアウターを企画しました。左はイタリアのレザーファクトリーに生産を依頼したスエードのボンバージャケット。これまではヴィンテージの趣を活かしつつアップデートしていましたが、今季はシルエットやデザインをもっと自由にアレンジしています。ふんわりと身頃がふくらむようなシルエットが特徴ですね。
右のベルテッドコートは、世界的にも屈指の技術力を誇るサンヨーソーイング 青森ファクトリーで生産したもの。トラッドなバルカラーとは趣がかなり違っていて、丸みのある襟や肩周りにボリュームのあるラグランスリーブがポイントです。素材は'70〜80年代の定番だったマイクロファイバーをイメージして、ヌメりのあるピーチスキンを選びました。

ジャージーのセットアップも、いかにもビジネスウェア然としたものではなく、新しいリラックスエレガンスを表現できる一着に仕上げています。ジャケットはゴージを下げ、ラペルのノッチ部分に丸みをつけたデザインが特徴。パンツはインバーテッドプリーツを採用して、定番とはちょっと違う雰囲気を狙いました。

シャツも個性的なものを揃えています。こちらは近年ではほとんど見かけなくなった杢調の生地によるシャツ。ワークシャツのディテールを取り入れていますが、タイドアップしてスーツに合わせても格好いいですよ。ちなみに襟羽根の内側にスナップボタンをつけていて、立体的な表情を演出できる仕掛けになっています。これも昔はしばしば見られた仕様ですね。

今季は思い切って新しいことにトライしてみましたが、その甲斐あって大切な気づきを得ることができました。それは、クオリティさえ担保すればクラシックの枠組みにとらわれる必要はないということ。ポール・スチュアートの歴史を紐解いてみても、ときには大胆に伝統から逸脱してニューヨークの洗練を体現してきましたし、その際に拠り所としてきたのはクオリティのよさだったわけです。それを僕なりのアウトプットで表現したのが今季のコレクションですので、クラシック好きな方にもきっとご納得いただけると思っていますね(談・鴨志田康人)