鴨志田康人×ラルフ・オリエンマ 最新コレクションを語り合う「アングロ・アメリカンスタイル」のさらにその先へ


 

2019年秋冬コレクションより、『ポール・スチュアート』の日本におけるディレクターに鴨志田康人が就任し、本人自ら「まずメンズドレスに関わる業界人に忌憚なく見てほしい」と、ポール・スチュアート青山店2階でプレビューを開催した。 鴨志田が手がける日本限定コレクション「KAMOSHITA COLLECTION」を纏ったトルソーが数多くの来賓を出迎える中、このために来日したクリエイティブディレクターのラルフ・オリエンマ(RALPH AURIEMMA)とトークショーも開催。旧知の二人が互いのポール・スチュアート観を語り合った。

 

Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN

 

 

コンチネンタルな街・NYにこそ似合う“混血の美”があるポール・スチュアート

 

ラルフ・オリエンマ(以下オリエンマ) ポール・スチュアートは1938年にNY・マディソンアベニューで創業した歴史あるブランドです。本店は広大なスペースを持ち、ストアは「メンズクラブ」をイメージして作られています。店内にはタペストリーを飾っているスペースがあり、お客さまからは「なぜ洋服を並べないのか」と聞かれますが、私たちは豪華な雰囲気を感じてもらいたいという思いで空間を贅沢に使っています。

 

鴨志田康人(以下鴨志田) 高校生の頃、メンズファッション誌を夢中になって読んでいて、NYにあるメンズショップは地図を見ないで歩けるくらい暗記したものです。ポール・スチュアートはいつか必ず行きたい店の一つでした。青山店が81年にオープンして初めて店に入りましたが、当時のアメリカン・トラッドの印象とは一線を画す“大人の店”で、若い自分には随分ハードルが高く感じて、憧れのブランドというのが第一印象でした。

 

オリエンマ ポール・スチュアートはよく知られているイラストの「MAN ON THE FENCE(マン・オン・ザ・フェンス)」がブランドアイコンで、それはNYという街が作り出すスタイルそのものです。また、本店は「Madison Ave. at 45th St.」にあり、普通はMadison Ave.の前に番地が付くのですが、本店の住所には付きません。政府機関等を除いて小売店でこのような住所を持っているところは他にはないのも秘かな誇りです。

 

鴨志田 NY本店に初めて行ったのは80年代後期の30代のときで、扉を開けるのもビビるほど大人の店構えでした。アメリカのブランドなのに“洗練”という言葉が一番合うと思ったものです。クラシックには生粋の純血の良さもありますが、ラルフさんが以前に「ポール・スチュアートはアングロ・アメリカンスタイル」と言ったのをよく覚えていて、ポール・スチュアートには混血の匂いがあります。コンチネンタルな街NYにこそ似合う“混血の美”を感じますね。

 

 

ファーストコレクションは、成熟した大人のための社会性あるコレクション

 

鴨志田 ディレクターとして初めて手がけた2019年秋冬コレクションは、成熟した大人のための社会性あるコレクションを目指しました。ポール・スチュアートは80年代からエグゼクティブなビジネススーツブランドとして見ていて、青山店の店構えもその品揃えも当時から品格は変わっていません。そこに、大人がリラックスして着られるスポーツウェア(カジュアルウェア)を充実させたい。自分が初めてにNY本店に行ったときに感じたインパクトを、今の時代に与えられるコレクションを作っていきたいというのが、夢でもあり目標でもあります。

 

オリエンマ 鴨志田さんが作り出すスタイルは長年見てきて、憧れと同時に尊敬しています。それは言わば「エフォートレス・エレガンス」で、非常に自然体なところに鴨志田さん独自のスタイルがあります。クラシックというとアップタイトで堅い感じになりがちですが、リラックスした感じでありながらグラマラスなところに鴨志田さんのスタイルの素晴らしさがあります。
※エフォートレス=無理のない、肩肘を張らない

 

鴨志田 ご存知の通り、ラルフさんは「フィニアス・コール」(日本未展開)のデザインディレクターでもあり、今日、自分が締めているネクタイもフィニアス・コールで、ラルフさんの仕事には常に注目しています。彼が手がけるコレクションを見るたび、服に対する情熱を感じるし、クリエーションのバリエーションが豊かで、クオリティが高くて、とてもエレガントです。

 

オリエンマ ありがとうございます。今日、鴨志田さんが手がけたコレクションを初めて見ましたが、クラシックと現代の折衷的でありながら、独自のアイデアがあって、とてもインスパイアされる部分が多かった。鴨志田さんは自分の中で「サルトリアルヒーロー」に位置づけていて、ピッティ・イマジネ・ウオモなどでも鴨志田さんが何をどう着こなしているかを注意深く見るようになりました。今回、ポール・スチュアートの仲間に加わっていただいたので、一緒に「いままでにない新しいレベルの服を作り出せる」ことに幸せを感じています。

 

鴨志田 ラルフさんにそう言っていただけてとても光栄です。ポール・スチュアートが長年に渡って表現してきた「アングロ・アメリカンスタイル」を僕なりに解釈しながら、グラマラスなスタイルを作る情熱家のラルフさんと共に、ポール・スチュアートの新しい魅力を作り出していきたいと思います。

 

 

Profile

 

鴨志田康人(かもした やすと)

1957年東京生まれ。多摩美術大学卒業後、株式会社ビームスに入社。販売、メンズクロージングの企画、バイイングを経験。1989年に退社し、ユナイテッドアローズの創業に参画する。2007年に自身のブランド「Camoshita UNITED ARROWS」を立ち上げる。日本はもちろん、欧米やアジアでも多くのファンを持ち、アジア人では初めて第84回「ピッティ・イマジネ・ウオモ賞」を受賞。2018年に自身の会社を設立し、2019年秋冬コレクションより、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターに就任する。

 

ラルフ・オリエンマ(RALPH AURIEMMA)

米国系の会社で米国市場向け製品の開発を担当後、シャツの「ロレンツィーニ」とトラウザーズの「インコテックス」で米国市場向けのデザインと企画を9年間担当する。その後、「ラルフ ローレン・パープルレーベル」のデザインを担当。2006年にポール・スチュアートに入社し、「フィニアス・コール」の2007年秋冬コレクションに参加し、デザインディレクターを務める。2014年に新CEOが就任し、ポール・スチュアートのクリエイティブディレクターに指名される。