【Paul Stuart Culture CLUB ⑩ Toshiyuki Sai × Haruki Murakami 2023】 「ハルキスト」として、新刊である『街とその不確かな壁』についての話


 作家・村上春樹さんの6年ぶりの長編小説『街とその不確かな壁』(新潮社)が4月13日に刊行され、話題になっています。同書は、40年以上前に文芸誌に発表された中編を新たに書き直したもので、長年、村上作品と共に歩んできた読者にとって感慨深い最新刊です。


 自身のインスタグラムに、「羊をめぐる冒険から、村上本はすべて初版で買ってるハルキストです。久しぶりの新作に胸躍らせながら序章を読んだらこれが村上ワールド炸裂で、まるでポール・マッカートニーがブラックバードを耳元で生演奏してくれているみたいな懐かしさと特別感と高揚感。「街は高い壁にまわりを囲まれているの」ときみは語りだす。ほらね。高い壁と言って、エレンやミカサを連想するようでは、まだまだです。今日は雨。雨の休日も悪くない」(原文ママ)と綴ったのは、雑誌『POPEYE』のフリー編集者を経て、制作クリエイター集団ライノを設立し、ウェブマガジン「HOUYHNHNM(フイナム)」などを立ち上げた、株式会社ライノ代表の蔡 俊行さん。2023年のGWは村上春樹の新作とご一緒に……。


Photo. Yoshimi Seida
Edit. FUTURE INN

 

I know him

 オンライン英会話で勉強中の知人が、アメリカ人講師との会話で村上春樹の話題になり、「I know him!」と得意げに言ったら、「え、知ってるの? すごーい」と驚かれたそうだ。その後もなにか会話が噛み合わない。よくよく聞いてみるとknowという動詞で直接目的語を取ると、その人を直で知っているという意味になると説明されたそうだ。会ったことがある知人や友人であればいいけれど、見たり聞いたりしたことのある人については、I know of him。英語は難しいと嘆いていた。

 

 確かに of よりもI know about him と取った方が、我々日本人にはしっくりくるかもしれない。

 

 村上春樹についてなんか書いてくれと、ここのブランドディレクションを行っているOくんから頼まれ、そしてぼんやり歯を磨いていた時、上の話を思い出した。

 

 高校をやめてぶらぶらしていた時、なんとなく姉から借りて読んだのが『風の歌を聴け』と『1973年のピンボール』。なんだか不思議な話でつかみようのない物語だと思ったが、なんだかすいすい読めた。そしてこの「鼠三部作」のトリを取る、『羊をめぐる冒険』。発売されたのが、1982年。

 

 ここからずっと村上春樹の長編小説は、初版で買っている。つまり熱心な彼の長編小説の読者というわけだ。

 

 『羊~』を読み始めたのが、一人暮らしを始めたばかりのタイミング。そういうこともあり、物語中に出てくるライフスタイルに影響を受けないわけがない。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、パスタを茹でるなんて、告白するとすこし顔が赤くなりそうなことをしていた。さすがに双子の姉妹とは寝なかったけど。

 

 物語がなにを暗示しているのか、暗喩しているのか、よくわからないまま、主人公のライフスタイルにかなりの影響を受けたものだ。孤独な人間というわけではないが、心ならずもそうなることがある。そんな時は、物語の人物により感情移入することになる。

 

 それよりもなにしろ文体が新鮮だった。まるで海外小説の翻訳を読んでいるような。

 

 ジャズ、ビートルズ、クラシック、作中に出てくるCDも買ったりした。いまのようにYouTubeや音楽配信サービスで手軽になんでも聴けない時代。『ノルウェイの森』なんてビートルズの「サージェント・パーズ・ロンリーハーツ・クラブバンド」を繰り返し聴きながら読んだ。同タイトルをずっとローテーションしながら執筆したと書いてあったから。

 

 こうみるとかなりイカれたファンぶりですね。

 

 ただファッションは、好みの分かれるところでそのまま踏襲というわけにはいかない。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』にポール・スチュアートが出てくるが、それはそれ。ぼくには縁がなかった。すみません。

 

蔡さんのインスタグラムより

 


 新作も発売の週末に読んだ。『街とその不確かな壁』。

 

 作品に出合ってから40年あまり。いまだに不思議な物語に幻されるのだが、そんなことは一向に気にならない。壁は何を象徴しているとか、本体から引き離された影は何を投影しているとか、子易さんはなんでスカートを履いているのか、そんなことがしっくりこなくてもまったく大丈夫。彼の文章のリズムが好きなのだ。もちろん小説宇宙自体が。

 

 そして独特の比喩。『スプートニク』だか『カフカ』だったかその前後か、何かのインタビューで語っていた(もしかするとエッセイかも)比喩を抑えたか増して書いたという作品はなんだったか? もう本は処分したし、記憶は曖昧だけど、その比喩表現を読むだけで価値がある。

 

 「キュウリのようにクール」。村上文体というか、独特の比喩表現のひとつ。

 

 読んだ時なんかピンとこなかったが後になって読んだものの中に、実際の英語でこういう表現があると記されていた。
 “Cool as a cucumber”。
 “Fuck you”を「おたんこなす」と訳したのは野崎孝。村上スタイルは「ファック・ユー」である。柴田元幸ではないが、翻訳は時代と共に変化するのである。
 長編小説の合間に翻訳作品を挟むのが、氏のスタイル。
 物語の主人公のように、規則正しい生活も有名だ。執筆して、走って、泳ぐ。
 ちなみに冒頭の知人は、泳いでるプールのジムが同じだそうです。
 I know himでもよかったかも知れないね。

 

蔡 俊行(さい としゆき)
編集者。コピーライター/プランナー。株式会社ライノ代表取締役。雑誌『フイナム・アンプラグド』編集長、フイナム、およびガール・フイナム発行人で統括編集長を務めながら、ファッション・ライフスタイル関連企業のブランディングなどを手掛ける。

ブログ
https://b.houyhnhnm.jp/sai_toshiyuki/

インスタグラム
https://www.instagram.com/sai_toshiyuki/

 

 

株式会社ライノのオフィスの書棚

 

 

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ポール・スチュアート青山本店のエントランスから見渡せるストア中央コリドー(回廊)で、5月18日(木)まで、聴覚×嗅覚の共感覚 - 肌で聴く音楽 - 「LA NUIT(ラニュイ)」と、無添加ドライフルー ツブランド「Yvaya Farm(イヴァヤ・ファーム)」のコラボポップアップ同時開催しています。
また、併設のBAR「The Copper Room」では、LA NUIT(ラニュイ)との香りとお酒のマリアージュとして上記期間中、限定ドリンクを販売していますのでご利用ください。

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ポール・スチュアート 青山本店
TEL 03-6384-5763
東京都港区北青山二丁目14-4 ジ アーガイル アオヤマ 1F
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併設するバー「THE COPPER ROOM(ザ コッパー ルーム)」
18:00~24:00 ※同一テーブルでの会食は4人以内
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