ポール・スチュアート 日本におけるディレクター 鴨志田康人
もう一歩成熟した大人の世界に、新しい風を吹かせたい
『ポール・スチュアート』の日本におけるディレクターに就任した鴨志田康人は、メンズドレスの“クラシック”の魅力を、「クラシックの良さは、揺るぎない圧倒的な存在感とアイデンティティーがあるところ。時代にもまれて磨かれた絶対的な美しさがあります」と語る。
Photo. Shimpei Suzuki / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN
メンズはエイジレス。歳ではなくクオリティで語るもの
――マスコミや業界人に向けて初お披露目となった2019年秋冬コレクションのプレビューの反響はいかがでしたか。
鴨志田康人(以下鴨志田) プレビューを見た方から多かった声は「鴨志田さんぽいね」というものでした。自分の中にあるポール・スチュアートは、若い頃から憧れ続けたショップ、ブランドであり、自分がポール・スチュアートで体験したファーストインプレッションの感動やインパクトを見る方に与えたいなと思って初めてのコレクションに取り組みました。
――ポール・スチュアートという大看板は意識されましたか。
鴨志田 ポール・スチュアートは今のセレクトショップの元祖のような店です。世界中の優れたファクトリーやブランドとモノ作りに取り組んでいますが、商品はあくまで『ポール・スチュアート』で勝負しているのがカッコイイ。普通ならダブルネームなどにして分かりやすく盛ってしまいますが、自信を持ってポール・スチュアートとして並べています。それが敷居の高さに繋がっていますが、今の時代にはとてもいいなと思います。
――敷居の高さが、どうして今の時代にいいのでしょうか。
鴨志田 ポール・スチュアートの店は、まさに「大人の世界」で、ジェントルマンズクラブに入りにくい感覚と同じですが、そういう服屋があってもいいし、成熟した男性のためのブランドでありたい。店はオープンですが、ある程度、着る人を選ぶ服、社会性のある人物のための服です。メンズの装いはエイジレス、歳ではなくクオリティで語るものです。
2019年秋冬版の「完璧なポール・スチュアート」を紹介します
――今回のファーストコレクションの中で特にお気に入りのスタイリング、アイテムを教えてください。
鴨志田 自分が考える「完璧なポール・スチュアート」は、ブランドアイコンのMAN ON THE FENCE(マン・オン・ザ・フェンス)のポーズをさせたスタイリングです。シグネチャーモデルのボリューミーなオリジナルのラップコートと、ブランドカラーのラベンダーのシャツ、アールデコ調の柄のネクタイなど、色使い、素材感、スタイリングどれをとっても完璧。また、ウィンドウディスプレイしているグレーのスーツも好きですね。
――鴨志田さんのディレクションの中心アイテムは何ですか。
鴨志田 それはスーツです。どこに出ても恥ずかしくないインターナショナルに通用するスーツを核に、そのスーツを理解する人のためのカジュアルのワードローブが、ディレクションのテーマです。たとえば、これまでのポール・スチュアートにはなかった80年代のヴィンテージライクな匂いがするボリューム感あるコートと、アメリカンクラシックなボタウンダウンシャツのタイドアップ、そしてニューヨーカーがいかにも着ていそうなスエードの70年代調のコートたちが共存しているのが、僕の中のポール・スチュアートです。
――なるほど。ボリューム感たっぷりのコートは、クリエイティブディレクターのラルフさんが「1930年代のムービースターのようだ!」と大変気に入っていました。
鴨志田 ポール・スチュアート流のスタイルを確立するのが自分の役割で、今は「ちゃんとしたモノ作り」が新鮮に感じますね。
ディレクションで大事にしているのは「スタイル」
――今回、日本におけるディレクターに就任したことで、鴨志田ファンも注目していると思いますが。
鴨志田 自分がメンズドレスのディレクションで大事にしているのは「スタイル」です。つまり、その人に似合うスタイル=コーディネーションですね。コレクションを作る上での醍醐味は、クラシックの膨大なアーカイブの中から何をピックアップしてアップデートしていくかなのですが、さらに「それをどう合わせたらクールに見えるか」が一番大事にしているところです。
――ポール・スチュアートで何をなし遂げたいですか。
鴨志田 NYと連動しつつ、日本のブランドにはない「もう一歩成熟した大人の世界」を作りたいですね。スーツを中心に、ポール・スチュアート流のスタイリングに新しい風を吹かせることに期待されているのを感じます。
Profile
鴨志田康人(かもした やすと)
1957年東京生まれ。多摩美術大学卒業後、株式会社ビームスに入社。販売、メンズクロージングの企画、バイイングを経験。1989年に退社し、ユナイテッドアローズの創業に参画する。2007年に自身のブランド「Camoshita UNITED ARROWS」を立ち上げる。日本はもちろん、欧米やアジアでも多くのファンを持ち、アジア人では初めて第84回「ピッティ・イマジネ・ウオモ賞」を受賞。2018年に自身の会社を設立し、2019年秋冬コレクションより、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターに就任する。