STYLE LESSON SPECIAL【DIRECTOR TALK】 新しい生活様式が求められる今、大人のFun to Dressとは
ポール・スチュアートの日本におけるディレクターの鴨志田康人と、ウィメンズディレクターの見上きよみの初めての対談が実現。実は旧知の仲である二人は、「気心が知れていて言葉が通じるのは心強い」と互いを認め合います。今回は、これからのメンズ/ウィメンズドレスの価値観の変化や装うことの意味、さらに待望の秋冬コレクションのテーマとキーアイテムをご紹介します。
次の世界と自分が変わるために、ユニフォームを脱ぎ捨てよう
世界中を痛めつけている新型コロナウイルスによる影響で、ファッション業界には逆風が吹いていると言われ、お客様は何を着れば(買えば)いいのか迷っていると思います。長く業界をリードしてきた二人は、この現状をどう見ているのでしょうか。
鴨志田 確かにコロナ前に比べて出かける回数は減っているでしょうが、服は生活を楽しむものだし、気持ちを上げてくれるものだと思っているので、ポール・スチュアートでは、ユニフォームではない、社交的なスーツやジャケットに力を入れています。気に入った服を着て出かけるときの「よそいき=高揚感」は変わらず特別なものですね。
見上 そうですね、Tシャツやイヤリング1つ変えるだけで、その日の気分を盛り上げてくれるし、新しい服を褒められたり、こっそりダイエットして鏡の前で自惚れたり、自己肯定が前提であってほしい。ファッションは自己表現の手段なので、スタイリングが大切です。コロナ禍の外出自粛中に断捨離しましたが、手元に残したのは応用の効くツインセットや穿き心地の素晴らしいパンツなど、どんなスタイルにもマッチするベーシックだけど色褪せない服です。
鴨志田 見上さんも断捨離したんだ。自分も断捨離をして残ったものを見ると、クオリティの良いもの、デザイン性や感性のバランスが良いもの、その時代の作り手の思いや作られた土地の匂いが伝わってくるものなんですね。特にメンズは、時代を超えてタイムレスに着られるものが多いので、改めて“思いがあるもの”を作っていきたいなと思いました。
ポール・スチュアートのメンズ/ウィメンズがこれから目指すもの
鴨志田 様々な要因で、スーツが仕事着=ユニフォームでなくなりつつある今、やっとスーツをおしゃれ着として楽しめるムードが醸成されてきました。堂々とドレスアップできるのは大歓迎で、装うことで生活の中にメリハリが生まれて、良いリズムができると思います。
見上 私にとってポール・スチュアートのキーワードは「きちんと感」です。時代はコンフォートな着心地を求めていますが、ジャケットやスーツがなくなることはありません。リモートワークが多くなっても、外食やコンサートを楽しむ機会も進化した形でできるはず。だからドレスアップの高揚感は伝え続けたいですね。
鴨志田 ファッションは時代時代の移り変わりを反映するものなので、変わって当たり前ですが、トレンドよりも自分のattitude(アティチュード)の方が断然カッコイイ時代になっています。作る側ももっとアティチュードをアピールすることが必要だし、ショップや品揃えを通して、ポール・スチュアートらしさを強く主張したいですね。
見上 たとえば、メンズではどんなスタイルをアピールしたいのですか。
鴨志田 それは“気持ちが上がる服”ですね。理想は、スーツを着ていても「何をしているのか分からない人」(笑)。ネクタイは締めるけど、開放的なスタイルを提供していきたいし、それがポール・スチュアートの面白さ、価値だと思っています。見上さんは?
見上 洋服以外の発信の必要性も感じますね。音楽やアートなどファッション以外にも気持ちを上げてくれるものは多くて、トレンドって何年か前に観た映画や話題になった絵画などが頭に残っていて、それがクリエーターのアイデアとシンクロしてできると思っているんです。
鴨志田 その考え方は面白いね。
見上 トマトはトマトの美味しさをちゃんと伝えるように、ツィードはツィードの楽しさをこの色でちゃんと見せることが大事。特に色は大事で、「今年はピンクのツィード」とか。去年、美味しかったのはトマトサラダだったけど、今年はトマトスープねという提供の仕方ですね。
鴨志田 料理の例えはいいね。家にいる時間が長くなって、料理をする時間が増えると、いつもと違うメニューを作ってみたくなりますよね。こんな情勢ですが、絶対ポジティブになる方が楽しいし、トライしてみれば面白いし、失敗してもコツを掴んでいったりすることこそ醍醐味なのは、おしゃれも全く同じです。いろんな服に挑戦して、新しい自分を見つけて、それがアティチュードになって、世界を広げていくことが、その人のスタイルになっていきます。
【WOMENS】美術館の絵のようなきれいな色合いと大胆なプリントを、新しい季節に
ポール・スチュアートのメンズ/ウィメンズコレクションのシーズンテーマは、ポール・スチュアート NY クリエイティブディレクターのラルフ・オリエンマとディレクターの二人がミーティングを重ねて作り上げるもの。日本にマッチしたコンセプトを練り上げますが、メンズとウィメンズのマーケットの違いを加味しながら、ディレクションはそれぞれの立場で発信します。
見上 今シーズンのポール・スチュアート ウィメンズのテーマは、「Fabric Remix(ファブリック リミックス)」で、2つのサブテーマ、「Tableaux de la galrie(タブロー ドゥ ラ ギャルリー)」と「Check Please(チェック プリーズ)」があります。秋冬という素材感を楽しむ季節に、70年代のパターンモチーフにインスピレーションを受けた色と柄を美しく纏ったり、チェック柄を楽しく着こなす提案です。
見上 まず「タブロー ドゥ ラ ギャルリー」でキーアイテムになるのが、ポール・スチュアートのスペシャルファブリックのイタリア製“シェード オフ プリント”を使ったワンピースです。秋のキーカラーの山吹色やパープルなど、きれいな色と大胆な柄がさり気なく生地に溶け込んで、さらに肌馴染みが良いウールシルク混素材。デザインはシンプルな折り返しのスタンドカラーで、ウエスト位置が高めなので脚長効果も楽しめます。
見上 ワンピースは働く女性が選びやすくて、楽に着こなせて、良い意味で主張してくれるスタイリングの鍵。ブラウスをスカートインで着るよりも体型を選ばず似合いやすい利点もあり、上下セパレートで着るよりもドレス感が出るのでお薦めします。冬にはコートを上に羽織って、足元にはロングブーツを履いてほしいですね。
見上 もう一つのサブテーマ「チェック プリーズ」のキーアイテムは、スコットランド製のチェックツィード生地を使ったダブルブレストのジャケットです。ジャケットでもコート的にも着こなせるデザインで、着心地はコートより軽く、いろんな色が混ざったきれいな色目は、秋冬にとても便利に着回せる一着。ニットの上に着たり、デニムを合わせたり、イメージの幅が広がります。
見上 ニューノーマルと言われる新しいライフスタイルの中で、スーツやジャケット、ワンピースなども、会社へ着ていくユニフォーム的なものより、TPOを楽しむオシャレ着としての視点がより大切になっていきます。好きな服をコーディネートしたら、アクセサリーやスカーフ、帽子、リップの色などで工夫して、“私らしさ”を思う存分楽しんでください。
リモートワークの普及で、モニター越しの自分を「こういう風に見えているんだ」と、客観的に見た人が多いと思います。これから始まる秋冬シーズンは、ぜひ、今まで着たことがない色、きれいな色に挑戦してください。色を着こなせば楽しくなるし、新鮮に映ります。
【MEN’S】日常をドラマティックに。装いをエンジョイすることが大人の愉しみ
鴨志田 今シーズンのポール・スチュアート メンズのテーマは、「American Glamour(アメリカン グラマー)」で、2つのサブテーマ、「American Sartorial(アメリカン サルトリアル)」と「Country Chic(カントリー シック)」があります。ポール・スチュアートの圧倒的な強みである“大人の成熟した色気や遊び心”を、グラマラス(芳醇・豊饒)な世界観で表現しました。
鴨志田 「アメリカン サルトリアル」の原点は、30~50年代のハリウッドスターが輝きを放った時代のサルトリアルなスタイルで、それをポール・スチュアート流にアップデート。象徴するアイテムは、ポール・スチュアートらしい大人のためのダブルブレストブレザーです。いわゆるネイビーブレザーですが、ブレザーの定番素材ではなく、ヘリンボーン織りが特徴的なひとひねりある生地を使用。ダブルが醸し出すエレガントさ、遊び心、色気などが秋冬シーズンを彩ります。大胆な柄のネクタイでのタイドアップやニットの上に羽織るなど、“攻めるダブルブレスト”として、装いをお楽しみください。
鴨志田 もう一つのサブテーマ「カントリー シック」は、シティのアメリカン サルトリアルに対して、カントリースタイルをシックに着こなすために、ウィットに富んだスタイルを表現。キーアイテムは、ミリタリースペックを素材やディテールなどで洗練させたジャケットです。元はオーセンティックなデザインですが、ミリタリー色を消してモダンに着こなせるようにアレンジしています。自分なら、ニットの首元にスカーフを巻いて、今季旬なジョッパーパンツやコーデュロイパンツとコーディネートしたいですね。
アメリカで80年以上続くポール・スチュアートのスタイルとクオリティは、シーズンが代わっても貫いていますが、着こなしは現在の気分も含めてヴィヴィッドに伝えていきたいと思います。社会性や大人の余裕とスタイルを掛け合わせて、自分らしいおしゃれをお楽しみください。
鴨志田康人(かもした やすと)
1957年東京生まれ。多摩美術大学卒業後、株式会社ビームスに入社。販売、メンズクロージングの企画、バイイングを経験。1989年に退社し、ユナイテッドアローズの創業に参画する。2007年に自身のブランド「Camoshita UNITED ARROWS」を立ち上げる。日本はもちろん、欧米やアジアでも多くのファンを持ち、アジア人では初めて第84回「ピッティ・イマジネ・ウオモ賞」を受賞。2018年に自身の会社を設立し、2019年秋冬コレクションより、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターに就任する。
見上きよみ(みかみ きよみ)
1963年生まれ。パリ留学後、株式会社ビームスに入社し、パリオフィス開設のため再び渡仏。帰国後、「ルミエール ビームス」を立ち上げ、インターナショナル コレクション バイヤーとして活躍。89年にユナイテッドアローズの創業メンバーに加わり、ウィメンズ ドレス バイヤーやオリジナルブランドの企画、さらに「グリーン レーベル リラクシング」を立ち上げて、ウィメンズとキッズの企画に携わる。2011年にフリーのブランドディレクターになり、17年より現職。