STYLE LESSON SPECIAL【Talk about Winter coat 2020】 Paul Stuart×BEAMS ポール・スチュアートのコートを巡る冒険 「継承していくクラシック、ドレスクロージングの進化」


 

ポール・スチュアートの日本におけるディレクターの鴨志田康人がディレクションする「コレクションライン」が今秋冬デビュー。コレクションラインは、大手セレクトショップや地方の紳士一番店などでの展開を行う特別なラインナップですが、いち早くファーストコレクションをオーダーしたのが、ビームスF ディレクターの西口修平さんでした。コレクションラインのコート3型を販売する東京駅にほど近い丸ビル1階『ビームス ハウス 丸の内』で、鴨志田康人と西口修平さんの対談が実現!

 

Photo. Tatsuya Ozawa / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN

 

 

鴨志田流の色使いとバランス感覚の“塩梅”に魅せられました

 

伊・フィレンツェで行われる紳士服の展示会ピッティ・ウオモで“最もスナップを撮られる男”との異名を持ち、クラシックを軸としつつ、独自の感性でヴィンテージアイテムなどをミックスさせるコーディネートに定評のあるビームスF ディレクターの西口修平さんと、90年代からピッティ・ウオモでバイイングを続け、2013年にアジア人として初めて「ピッティ・イマジネ・ウオモ賞」を受賞した鴨志田康人の年齢差はちょうど20歳。西口さんにとっては大先輩の鴨志田を、「洋服にストイックで厳しい方ですが、お話しすると気さくでチャーミングで、大人が憧れる男性です」と評します。

 

西口 学生時代は関西にいましたが、ポール・スチュアートのお店のショーウィンドウを眺めたりして、若い自分にとっては威厳のある高級店でした。商品は名だたるファクトリーが作っているのに、タグは「ポール・スチュアート」で、すべてのアイテムがきちんとセレクトされていて、「アメリカっぽいというよりグローバルな感覚のあるショップブランド」という雰囲気は今も保っていると思います。

 

鴨志田 自分もそうですが、随分敷居の高いお店に感じましたよね。

 

西口 そのブランドの日本のディレクターを鴨志田さんが手がけられると聞いたときは、「バイイングができたら面白いな、あの世界観を自分たちが編集できたら楽しいだろうな」という期待感しかありませんでした。ですので、コレクションラインの展示会に招かれたときは光栄でしたし、展示会を見たところ、鴨志田さんの世界観が炸裂していて(笑)、とても新鮮に感じました。

 

鴨志田 ありがとうございます。炸裂していましたか(笑)。

 

西口 アウター、ジャケット、ニット、シャツ、ネクタイまでそのすべてが完璧にコーディネートされていて、世界観が仕上がっているのは感動しました。さすがだなと思ったのは、色使いとバランス感覚の“塩梅”で、ドメスティックブランドともヨーロッパブランドとも違う、独自の世界観が存在していると感じました。

 

今年3月に開催されたポール・スチュアート「コレクションライン」の展示会
Photo. Riki Kashiwabara

 

アラフォーの頃と今、お互いに背伸びをして、やがてドレスを自分のものに……

 

鴨志田 自分が西口さんの年齢だった頃は、ちょうど2000年前後で、世の中はクラシコイタリア全盛で、イタリア詣でをしていたピークでした。90年代にピッティに通うようになり、イタリアのファクトリーの底力を知って、常に発見があって学ぶことが多かった時代ですね。

 

西口 自分は40代になって、背伸びをして着てきたドレスが少しずつですが、自分に馴染んでくるように感じています。そして50代、60代になってようやく理想とする男性像に近づいていくのかな……と想像しています。

 

鴨志田 その感じはよく分かりますよ。僕も30代はバリバリ背伸びをしていました。イタリアへ行っても、イタリア人には負けたくないという一心で背伸びをして着ていましたね。今はやっと大人のスタイルが地に足がついてきた感じかな。西口さんはインポートブランドが得意ですが、メンズドレスの面白さってどこに見出していますか。

 

西口 メンズドレスの面白さは「飽くなき追求」ですね。時とともに微妙に変化していくスタイルに自分をアジャストしていきながら、今の時代感にあった洋服のスタイルを構成していくのを続けていくので、これは一生終わらないなと思います。ゴールは見えませんが、自分のスタイルが少しずつ確立していくのが最大の魅力でしょうか。
 

 

ビームスでは『ビームス ハウス 丸の内』のみで展開するコートを着こなす

 

鴨志田 僕が着たツイードのステンカラーコートは、素材が大のお気に入りで、リアルシェットランドツイードをイタリアで織ったものです。スコットランドにありそうでない独特の色味はほぼナチュラルカラーで、素材自体にポール・スチュアートらしさがあります。

 

西口 ブリティッシュカントリーの良さを、イタリアのファクトリーが上手くアップデートしていますよね。さすがです。ロングレングスの大胆なシルエットですが、色が柔らかくて、着ると軽いことにも驚きます。

 

鴨志田・ツイード ステンカラーコート¥220,000(ポール・スチュアート)、マフラー¥39,600(アンドレアス/ビームス ハウス 丸の内)
グローブ¥17,600(カリデイ/ビームス ハウス 丸の内)

 

鴨志田 型はヴィンテージスタイルを復元していて、今風にいじっていません。今の時代の空気感には、こういう感じのリラックスした“温もり感や優しさ”がマッチして、ブリティッシュクラシックの原点である素朴さやナチュラルカラーリングがちょうどいい。スーツにはもちろん、自分のようにニットに羽織って、マフラーを巻いて、映画『アニー・ホール』(1978)のような雰囲気で着こなしてください。

 

 

西口 「格好つけてない感じがカッコいい」ということですね。自分が着たのは、レザーパイピングコートです。第一印象は、緩くドレープがかかる素材感がとてもモダンに感じました。コットンギャバジンのようにパリッとしていない風合いがなんともいえず好きですね。

 

鴨志田 素材は日本の尾州産のポール・スチュアートオリジナルで、ハリがあってヌルッとしていていい感じの素材ですよね。

 

西口 なにより、レザーのパイピングがラグジュアリーで上品で、このコートが一番引き立つ、限りなくシックなコーディネートにしました。

 

西口・レザーパイピングコート¥176,000(ポール・スチュアート)、ニット¥34,100(ジョン スメドレー/ビームス ハウス 丸の内)
シューズ¥137,500(エンツォ ボナフェ/ビームス ハウス 丸の内)

 

鴨志田 自分が着たツイードのステンカラーコートと、西口さんが着たレザーのパイピングコート、そしてレザーのクリフォードコートの3点をバイイングしてくれたときは、「さすが、西口さん!」と思いましたよ。特にパイピングコートは、コンチネンタル的な雰囲気が漂うコートを作りたいと思って、オーセンティックなトレンチではない、ポール・スチュアートならではのちょっと色っぽい感じを、上手く着こなしてくれました。

 

 

西口 そんなに褒められると照れます(笑)。

 

鴨志田 ヴィンテージに精通している西口さんは、ドレスを着こなしてもスタイリングに説得力がある。こういうクセのあるコートを自然体で着こなすのはたいしたものです。

 

 

男が美しく装う、“クラシック”を継ぐ者へバトンタッチしていきたい

 

鴨志田 日本は、男性の服飾の歴史をリスペクトしつつ、モノ選び/モノ作りしているお店がこんなにある世界中を見ても類を見ない希有な国です。ビームスと西口さんには、クラシックをきちんとアップデートしながら次の世代にバトンタッチしていく中心的な役割を担ってほしいですね。

 

西口 ありがとうございます。鴨志田さんからそのようなお言葉をいただくこと自体、本当に恐縮です。

 

鴨志田 今の若い世代にもヴィンテージを通してクラシックが好きな子はいますが、どう継承していくかは難しい問題ですよね。

 

西口 10歳下、20歳下のスタッフたちにも、自分が伝えられることは伝えたいと思いますが、まず「考え方のコツ」を教えていかないとと思います。

 

鴨志田 料理に例えるなら、すぐオーダーして食べられるファーストフードと、店主に教わりながら食べる料理のどちらが美味しいかは明白なこと。面倒と思わず、そういう奥深さや充実感に気づくかどうかが次世代へのキーになる気がします。

 

西口 「クラシックは進化する」ということを本気で考え、伝えていきたいと思います。

 

鴨志田 とても期待しています。

 

 

ビームス ハウス 丸の内
東京都千代田区丸の内2-4-1 丸ビル1F
03-5220-8686
11:00~21:00(月~土)/11:00~20:00(日・祝)
不定休
https://www.beams.co.jp/shop/bhm/

 

右/西口修平(にしぐち しゅうへい)
ビームスF ディレクター
1977年、大阪府生まれ。学生時代のアルバイトを皮切りにファッション業界へ進む。大学卒業後、地元大阪でビームスに入社。関西で約10年間の販売職を経て、2011年にバイヤーに抜擢され上京。2014年より、ヨーロッパのクラシックをベースに、現代的な解釈を加えた重衣料からカジュアルウエアまでを取り揃える「ビームスF」のディレクターに就任。
クラシックを基軸としつつ、そこに独自の感性でヴィンテージアイテムなどをミックスさせるコーディネートに定評あり。Instagram(@shuhei_nishiguchi)で日々こだわりコーディネートをアップ。

 

左/鴨志田康人(かもした やすと)
東京生まれ。多摩美術大学卒業後、株式会社ビームスに入社。販売、メンズクロージングの企画、バイイングを経験。1989年に退社し、ユナイテッドアローズの創業に参画する。2007年に自身のブランド「Camoshita UNITED ARROWS」を立ち上げる。日本はもちろん、欧米やアジアでも多くのファンを持ち、アジア人では初めて第84回「ピッティ・イマジネ・ウオモ賞」を受賞。2018年に自身の会社を設立し、2019年秋冬コレクションより、ポール・スチュアートの日本におけるディレクターに就任する。