【Paul Stuart Culture CLUB ① MAGAZINE】 古書店『magnif(マグニフ)』店主、中武康法さんが解説 ファッション雑誌から読み解く、トラッドの源流(前編)
“ファッション好きなら知らぬモノなし”の神保町・すずらん通りにある雑誌を専門に扱う古書店『magnif(マグニフ)』。由緒ある古本の街で、2009年のオープンから独自の存在感をアピールしているのは、店主の中武康法さんの確かな選択眼と豊富な品揃えによるものです。今回は、様々なカルチャーとファッションとの関係性を紐解く新連載【Paul Stuart Culture CLUB】の1回目として、『マグニフ』で扱っているヴィンテージマガジンの中から、ポール・スチュアートの源流であるアメリカントラディショナルや紳士服の変遷を語っていただきます。
Photo. Yoshimi Seida / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN
オリジナルは非売品。メンズファッションの原点というべき1931年発行の『APPAREL・ARTS(アパレルアーツ)』
まず最初に紹介したいのは、メンズファッション雑誌の元祖というべき1931年(昭和6年)発行の『APPAREL・ARTS(アパレルアーツ)』です。世界的にも希少なオリジナルもありますが、1989年(平成元年)にイタリアの生地屋が限定で復刻した三冊凾入の復刻本をご紹介します。
オリジナル『APPAREL・ARTS』非売品
『APPAREL・ARTS』はアメリカの最初のメンズファッション雑誌で、『esquire(エスクァイア)』が創刊する2年前に発刊。この復刻本は30年代に発刊されたハイライト版で、図版は主にイラストですが、ローレンス・フェロウズなど当時の一流のイラストレーターが描いているのも見どころの一つです。
時代的には、アメリカの大衆文化の狂乱といわれた1920年代の“グレート・ギャツビー”の華やかさが続いて、29年に起こる世界恐慌の真っただ中の雑誌でもありますが、いわゆる富裕層のためのスタイル帖で、金持ちには大恐慌など関係なかったこともよくわかります。
ページをめくっていくと、当時からスタイルアイコンであったウインザー公が出ていたり、ゴルフウェアの紹介があったり、まさに30年代のメンズファッションコレクションが見られます。
複刻本『APPAREL・ARTS』50,000円(税抜)
街を歩くヘンリー・フォンダはまさに“ザ・アイビー”。アメトラの源流『Esquire(エスクァイア)』
50年代半ばから60年代にかけてアメリカントラディショナルやアイビースタイルが世界に広がっていく歴史の中で欠くことができないのが、1933年(昭和8年)に米国で創刊されたインターナショナルマガジン『Esquire(エスクァイア)』です。
この号は1957年(昭和32年)9月号ですが、40年代に第二次世界大戦があって、50年代には朝鮮戦争があり、戦争が終わって裕福になっていく中、戦争から帰ってきた若者たちが国の支援を受けて進学することで学生が増えて、学生のファッションが注目されてきた時代背景があります。いわゆるアイビースタイルの萌芽ですね。
この頃の『Esquire』をめくると、良い写真が多くて、上で紹介した30年代の『APPAREL・ARTS』は帽子の広告が多いですが、50年代の『Esquire』は革靴の広告が目立ちます。ジャズミュージシャンのスタイルが流行ったのもこの頃ですね。
『Esquire』7,000円(税抜)
初版は1965年(昭和40年)、アイビーリーガーたちのライフスタイル全般を切り取った写真集
日本のアイビーの歴史の原点であり、「アイビー発見!」を象徴する一冊が、1965年(昭和40年)に発行された“アイビースタイルのバイブル”ともいうべき『TAKE IVY』です。この『TAKE IVY』の提唱者が、ヴァンヂャケットの創業者の石津謙介さんで、アイビーリーグ校のキャンパスを密着取材しています。
単なるファッションスナップ写真集ではなく、アメリカの名門8大学のキャンパスライフを取材した本で、長袖のスウェットに短パンという格好や、夏になったら長ズボンを切って短パンにして穿くなど、学生たちの合理的な考え方が垣間見えたり、日曜日に教会に行くときにはタイドアップするメリハリなども当時は新鮮に映ったことでしょう。
この『TAKE IVY』は初版ですが、石津謙介さん生誕100年の2011年に日本版が復刊され、若い人たちにも流行を超えた風俗や文化が注目されました。
『TAKE IVY』(1965年初版本)28,000円(税抜)
トラッドが日本流にローカライズされて誕生した「ニュートラ」を特集する70年代の人気ファッション誌
当時、毎月2回、5日と20日に発行されていた『anan(アンアン)』の1975年(昭和50年)9月5日号と、『JJ(ジェイジェイ)』1977年(昭和52年)2月号です。
『anan』3,000円、『JJ』3,500円(ともに税抜)
「ニュートラ」はもちろんニュートラディショナルの略ですが、『anan』130号では「ニュー・トラのすべて」というタイトルで、「いまや東京にも進出したニュー・トラのすべてを特集」しています。また、当時の『anan』は旅行に力を入れていたり、読み物として、デザイナー名鑑:トップ・デザイナー52名の仕事やプロフィールなどを紹介するなど読み応えも充分です。
片や『JJ』は「ニュートラのワードローブ」という特集で、仁科明子さんや榊原るみさんのワードローブを紹介したり、欧米ブランドや神戸の有名店のバッグや靴を紹介。ページをめくっていくと意外と生々しいコーディネートで、ブランド品を上手く使っているのがわかります。VANがアメリカの良さを広めて、トラッドが根づいて、女性ファッションにも日本流に変化していく過程が面白いですね。
80年代になってより身近になったトラッドファッションの教科書『THE OFFICIAL PREPPY HANDBOOK(プレッピーハンドブック)』
1981年(昭和56年)に講談社から発刊されたのが『THE OFFICIAL PREPPY HANDBOOK(プレッピーハンドブック)』で、アメリカ東部のお坊ちゃん高校生を皮肉った“金持ちあるある集”みたいな内容なのですが、その的確で詳細な記述により、むしろそのライフスタイルに憧れを持ってしまうような訳本です。
当時のプレッピーは、アイビーリーグ予備軍の進学校に通う、良家育ちの品の良さと、ちょっとしたヤンチャさが同居したお坊ちゃんお嬢ちゃんのファッションやライフスタイルを指し示す言葉で、着こなしの象徴が、ポロシャツの襟立てや、肩に掛けるセーターでした。いわゆる日本でのDC(デザイナーキャラクター)ブームの前のアメリカン・ユースカルチャーが学べる一冊です。
『THE OFFICIAL PREPPY HANDBOOK』8,500円(税抜)
自分の店の唯一のモットーは「今カッコいいものだけではなくて、幅広く集める」です。一度世間に“ダサい”とされたものがまたカッコよくリバイバルされるのを何度も見ていますので……。ファッション雑誌は、その時代時代のはかないモノではありますが、その分、時代が凝縮されているので、後から見て新鮮に感じるものです。
今は80年代や90年代のイメージを追いかけている若い人が多いですね。音楽でいえばシティポップで、永井博さんのイラストが表紙になっている雑誌などを探している人が多いです。そういう流行はお客さんに教えられることも多いですね。
magnif(マグニフ)
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