鴨志田康人が語るヴィターレ・バルベリス・カノニコの引力
もう一歩成熟した大人の世界に、新しい風を吹かせたい
ポール・スチュアートの日本におけるディレクター鴨志田康人は、「ヴィターレ・バルベリス・カノニコ」(以下VBC)の魅力を、「王道、ど真ん中を貫いているファブリックメーカー」だと評価する。「メンズの王道である英国的な要素をふんだんに取り入れて、それをアップデートしていく強みがVBCの良さ。自分たちの好みと一致します」。
Photo. Shimpei Suzuki / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN
今日からは、「VBC」または「バルベリス」と呼ぼう
鴨志田康人(以下鴨志田) まず皆さんに伝えたいのは、ヴィターレ・バルベリス・カノニコをカノニコと呼ぶのは日本独自で、世界では頭文字をとって「VBC」または「バルベリス」と呼ぶのが普通です。自分は日本でのイメージを変えようと、「バリベリス」推進派です。
――確かに、カノニコというと、日本では大衆的なイメージがありますね
鴨志田 そういうイメージが何十年も続いてきていますよね。イタリア北部の織物生産のメッカでもあるビエラ地区にある本社に行って実際のモノ作りを見ると、イタリアの中でも質実剛健なファブリックメーカーで、紳士のスーツ服地を中心としたラインやコレクションを作るビエラの生地メーカーでは間違いなくナンバーワンです。なので、呼び名改革にも取り組んでいます。
――バルベリスのどういう点に魅力を感じますか
鴨志田 日本ではリーズナブル=安いと解釈されてしまいますが、バルベリスの魅力は、「これで充分=GOOD
ENOUGH」なところ。特にビジネスマンが着る服地は、耐久性があり、シワになりにくく、飽きがこないものを作るのが得意で、トレンドを追わず、節度を持って時代に対応していくのが上手い。要は、真っ当な生地を作っているので、定番モデルに乗せやすく、作り手としては「困ったときのバルベリス」でもあります。
普遍的なオーセンティックな良さと、革新的な機能性の開発
――今回のバルベリスとのコラボで特に注目している素材はありますか
鴨志田 バルベリスは、素材が持つ本来の特徴を活かしながら、そこに機能を持たせてアップデートするのが抜群に長けているメーカーです。そういう意味で注目しているのは、機能性ファブリックの「Earth,
Wind & Fire(アース、ウィンド&ファイアー)」ですね。
――これは一度聞いたら忘れられない生地名ですね
鴨志田 アース、ウィンド&ファイアーは、メンブレン加工(生地の裏に超極薄の透湿防水膜を貼る加工)が施されて、防水、防風、耐久性があり、アウトドア用ジャケットなどに適しています。たとえば、英国のウーステッドフランネルはとても重い生地ですが、アース、ウィンド&ファイアーなら軽くエレガントなスタイルが作れるので、ポール・スチュアートではM-65フィールドブルゾンに落とし込んで使っています。
――鴨志田さんのディレクションの中心アイテムは何ですか。
鴨志田 それはスーツです。どこに出ても恥ずかしくないインターナショナルに通用するスーツを核に、そのスーツを理解する人のためのカジュアルのワードローブが、ディレクションのテーマです。たとえば、これまでのポール・スチュアートにはなかった80年代のヴィンテージライクな匂いがするボリューム感あるコートと、アメリカンクラシックなボタウンダウンシャツのタイドアップ、そしてニューヨーカーがいかにも着ていそうなスエードの70年代調のコートたちが共存しているのが、僕の中のポール・スチュアートです。
――なるほど。ボリューム感たっぷりのコートは、クリエイティブディレクターのラルフさんが「1930年代のムービースターのようだ!」と大変気に入っていました。
鴨志田 ポール・スチュアート流のスタイルを確立するのが自分の役割で、今は「ちゃんとしたモノ作り」が新鮮に感じますね。