SPECIAL MESSAGE from Paul Stuart 私たちが、いま、伝えたいこと。「We Love&Need Fashion」


 

ポール・スチュアートブランドを運営する三陽商会に、パタンナー集団の「SANYO ENJIN(サンヨーエンジン)」というプロジェクトチームがあるのをご存知でしょうか。三陽商会の技術=心臓部(エンジン)と、チーム一丸(円陣)という意味が込められたSANYO ENJINは、歴史ある三陽商会の技術と伝統を一丸となって守って伝えていくのと同時に、30代の伸び盛りのパタンナーが新しいチャレンジをしていく取り組みでもあります。


今回は、SANYO ENJINのモデリスト(チーフパタンナー)で責任者でもある森部有貴と、森部の先輩で、ポール・スチュアート専任のモデリストである坂本友和が、SANYO ENJINの活動とパタンナーの仕事を語ります。

 

Photo. Yoshimi Seida / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN

 

 

「TIMELESS WORK ほんとうにいいものをつくろう」という“一服入魂”

 

ファッション業界では日の目を浴びるデザイナーをしっかり支えるのがパタンナーです。洋服のパターン(型紙)は、衣服の設計図のようなもので、洋服の品質はパタンナーの腕次第と言われるほど重要なものです。デザイナーが描いたデザイン(画)を洋服にするための型紙を作成しますが、素材や縫製、ディテールなどの専門知識が求められ、工場で製品にするための「縫製仕様書」をまとめるのもパタンナーの仕事です。

 

洋服作りを支える職人であるパタンナーは豊富な経験が必要なので、アパレル業界では外注やフリーランスに頼りがちですが、三陽商会ではインハウス(社内)に約60名、メンズでは23名の社員パタンナーが所属し、四谷の本社にはアトリエもあるという、大手アパレルでも希少なしっかりした体制を整えています。

 

左が森部有貴、右が坂本友和

 

パタンナーのキャリア8年で34歳の森部有貴は、三陽商会の「クラフトマンシップ=TIMELESS WORK」というタグラインについて、「SANYO ENJINで活動するパタンナー5名は、それぞれのスペシャリティーを活かして、お客様の“あったらいいな”を形にすることが使命で、服作りを通して本当の意味でのハッピーの連鎖を生むことを目指しています」と語ります。

 

また、キャリア18年のモデリストの坂本友和は、「ポール・スチュアートに約60年前にデザインされた“クリフォードコート”というモデルがあり、最近また複刻しました。私たちの仕事は歴史を大事にしながら、良いものは残っていくので、良いものを作り続けていくことが、お客さまの喜びに繋がると思っています」と言います。

 

三陽商会の本社にあるアトリエ

 

洋服の出来映えを左右する型紙(パターン)作りの面白さ、難しさとは

 

坂本 パターンの面白さと同時に難しさは、思った通りにならないところですね。納得できるパターンが引けても、素材によって微妙に変化したり、着る人によって見え方が変わったり、100%思い通りにならないことが多いですが、製品になってデザイナーが喜んでくれたり、売れることがやりがいに繋がります。

 

森部 そうですね。パタンナーは技術職でもあるので、入社当時は設計にこだわっていましたが、SANYO ENJINのメンバーになってからは、お客様にいかに喜んでもらえるかが大事になっています。

 

坂本 森部君はとても研究熱心で真っ直ぐなパタンナーなので、お客様と直接接する機会があるSANYO ENJINの活動は確実にプラスになっていますね。

 

森部 ありがとうございます。坂本さんは、三陽商会の諸先輩方からしっかり教わっている世代なので、尊敬しているし、相談できるメンズのとりまとめのチーフです。

 

坂本 そもそも洋服はメンズからできたものです。紳士服は、その歴史やルーツを紐解いていくことが大事なので、三陽商会の仕事はやりがいがありますね。

 

森部 確かに、自社でパタンナーを抱えて、モノ作りをしっかり学べる会社なので、財産は繋げていきたいですね。特にメンズでは、洋服の原形を伝えて残していきたいと思います。

 

 

現代風にアレンジを加えて、お客さまに好まれるようにモディファイする

 

坂本 実際の商品とSANYO ENJINチームが所有している古着を比較して、私たちの仕事の説明をしましょう。

 

森部 右の古着は1952年のゴム引きコートです。見た目はカッコイイんですが、これを今の時代に作っても、日常着としては支障が出るので、左のポール・スチュアートのコートでは、袖の構造を肩に馴染んで自然に袖が落ちるラグラン袖に変えました。ラグランにしたことで、素材感と相まってとても柔らかい印象になりました。

 

坂本 メンズの鴨志田康人ディレクターはボリューム感のあるコートが好きなので、このコートの出来映えも気に入ってくれましたね。

 

 

森部 左のポール・スチュアートのコートは、右の古着のコートの比翼合わせやチンフラップなどは採用しつつ、バルマカン(ステンカラー)コートでは珍しい大きなフラップポケットも取り入れて、ベルトを付けるなど現代風にアレンジ。ポール・スチュアートならではの高級感ある素材と上質な仕立てにより、個性的なバルマカンコートに仕上がっています。

 

坂本 もう一つ、これもSANYO ENJINチームが所有している古着のモッズコートがデザインソースとなっているコートをご紹介します。

 

森部 右の古着のコートはリバーシブルで、表側がヨーロッパのモッズコート、裏返すとアメリカのモッズコートのデザインを落とし込んでいる珍しいアイテムです。もともとは山岳部隊が使用していたオーバーコートで、雪山で着ることを想定しているので裏側は白なんですね。これに着想を得て作ったのが左のポール・スチュアートのコートです。

 

 

坂本 ポール・スチュアートでは完全リバーシブルとして、表地は機能的なベンタイルを、裏側はポリエステルナイロンで違う表情を作っています。さらに、デザイン的な要素として、アーバンスタイルに合うドットボタンを採用したり、袖を柔らかくナチュラルな感じに仕上げるなど、タウンユースとして着やすい工夫をしています。

 

右はポール・スチュアート デザイナーの佐藤浩之

 

デザイナー佐藤浩之を交えて、ポール・スチュアートのエッセンスを語り合う

 

佐藤 デザイナーの仕事は、平面のデザインの裏表をしっかり描くことが第一ですが、自分はパターンを引いている感覚で絵型を描きます。それをパタンナーと共有して、自分の頭の中で引いたパターンが合っているのかを照らし合わせます。縫製技術はパタンナーが知識を持っているので、立体にしていく作業は任せていますが、メンズの場合は、「デザイナー、パタンナー、生産担当の三位一体」になることが大きなポイントですね。

 

坂本 縫製仕様書はパタンナーが書くので、デザイナーと設計を打ち合わせしながら修正を加えていってサンプルを作成します。

 

佐藤 メンズは、過去のモノを掘り下げて、本物に触れて勉強して、現代に合う素材やディテール、バランスを考えながら取り組むので、三位一体のチームワークで、一緒に「現代の服」を作っていくという感覚です。メンズの服作りはまさしく温故知新ですね。そういう意味でも、森部君たちが取り組んでいるSANYO ENJINは、過去のモノを尊重して、現代に解釈する活動をしていて、興味深く見守っています。

 

坂本 鴨志田康人ディレクターが、三陽商会のモノ作りで共感しているのもまさにその「温故知新」ですね。

 

佐藤 ポール・スチュアートでは、NY本店上の工房で作る「MADE ON MADISON(MOM)」というラインがありますが、三陽商会本社にはアトリエ(ラボ)があるので、日本にも「MADE IN YOTSUYA」というものがあってもいい。SANYO ENJINやメンズのモデリストチームには期待しています。

 

森部 SANYO ENJINは、普段は黙々と机に向かっている仕事をしているパタンナーが、店頭でお客さまと直接会って、私たちの技術力を発信しながら、デザインや設計を届けることをやっています。いわゆる「カジュアルのパターンオーダー」をやっているので、ご興味がある方は不定期で開催するポップアップにお越しください。店頭でお待ちしています。

 

 

ポール・スチュアート 青山本店
TEL 03-6384-5763
東京都港区北青山二丁目14-4 ジ アーガイル アオヤマ 1F
営業時間 11:00~19:00
併設するバー「The COPPER ROOM(ザ コッパー ルーム)」
営業時間 14:00~20:00(※ラストオーダーは19:00)
※2月27日現在、営業時間短縮期間中。今後変更あり