【Paul Stuart Culture CLUB ⑤ ANTIQUE FURNITURE】 青山本店のテーラードルームを格上げする ここまで百年、これから百年使えるヴィンテージ家具


 

ポール・スチュアート 青山本店のメンズ・テーラードルームの空間にマッチする大理石テーブルやソファ、ガラスケース、そして壁の絵は、日本におけるディレクターの鴨志田康人が、欧州アンティーク・ヴィンテージ家具を扱うインテリアショップ『ロイズ・アンティークス』から選んだものです。上写真左のロイズ・アンティークス代表の久保卓平さんと鴨志田康人は、インテリアとファッションという分野は違えど、80年代後半からそれぞれの分野を開拓してきた同志であり、さらに同級生。家具・什器の導入までのエピソードを知ると、テーラードルームでの居心地がさらに特別なものになりそうです。

 

Photo. Shimpei Suzuki / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN

 

 

アイデンティティは継ぐが、表現はアップデートして、今の日本に適した店を

 

ロイズ・アンティークスは1988年に創業。アンティーク家具やインテリアアクセサリーの買付、販売・アフターサービスまでをトータルに行い、現在は全国11店舗のインテリアショップを展開する日本最大級のアンティーク家具輸入販売会社。ロイズ・アンティークス青山は、ポール・スチュアート 青山本店から歩いて1分ほどの至近にあります。

 

鴨志田康人(以下、鴨志田) 青山本店の家具と什器選びでは大変お世話になりました。

 

久保卓平(以下、久保) 最初に鴨志田さんから新店オープンの話を聞いたのが1年半以上前で、鴨志田さんは“美意識の人”ですから、リクエストのハードルは高かったですね。でも、納入を見届けるためにオープン前日に伺ったら、横幅3メートル30センチもある絵が最初からその壁にあったように飾られていて驚きました。

 

 

鴨志田 青山本店の空間は、ショップというより部屋感のある佇まいにしたかったんですね。ヴィンテージ家具や什器を入れて、その経年変化の足し算で空間に味が出てくるように計算して作っています。自分としてはまだ完成形ではなく、徐々に絵画や写真を飾ったり、人が生活している部屋のように、要素を増やしていこうと考えています。だから、理想の空間に作り上げていくのに、今後も久保さんの協力は不可欠なのです。

 

久保 表参道にあった旧店はまさにオーセンティックな空間でしたが、鴨志田さんの話を伺ったときに、そこにモダンなひねりを入れた時代感をイメージしました。

 

鴨志田 新しく作る日本の旗艦店に、NYのポール・スチュアートをどうやって描くかに時間がかかりましたね。昔なら、NYをそのまま持ってくれば「カッコいいね」になりますが、今はもうそういう時代ではないので、本店を意識しながら、「日本においてのポール・スチュアート」のあり方を表現したい思いがありました。アイデンティティは継ぎますが、表現はアップデートして、今の日本にふさわしい店を作りたかった。

 

久保 空間作りの手がかりはどんなところに着想を得たんですか。

 

鴨志田 あまり都会的な空間も疲れるので、最初は「コロニアル」を考えました。時代としては田舎にエスケープしたい気分もありますから、どこかに優しさがあって、店にいて癒やされる空間にしたかった。店中央にコリドーを設けたのも、クラシックなコロニアルスタイルの雰囲気作りの一環です。

 

 

青山本店の構想中に、ロンドンのアンティーク屋で見つけたジュエリーキャビネット

 

久保 このガラスケースは、鴨志田さんがロンドンのイーストにあるアンティーク屋で見つけて、僕に「キープしておいたから日本に送ってください」と連絡があった(笑)ものです。

 

鴨志田 新店の構想を考えながらロンドンのフリーマーケットやアンティークショップを回っていたときに見つけた什器で、100年経っても揺るぎない正統なブリティッシュスタイルの良さがあります。

 

 

久保 1920年代のイギリスのジュエリーキャビネットで、真っ黒のペイントに、脚がマホガニー材の猫脚という作り込まれたものです。とても絵になっていますね。

 

鴨志田 こういうコンディションが良い店舗用什器は、世界的に本当にレアになりましたね。

 

 

大理石テーブルは、70年代のイタリア製で、ホテルのホールにあったテーブル

 

鴨志田 久保さんは最近はイタリアばかり買い付けに行っているそうですね。

 

久保 ロイズ・アンティークスは33年になりますが、最初は英国からスタートして、時代の流れとともにカントリースタイル、北欧ヴィンテージスタイル、インダストリアルスタイル、シャビーシックスタイルなども取り入れながら、最近はイタリアのコンテンポラリー系ヴィンテージに注力していて、どんどん足し算で増えています(笑)。

 

鴨志田 どういう思いでそういう足し算をしているんですか。

 

久保 それは、国や時代をミックスして、お客様に自分なりのスタイルを見つけて創ってほしいという思いですね。

 

鴨志田 なるほど。それはファッションもまさにその通りですね。アンティーク家具を扱う店は東京にも多いですが、ロイズ・アンティークスの独自の視点でのセレクトのユニークさは他にはありません。

 

久保 家具のコーディネートを考えるとき、英国だけだと決まり切ってつまらなくなってしまいます。英国にイタリアモノを合わせるとそこにアレンジやツイストが加わって、お互いに映えて新鮮に見える面白さがある。そこも洋服のコーディネートと同じですね。

 

 

鴨志田 このテーブルの大理石の白がテーラードルームの空間にスッと抜け感を出しています。テーブルトップのカチッとし過ぎないフォルムが空間と調和して、良い雰囲気を出すだろうなという狙い通りです。

 

久保 英国とイタリア家具の一番違いは、なによりもデザイン優先。また大理石の国なので、良い材料をふんだんに使います。

 

鴨志田康人がインテリア・内装の参考にしたというインテリアデザイナー、ローマン&ウィリアムスの作品集。下の1977年発行の『MEN'S CLUB』は、「初めてポール・スチュアートを知った」雑誌で、構想のときに原点に立ち戻ってみたという

 

高い天井に映えるのは。背が高いソファ。リプロダクションの魅力が光る

 

久保 このレザーソファは、実は、ロイズ・アンティークスが手がけるリプロダクションです。イメージはロンドンのジェントルマンズクラブにあるソファやウィングチェアなどの一種ですが、オリジナルは古くて使用に耐えられません。そこで、イギリスでオリジナルの部材や仕上げなどに忠実に同じ製法で作っています。スタイルも作りもオリジナルと全く同じです。

 

 

鴨志田 ソファのフォルムが気に入っていて、ディスプレイ的な役割にとてもいい。天井が高いので映えますよね。

 

 

「寸法は分からないけど、間違いなく壁に収まるだろう」と見た瞬間即決した絵

 

久保 この絵は、ミラノのパフューム屋の壁に飾ってあったもので、1950年代のものです。よく見ると香水瓶が描かれていますね。碑文谷にある、ロイズ・アンティークス エゴイストでこれを見た鴨志田さんから連絡があったとき、「この横幅の絵をどう使うんだろう?」と思いました。

 

鴨志田 オープンの数週間前まで家具が決まらなくて、壁に飾るものも決まらなかったときに飛び込んできたのがこの絵です。寸法は分からないけど、間違いなく壁に収まるだろうと思いましたよ。

 

 

久保 なぜこの絵が欲しかったんですか。

 

鴨志田 NYマンハッタンにあるカーライルホテルのバーの壁面に、鳥獣戯画的な絵が描かれているんですが、それがマンハッタンのスノビッシュで独特な世界にぴったりで、昔から好きでした。その絵の雰囲気がポール・スチュアートに一番親和性があると思っていて、「この空間に飾りたいな」と思っていたところに出合ったのがこの絵です。

 

久保 この絵はイタリア・ミラノの倉庫の奥の方にあったものを見つけてきたもので、まさに一期一会ですね。

 

ロイズ・アンティークス 青山

 

百年前から、百年後にも、尽きないヴィンテージ家具の魅力とは

 

久保 鴨志田さんはヴィンテージ家具のどういうところに惹かれていますか。

 

鴨志田 それはもう一言、格好良いからですね。古いのが良いというわけではなく、圧倒的な存在感を持ったものがビンテージ家具にはあるからです。この青山本店の空間のように、現代のモノとミックスさせて、互いの良さと美しさを違う角度から見せてくれます。久保さんはどうですか。

 

久保 やはり世界に一つ、唯一無二のものを自分だけが所有するというのがうれしい。量販家具は、最後は捨てることを想定した作りも多いですが、百年前から直しながら使われてきた家具は良いものだし、修復して使えるのはサスティナビリティにも繋がるので、自分の商売は良いビジネスだなと思います。

 

鴨志田 創業して30年以上になりますが、飽きませんか(笑)。

 

久保 飽きないですね。時代の変化によって次に目を向けられるし、自分は家具の氏素性よりもグッとくるものを探しているので、今でも家具探しは面白いです。

 

鴨志田 ファッションもそうですね。それまでの自分には全く響かなかった、気にもしていなかったものに「アッと思う瞬間」があって、そこにグッと入っていけるのが楽しい。

 

ロイズ・アンティークス 青山

 

「良いモノを買って長く使う」ヴィンテージ家具との暮らし

 

久保 自分の暮らしにアンティーク家具を取り入れるのは、最初はハードルが高いと思いますが、お客様にお伝えしているのは、「お店で家具に触ってほしい」ということです。たくさん触って、たくさん見ていると、好きなモノがなんとなくわかってくるので、そうしたら、たとえば椅子一脚、自分の「これだ!」と思ったものを買ってみてほしい。そうすると、今までのインテリアのセンスがグンと上がるのが、アンティーク家具の最大の武器です。

 

鴨志田 自分の自宅にもアンティーク家具は多いですが、愛着の湧き方が違うんですよね。規格にとらわれていないユニークさやおおらかなふくよかさもあって、職人の感情や手仕事の温もりも佇まいに出てくる。

 

久保 気に入った椅子に座ったり、磨いているうちに、次のイメージが湧いてきて、お客様は足し算していきます。ロイズ・アンティークスのお客さまの半分はリピーターですね。ロイズ・アンティークスにはお直しができるカスタマーサービスがあり、もし不要になったら下取りができるサスティナビリティシステムも備えています。

 

鴨志田 まさにヨーロッパの捨てない文化、誰かが引き受けるリサイクルを日本でやられているわけですね。日本もこれから「良いモノを買って長く使う」時代に入っていくと思います。

 

ロイズ・アンティークス 青山
TEL 03-5413-3666
東京都渋谷区神宮前3-1-30
営業時間 11:00~19:00
https://www.lloyds.co.jp/

 

ポール・スチュアート 青山本店
TEL 03-6384-5763
東京都港区北青山二丁目14-4 ジ アーガイル アオヤマ 1F
営業時間 11:00~19:00
併設するバー「The COPPER ROOM(ザ コッパー ルーム)」
営業時間 14:00~20:00(※ラストオーダーは19:00)
※2月27日現在、営業時間短縮期間中。今後変更あり