【Paul Stuart Culture CLUB ⑦ Cuisine française】 フランス料理で迎える新しい年。 銀座『マルディグラ』和知徹シェフが表現する“ピエスモンテ”


「お正月、おせちもいいけど、新年にふさわしい華やかな肉料理を食べたい!」――と向かったのは、銀座のはずれにある20席ちょっとのフレンチビストロ『Mardi Gras(マルディグラ)』。お店のことを検索すると、「骨太で豪快な肉料理」「名店中の名店」「多くの美食家が足繁く通う人気フランス料理店」というコメントに期待が高まります。
オーナーシェフの和知徹さんが“新年の華やかな料理”として創作したのが、「食べられるピエスモンテ」。様々なカルチャーとファッションとの関係性を紐解く連載【Paul Stuart Culture CLUB】にふさわしいオリジナルの肉料理が、目の前にそびえ立っています。

 

Photo. Kiyohide Hori / Text. Makoto Kajii
Edit. FUTURE INN

 

 

ウエディングケーキが「高く華やかなほうが価値がある」由来をご存知ですか?

 

現在に至るフランス料理発展の先導者として神格化され、近代フランス料理の父と称されるオーギュスト・エスコフィエと並び称される料理の聖人が、アントナン・カレームです。カレームは、1784年パリで生まれ、17歳でパティシエとして働きながら、画廊でデッサンや、建築についての勉強をしていましたが、そこから発想を得てピエスモンテを創造しました。

 

ピエスモンテとは、カレームがパティシエ時代に培った装飾技術を応用して、「料理やデザートなどを盛り、高く飾り立てること」で、巨大な建築物のようなピエスモンテは豪華絢爛で、パーティーの参加者の評判をさらい、一躍有名になりました。以来、正餐や社交界では、凝った装飾がほどこされた料理が振る舞われましたが、その流れが、今のウエディングケーキに通じます。マルディグラの和知シェフは、「カレームの料理レシピを勉強していたので、そこから発想を得て、特別なピエスモンテを創りあげました」と言います。

 

 

現代流にモディファイした、「食べられるピエスモンテ」を創りたい

 

――和知さんが創った「肉のピエスモンテ」、食べる前に圧倒されます。

 

私は辻調理師専門学校に入って、フランス校で学びますが、辻調グループの創設者の辻静雄さんのフランス古典料理の研究書『Etude Historique de la Cuisine Française』では、カレームなどの古典料理の原点が詳しく解説され、特にピエスモンテの構造の詳細図には目を見張るものがあります。ピエスモンテは現在では、フランス菓子のデコレーションなどで少し残るだけで、デコラティブでスペクタクルな要素だけのイメージになっていますが、カレームは中世フランスで現在も残るソースのベースをまとめた料理人でもあるので、彼に敬意を表して、「食べられる肉のピエスモンテ」を創りました。

 

辻静雄著『Etude Historique de la Cuisine Française』大修館書店(1977)限定1250部

 

――新年を祝う料理に、なぜピエスモンテを選んだのですか?

 

ピエスモンテはとてもフランスらしい素晴らしい世界ですが、食べられることを前提には創られていません。ルーツは王様に献上するような料理で、高く盛って、珍味を使って、手の込んだ細工を施してデコレーションしていくピエスモンテは、まさに権力の象徴です。主に鑑賞することを目的としていたので、時には食べられないものも飾ったと資料にありますが、現代の解釈で、「食べて美味しい」という考え方に変えたときに、こういう仕立て方もできるのかなと思いました。

 

和知さん曰く「現代版のバベルの塔」。予約して食べることができます。4~5人でどうぞ。16,000円

 

「塊の肉をみんなでシェアして食べる」という楽しみを表現

 

――このピエスモンテの肉は何ですか?

 

肉は羊肉です。刺してある肉団子も羊肉で、下のクスクスの周りにかけたのも羊肉のソースです。

 

――なぜ羊肉を選んだのですか?

 

羊の肉は宗教などに関係なく世界中の人が食べられて、調理法もバラエティに富んでいます。料理人として「羊肉」を手にすると、いろいろやってみたくなるんです。牛肉よりスパイスが使いやすくて、羊の肉の風味を活かすスパイス使いをすると、味がエレガントにまとまります。

 

――さすが“肉の巨匠”です。

 

2001年にマルディグラを開くときから、フランス料理は肉料理のバリエーションが多いので、店でより強くフィーチャーしたいと思いました。オープン当初から「肉は大きな塊で調理した方が美味しい」というコンセプトがあって、さらにその塊を分け合ってみんなで食べるのは、喜びを共有し、食べる楽しさに通じます。

 

――素晴らしい考え方ですね。パンデミックになって、食事も小分け、個別化で寂しいです。

 

さらに、フランス料理は、肉は調理し、骨からソースを取るという無駄にしない文化なので、そのクラシックな調理法を踏襲するのも、マルティグラらしいなと思います。

 

 

肉の巨匠が考える料理の創造性と、料理が発するオリジナリティ

 

――和知さんの料理の創造性はどこから来るのでしょうか。

 

ベースには、私がしっかり学んだオーセンティックなフランス料理の世界とテクニックがありますが、自分らしさを出すときに気をつけているのは、「誰かが書いたレシピは見ない」ですね。それと、旅が好きなので、「その国で食べるより美味しくしたい」という気持ちで料理に取り組むことが多いです。

 

――「その国で食べるより美味しくしたい」というのは?

 

旅先では家庭料理のようなスタンダードなものを好んで食べますが、そういう家庭料理にプロの目線で、「ここをもうちょっとよく焼けば美味しくなるのに……」と手を加えると、レベルが上がって、自分のものになります。旅からインスパイアされる料理は、オリジナルを超えていきたいですね。

 

――なるほど。ほかに和知さんが追求していることはありますか。

 

高級な素材と旬の安価な食材を合わせることで、ミスマッチで新しい世界ができることですね。たとえば、ヒラメにトリュフソースだと高級素材同士ですが、旬のタラとトリュフを合わせて、「タラは火を入れると身がもっとほぐれて美味い」と考えていくと、独特な化学反応が起きてきます。洋服もハイブランドとファストファッションを合わせたりしますよね。

 

――和知さんは洒落者としても知られていますが、ファッションと料理の関連性はありますか?

 

今は、ファッションブランドも衣食住トータルでのライフスタイルを打ち出していて、全体的な世界観を作り上げています。ファッションと料理の世界が接近してきているのを感じますね。

 

――ありがとうございます。では、「食べられるピエスモンテ」、早速いただきます!

 

マルディグラ 和知徹(わち とおる)
1967年、兵庫県淡路島出身。高校卒業後、辻調理師専門学校に入学し、翌年、半年間のフランス校で研修と残りの半年間はブルゴーニュの1つ星で働く。帰国後、『レストランひらまつ』入社。在籍中にパリの1つ星で研修し、帰国後、ひらまつ系列の飯倉『アポリネール』料理長に就任。退職後、98年銀座『グレープガンボ』の料理長を3年務める。2001年、独立し、『マルディグラ』を開店。

『Mardi Gras(マルディグラ)』
東京都中央区銀座8-6-19 野田ビル B1F
03-5568-0222
12:00~13:00(ランチ)
18:00~24:00(L.O.23:00)
日曜日定休(営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください)
Instagram:@mardi_gras_official_2