男のファッションを
描き続けてわかった
“絵になる”コート

イラストレーター

綿谷寛

HIROSHI WATATANI

日本を代表するメンズファッションイラストレーターであると同時に、ウェルドレッサーとしても名高い綿谷寛さん。半世紀にわたってトラディショナルな男のコートを描き続け、着続けた“画伯”は、SANYOCOATのバルカラーコートを、いかに着こなすのか?

初めて袖を通したコートを我が物にしてしまう完璧なスタイリング、感動しました!
神保町の古本屋にいるおじさんみたいでしょ(笑)? バルカラーのコートにこういうソフトハットが合うっていうのは、先輩イラストレーターの小林泰彦さんも描いているけど、ぼくもそう思っていて。
今回トレンチではなくバルカラーコートを選ばれたのは、綿谷さんのご趣味なんですか?
実はぼくが高校1年生のときに初めて買ったコートが、バルカラーだったんです。釣りに例えるなら、フナに始まりフナに終わるみたいな思いもあって(笑)。あとはやっぱりぼくの年齢で東京に住んでいると、分厚いオーバーコートよりはバルカラーのほうが季節を問わずに着られるから便利だよね。まあ、頑張ってない感じが好きなんですよ。
トレンチよりもバルカラー派なんですか?
実はぼく、コットンギャバジンのいわゆるトレンチコートって、一着も持っていないんです。
それは意外ですね!
いや、なんか買い逃しちゃったというか、食べ頃を逃しちゃったというか。どうしてもトレンチって、そのルーツを考えてもバリバリ働く男のイメージじゃない? 若林豪みたいなタフな男がトレンチ着て酒場で飲んでるみたいな(笑)。ぼくはもともとそういうキャラじゃないし、これからトレンチをこなすのにも時間がかかるから、バルカラーのほうがいいかなって。
とはいえこのバルカラーも、初めて袖を通したとは思えないこなれっぷりですが、なにか着こなしの秘訣とかテクニックはあるんですか?
襟は軽く立てますね。ボタンは着こなし次第だけど、一番上まできっちり留めるのも好きです。バルカラーはスーツはもちろんだけど、カジュアルにも合うのがいいですよね。映画『ティファニーで朝食を』のジョージ・ペパードや、『パリの恋人』のフレッド・アステアのスタイルがいいお手本です。スカーフを合わせたり小物にこだわるのは大切だけど、あまりマニアックになりすぎないように心がけたいですね。
画伯はイラストレーターとしてそういう素敵なコートスタイルをたくさん描かれてきたと思いますが、バルカラーコートって描くのは難しいんですか?
ベルトの絞り方次第でシルエットをドラマチックに変えられるトレンチコートと違って、バルカラーはただ立っているだけだと、ストンと落ちるだけでサマにならないんです。だから前を開けてポケットに手を入れるとか、キャラになにかをさせないとダメ。あとドレープは想像で描くと大抵失敗しちゃうから、実際に着て、いろいろなポーズを写真に撮ってから描くようにしています。丈が長いコートは中途半端にトリミングできないし、これがけっこう大変なんですよ(苦笑)。
なるほど、そういうイラストレーターとしての視点が、まさに“絵になる”着こなしにつながっているのかも!? でも画伯は今までたくさんのバルカラーコートに袖を通してこられたと思いますが、今回の『100年コート』はいかがでしたか?
ちょうどいいレングスといい、ちょっと裾が広がったAラインのシルエットといい、この先絶対に飽きずに着られますよね。ライナーを取り外せば春先だって使えるわけだから、色んな着方が楽しめますし。昔は着丈の短いものや逆に超ロング丈も着たことあるけど、やっぱりこれくらいがいいですよ。
実は取り外し可能なライナーや貫通ポケットみたいな凝ったディテールは、現在の英国ブランドのコートでもなかなか見られないと思います!
そうなんですか? きっとつくるの面倒だもんね(笑)。イギリス好きのぼくも、これならめちゃくちゃ着ますよ。
画伯がこれからの人生、どんなふうにこのコートを付き合っていかれるのか、とても楽しみです。
これはぼくだけじゃないと思うけど、やっぱり歳を取ると、重いコートを着るのが億劫になってくるんです。特に東京なんて冬でも室内に入ればあったかいから、気がついたらどんどんジャンパーとかフリースとか、楽な格好ばかりになってきちゃう。でも、ぼくはどんなに歳を重ねても、このコートを着て出かけるくらいの元気さは維持したい。だから最近、カッコいい70代を見据えてエクササイズを始めました。70代後半になってもこのコートを着て、夜の銀座に行きたいよね。実はこういうコート、小料理屋の女将にけっこうモテるんですよ(笑)。
<100年コート>
クラシックモデル
バルマカーンコート ¥177,100

綿谷寬/イラストレーター
1957年東京生まれ。小学3年生のときに 兄の『MEN’S CLUB』を盗み見したことをきっかけに、お洒落とイラストレーションに目覚める。セツモードセミナーを経て、1979年に雑誌『POPEYE』でデビュー。50年代のアメリカ黄金期を彷彿させる正統派ファッションイラストと、コミカルなタッチのイラスト、さらに洒脱なエッセイを自在に使い分ける、日本を代表するメンズファッションイラストレーターとして活躍する。そのウェルドレッサーぶりとユーモアのある人柄も、業界内外で愛されている。著書は『STYLE 男のファッションはボクが描いてきた』(小学館)。家族は一男一女一妻一犬。ニックネームは「画伯」。

Coat for life 2025