

革靴を全力で楽しむために知っておきたいことも、いよいよ最終章! Vol.10で教わった道具を使ってシューケアを実践します。日々のケアや月に一回程度の磨きが、革靴を長く愛用するためには欠かせません。しかしながら、面倒だと感じそれを避けたくなる気持ちもあるというもの。かくいう筆者もズボラ(笑)。だからこそ、これならできそう! という最低限を教わってきました。
あくまでここはスタートライン。やっていくうちにもっと……となっていくのも男の性ってもんですから、基本をマスターして、これからやってくる“沼”に備えましょう!

ライター
細谷 駿人
埼玉県生まれ。メンズファッション雑誌で編集として勤務し、2018年に独立。ファッションメディアを中心に時計や美容の編集/ライターも務め、カタログや広告のディレクションも手がける。ごりっごりのゆとり世代のお調子者(笑)。

三陽山長 日本橋髙島屋S.C.店 店長
上村 哲平
高身長のすらっとしたスタイルに爽やかな笑顔が特徴の店長。ファッション好きがこうじて三陽山長に入社し、その後革靴の沼にハマってその暦なんと16年。休日問わずに革靴を履き続けるほどにどっぷり浸かり、今では革靴を履かない日の方が違和感を感じるとか。

細谷 前回教えていただいたことを、今回は実践したいと思います。ちゃんとできるか不安ですが、上村さん、よろしくお願いします!
上村 かしこまりました。そこまで意気込まなくても大丈夫ですよ。以前もお伝えしましたが、大事なことは継続することです。
細谷 毎日、あるいは月に数回などのスパンでやるっていうことを経験していないので、できるかな〜という心配はあります。これに尻込みしている方も少なくないと思うんですよね。
上村 そうですね。なので、私は「まずブラッシングだけでも始めてみませんか?」と提案しています。
細谷 それならハードルは高くないですね。実は、ブラッシングするのは結構好きなんです。無心になれるというか、以前シューツリーを購入してから毎日するようになりましたし。
上村 細谷さんのように、徐々にでいいんです。すでに実感している通り、あとは自然とハマっていきますから(笑)。
細谷 そうなんですよ! ブラシを使うようになって、ホコリや汚れが気になるようになったのもあります。帰ってからも、シューツリー入れてそのままブラッシングと、無意識に一つのルーティンになっています。ブラッシングだけなら、2〜3分程度ですし。
上村 いい感じですね! それではやっていきましょうか。先日購入した兼三郎を見せていただけますか。


細谷 一つやっちゃったかも? と思ったのが、この企画のことを考えるとシボ革だったのはミスだったかな……と(笑)。
上村 前回の撮影からは1ヶ月程度ですからね、確かにシボ革ではそこまで大きな変化は出ません。ただ、それがこの革のメリットですから。傷や汚れが目立ちにくく、手入れもシビアではないので、ビギナーさん向きです。
細谷 それを肌で実感しています。履きジワもそうですけど、そこまで目立たないんですよね。でも、履き心地はどんどん良くなっている。外側は綺麗で、内側は馴染んでいくという気がして、僕のような面倒くさがりにはピッタリだなって思います。これでも変化は出ますかね?
上村 大きな変化はないですが、光沢感が増して傷が目立ちにくくなるのでわかると思いますよ。ご自身で履いている靴ならなおさら。
細谷 そうですね。今見ると、履きジワの他にトウが少し傷ついているのと、やや黒さがくすんでいるように感じます。
上村 磨きまでしっかりやれば、バッチリ解消されます。

細谷 まずは、前回もやったブラッシングからですね。使っているブラシはどんなものですか?
上村 こちらは馬毛のブラシです。しなやかで柔らかい毛足になっていて、ホコリ取りに向いています。
細谷 シューレースは外したほうがいいんですか?
上村 外したほうがより細部までホコリは取れますが、それを毎日やるのは面倒ですからそのままで問題ありません。数ヶ月に一度、本腰を入れて鏡面磨きまでやる際には、外してあげるのがいいです。
細谷 なるほど。では今回はそのままで行きます。ブラッシングで注意することはありますか?
上村 気にするところはコバの部分ですね。この溝にホコリが溜まりやすく、奥に入って取りづらいのでしっかりブラシを入れていきます。
細谷 かき出すようなイメージですね。
上村 なので、ブラシも払うように使うのがいいです。ゴシゴシっていうよりは、サッサッって感覚。
細谷 わかりやすいです。こうしたシボ革のUチップだと、わずかでも凹凸があるぶんホコリが溜まりやすかったりするんですか?
上村 大きな差はないので、そこまで神経質にならなくていいです。Uチップだと、アッパーの縫い合わせ――飾りモカの部分はしっかりやる、くらいで大丈夫です。

上村 前にも言いましたが、手慣れてますね。
細谷 ありがとうございます! 形から入るので、カッコいい持ち方を教わりました。誰に見せるわけでもないですが……(笑)。でも実際ブラッシングしやすいので楽です。
上村 つま先をテーブルに置いた方がもっと楽にできますよ。シューツリーを入れると重くなるので、ずっと片手で持ち上げていると疲れちゃいますから。
細谷 シューツリーなしでやってはいけないんですか?
上村 ダメってことはないですが、シューツリーを入れた方が、革がしっかり張った状態でできるので、隅々までできます。
細谷 そういった意味でもシューツリーは重要なんですね。
上村 そういうことです。では次のステップに行きましょう。

細谷 次は、すっぴんにするってやつですね!
上村 そうです。クリーナーを使って、古いクリームや汚れを取っていきます。クロスを指に巻き付けて、クリーナーをつけて円を描くように靴全体に塗り込んでいくイメージです。
細谷 クリーナーの量はどのくらいですか。
上村 少量を取って塗り広げていって、足りないなって思ったらまた少量取って……という具合です。
細谷 少しずつクロスに取ってやっていくんですね。このクロスは以前仰っていたように、着なくなったTシャツの切れ端などで代用できるんですよね?
上村 そうです。塗り広げていくと、クロスに黒ずんだものが移っていきます。これが古いクリームや汚れです。
細谷 古いクリームが残っていると、どんなことが起こるんですか?
上村 古いクリームが残ったまま上塗りをしてしまうと、クリームが固まってしまって綺麗に染色されず、見栄えも悪くなってしまいます。
細谷 そうなると結構しっかりやった方がいいんですね。
上村 でもゴシゴシやる必要はありません。全体的に薄く塗り広げるぐらいで。黒ずみが移らなくなるまでと考えてたくさん使ってしまうと、クリームが溝に溜まってしまいますので。
細谷 何事も程良くですね。

細谷 手つきが慣れないから、やりづらいですね。でもしっかり取れてます。
上村 そうですね。指は1〜2本使ってやるのがちょうどいいですね。
細谷 2本指の方が広い分、素早くできますね。時短するならこっちかも。丁寧にやるなら1本指って感じかな。
上村 そうですね。そこまで神経質にならなくていいことなので、はっきり言って好みです。
細谷 奥までしっかりやんなきゃ、って思っているからか、時間をかけちゃいますね。先ほどから、上村さんが仰っているように身構えるほど億劫になっちゃう気がするので、楽に考えた方がいいですね。
上村 その通りです。
細谷 クロスは基本使い捨てですか?
上村 そうですね。もちろん洗っていただければ何度も使えますが、Tシャツの切れ端などでやるなら、使える部分がなくなったら捨ててもいいと思います。
細谷 これに向いているTシャツの特徴ってありますか?
上村 ストレッチの入ったいわゆる化繊系のものではなく、コットンがいいです。クリームを取るためなので、上質な素材というよりは多少毛羽立った目の荒いTシャツが向いています。
細谷 じゃあ本当に着古したものがいいってことですね。
上村 はい。すっぴんになったので、今度は靴に合わせてクリームを塗り込んでいきましょう。
細谷 わかりました! 一度クリームを入れた磨きまでを見せていただけますか?
上村 かしこまりました。


上村 クリームも少し取って塗って、を繰り返していきます。
細谷 専用のブラシを使うんですか?
上村 これは人によります。先ほどのようにクロスを使う方もいれば、指で直接塗る人もいます。ブラシだと手が汚れないのがメリットです。
細谷 これも先ほどのクリーナーと同じようにさっと塗り広げていくんですね。
上村 はい。うっすら表面がくもっているかな〜くらいでいいです。
細谷 塗りすぎてしまうとどうなってしまうんですか?
上村 革も吸収できる量が決まっているので、表面に残ってしまうだけで意味がなくなってしまいます。あとは、乾拭きの時間が伸びてしまいます。
細谷 塗り込むと全体がくすんで光沢がない見た目になりますね。
上村 それがうまく塗り広げられている証拠です。全体に塗り広げたらそれをブラッシングして馴染ませていきます。
細谷 このブラシは先ほどのものとは違うんですか?
上村 こちらは豚毛です。ホコリ取りの馬毛ブラシより、少しハリがあります。先ほどのようにさっとではなく、少し力を入れてしっかり全体をブラッシングします。
細谷 うわ! すごい!! 一瞬で変わりますね。
上村 くもっていたクリームが革に馴染むので、一気に艶が出ます。
細谷 これはすごい。この瞬間が一番アガりますね!
上村 ここまで丁寧に手順を踏んでいるので、変化が大きく見えるんです。また、多少クリームを塗りすぎてしまっても、天然の豚毛はクリームを吸ってくれるので、ある程度余分なクリームはここで取れます。

[左がクリームを塗り込んだもの。右がブラッシングした後のもの]
左がクリームを塗り込んだもの
右がブラッシングした後のもの
細谷 並べてみると一目瞭然ですね。
上村 ここの変化が一番気持ちいい瞬間です!
細谷 ブラッシングした瞬間にガラッと変わるので楽しいですね。こういう目に見えて綺麗になるのが味わえると、ハマるのもわかる気がする。
上村 そうですね。あとは先ほどの横に入った履きジワも、シワの向きに合わせてブラッシングすると……。
細谷 すごい、消えましたね!
上村 革に油分が入って、シワが伸びるんです。
細谷 これはわかりやすい。これで終わりですか?
上村 これでほとんど終わりです。ただ、革の種類やクリームの種類によっては、表面にベタつきが残ることがあります。そうすると、ホコリや汚れを吸着させやすくなってしまうので乾拭きをして馴染ませていきます。
細谷 仕上げということですね。
上村 はい。最後に、このミトンのようなクロスを使って全体を拭き上げます。

細谷 工程としては、浸透させた後に余ったクリームを取り除く作業ですね。
上村 全体を拭いて馴染ませたらOKです。
細谷 これって、先ほどのTシャツのように代用できるものはありますか?
上村 乾拭きはサラッとしたものがいいです。昔から言われているのは、ストッキングですね。
細谷 このミトンもマイクロファイバーっぽいですもんね。
上村 なので、目が細かくざらつきのある化繊系のもので代用するのがいいですね。
細谷 クリームを塗り込むのはコットンで、乾拭きは化繊。身近なものでできるのはいいですね。
上村 この乾拭きでもさらに艶が増すので、やっていて気持ちいいですよ。


細谷 一通り終わりましたね。磨く前と比べると全く違うのがわかります。黒さに艶が出て、購入した時に近づきました。
上村 2ヶ月履いた靴でもこうした手入れをするだけで蘇るので、続けていけばずっといい色と艶で履くことができるんです。
細谷 トウの傷も消えてません?
上村 擦り傷なども多少処理できるので、目立ちにくくなっていると思います。
細谷 慣れればどんどん時間も短くなりますし、手間じゃなくなるかも。
上村 そうですね。10分もかからないという方もいるくらいですから、ブラシは毎日のルーティンにしていただいて、数ヶ月に一度こうした時間を作っていただければ。
細谷 壊れて修理に出すくらいなら。その方がコスパはいいですね。
上村 革靴を履く頻度が少ない方は、履く前と後にブラシや手入れをしていただいても十分です。
細谷 ブラシも確か、豚毛のものでホコリ取りもできるって話でしたよね。
上村 代用できます。
細谷 それぞれ代用できるものがあるのはありがたい。一つ気になったのは、クロコダイルのようなエキゾチックレザーだと、また変わるんですか?
上村 素材によって使うクリームなどに多少の違いはありますが、ケア自体に大きな変化はありません。購入の際に手入れについて、店員さんに聞いてみることをオススメします。
細谷 なるほど。ちなみに、友二郎にあるような鏡面磨きって、シボ革の兼三郎にもできたりするんですか?
上村 ワックスでコーティングをすることで鏡面とまでは行かずとも、さらに光沢感は増しますよ。
細谷 前回の締めでも見せてもらいましたが、今回もパフォーマンスお願いできますか? 僕の靴に……(笑)。
上村 ははは。かしこまりました。
細谷 しているものとしていないものでどう違うのかも見比べたいです!
細谷 ワックスには違ったクロスを使うんですね。
上村 ワックスは少し毛羽立ったネル生地を使います。
細谷 ワックスをご自身でやる方もいるんですか?
上村 いらっしゃいますよ。ちなみにワックスは硬いものと柔らかいものがあって、どちらを使ってもいいんですが両方使った方が綺麗に仕上がります。
細谷 2種類使うんですか!? 僕からすると雲の上の話ですね(笑)。
上村 そのうちやるようになるかもしれませんよ?(笑)
細谷 もうお腹いっぱいです。でも、さっきのクリームとは違って塗ったのがひと目でわかりますね。
上村 油やロウが主成分になるのではっきりとわかります。基本的には芯が入っている箇所にだけやる形です。
細谷 このシボ革だとあまり効果ないですか?
上村 そんなことはありません。ただ、シボを埋めるくらいワックスを塗り重ねていく必要があります。
細谷 有機溶剤の独特な匂いがしますね。芯がある箇所にだけというのは理由があるんですか?
上村 理屈上では全面できるんですが、屈折する部分にワックスを塗り込むと曲げた時に割れてしまうんです。
細谷 なるほど。だから曲がらない、硬い部分にやるんですね。
上村 つま先や踵が主な箇所ですね。
細谷 塗ってからどのくらいもつんですか?
上村 頻度にもよりますが、1ヶ月くらいはもつと思います。
細谷 結構長もちするんですね! 塗り込んだあとは?
上村 そのあとは少し水を含んだクロスで馴染ませていきます。
細谷 徐々に光沢感が出てきてますね!
上村 仕上げに柔らかいワックスを使います。少し割れづらくなるかなと思っているので、ここは好みです。
細谷 ありがたいです。これは最後のブラシは必要ないんですか?
上村 しなくても大丈夫です。ワックスした部分の境目を馴染ませたいので、やった方がたたずまいは綺麗かな、と思います。

[左がワックスをかけていない方。右がワックスをかけた方]
左がワックスをかけていない方
右がワックスをかけた方
細谷 ピカピカ超えてビッカビカになってますね(笑)。ワックスをかけるとここまで印象が変わるんですね。
上村 カジュアル向きなUチップですが、ドレッシーな雰囲気になりますね。
細谷 シボ革でうまくできるかな〜と気になりましたが見違えました。ケアの域を越えてアレンジに近い感覚。
上村 自分好みにシューズを作っていけるのも、革靴の楽しみ方の一つですね。
細谷 一足購入しただけでも、色々幅が広がっていくのは革靴ならではですね。まずは今日実践した手入れを自分でやっていくことからですね。
上村 一年通して、細谷さんもかなり知識を深めたんじゃないですか?
細谷 玄人になれますかね?(笑) 玄人というよりハマりつつあるか……(笑)。
上村 先ほどブラッシングにハマっていると言っていたので、もうすぐそこですね!
細谷 今日はありがとうございました! と言いたいところですが、もう片足もお願いできます?(笑)
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