「純白」「漆黒」誕生の裏側
人生を共にできる革靴好きのためのスニーカー
「純白」「漆黒」誕生の裏側
人生を共にできる
革靴好きのためのスニーカー
“革靴屋がスニーカーを作る” ―― 単純に見えてどこにらしさを出すか、そこに向き合った結果リリースしたのは、革靴作りの技術を惜しみなく注ぎ込んだ「純白」と「漆黒」。ここでは、その誕生の裏側に迫ります。本作の生みの親である企画兼営業担当の濱田 甫さんに誕生秘話を伺いました。
三陽山長 企画兼営業担当
濱田 甫
2019年より三陽山長の企画担当となり、様々な企画を立案するだけでなく店舗運営もこなす。ここ最近は三陽山長の公式YouTubeチャンネルにも登場し、卓越した手腕を披露しています。ひたむきに革靴と向き合い続ける、紳士的革靴愛好家。
スニーカーを作るきっかけとなったのは、「これが三陽山長のスニーカーです」と胸を張って言える一足を作りたいと思ったからだそう。
「現代において、硬い靴を履きたくない、硬い靴に慣れていない、という人が圧倒的大多数になっています。さらにスーツを着る機会が確実に減っているので、そもそも革靴を履く機会も少ない。いわゆるビジカジが定着してから顕著になりました。そうなると、革靴よりスニーカーに支持が集まるのは当然です。でも、普段から革靴に慣れている身からすると、履きたいと思えるスニーカーって、実は案外なくて。デザインはもちろんですが、やっぱり素材や仕立てが気になってしまう。だから、とにかく上質なスニーカーを、自分達が自信を持って履きたいと思えるスニーカーを作りたかったんです」
コンフォート化が進む現代では、スーツもフォーマルなものよりジャージー素材を使ったものやスポーティな雰囲気のセットアップが人気になりました。足元も同様で、スニーカーもより軽く、よりアクティブになってきています。そんな中で三陽山長が手掛けたのは、シンプルなコート系。この選択にも大きな理由がありました。
「はっきり言って、今からスポーツブランドが作っているようなものを自分たちが作っても劣りますし、我々自身が納得できない。なので、そもそもそのラインに立とうとは思っていませんでした。また、三陽山長に足を運んでくださるお客様は、目の肥えている方が多いですから、恥ずかしくないものを作りたかった。そこで注目したのは、コンフォートなジャケット&パンツに合う靴です。いわゆるシャカシャカ系やジャージーなセットアップには、革靴よりスニーカーの方が合いますから。シンプルなローテクをモデルに選んだのは、革靴好きが納得できて、楽な格好にも合わせられるものが作れると思ったからです」
聞けば、革靴を嗜む人の目線では、世の中にあるレザースニーカーは「どこか違う」と感じることもあるそう。そこから行き着いたのが「革靴の製法で作るスニーカー」だった。
「最初に追い求めたのは、“革の質感をどう残すか”でした。一般的な真っ白や真っ黒のレザースニーカーは、仕上げに顔料を使った革がほとんどです。そうした革で作ると、パリッとしていて革本来の表面感がなくなってしまいます。それはしたくなかった、上質な革の質感をとにかく前面に出したかったんです」
その結果辿り着いたのが、日本最大の革産地である姫路の老舗タンナー「山陽」が手掛ける「黒ヌメ」と「白革なめし」。
「一見、何の変哲もない色違いの革だと思っていたのですが、実は作り方が全く違うんです。“黒ヌメ”は染料とオイルを使って深みを出していく方法に対して、“白革なめし”は色を抜いていく薬品を使っているので、工程として真逆になります。また、“純白”に関しては革の質感を残しつつ澄んだ白、いわゆるピュアホワイトを実現しているので、よくある白スニーカーとは一線を画した雰囲気に仕上がりました」
革靴のような質感を出すために選んだ革とあって、メンテナンスをしていけば育っていくそう。濱田さんいわく「“純白”は質感に味わいが滲み出て、“漆黒”は艶が増していく」とのこと。
アッパー素材に時間と手間をかけたレザーを選んだことで、作りも妥協を許さなかったのだとか。
「作りの話をすると、やっていることは革靴と全く同じです。アッパーを作って木型に吊り込んで……。中底の部分も一般的なスニーカーとは違って革を使っています。そしてサイドマッケイでアッパーとソールを縫い合わせているので、この糸を解けばソールも中底も取り外すことができます。つまり、それぞれ交換ができます」
聞けば聞くほど一般的なスニーカーとは程遠く、スニーカーであってスニーカーではない靴といったところ。中底にレザーを使っている分、履き心地を考えインソールは厚みのあるクッションソールを採用しています。スニーカーに求める快適さもしっかりと補完。
「感覚的には履いた瞬間は柔らかいんですが、革靴同様に履き込むほどに革が柔らかくなって、中底の革に自分の足型のクセがついてくるので、自分にぴったりな一足に育っていきます。なにより、オールソール修理が容易にできるのが強みですね」
「これが、革靴屋が作るスニーカーだ」と濱田さんは言う。そう言わしめるとあって、革靴と同様のシューケアとリペアが可能。さらに自身にフィットするように経年変化していくことから、サイズ選びも革靴と同じだという。通常のスニーカーと根本的に考え方が異なるので、選び方も注意が必要です。
「極端な話、ドレスシューズにやっているような鏡面磨きも可能です。そして、スニーカーなので、汚れてもそれが味わいになってきます。キレイに使うのも、無骨に使うのも履く人次第。シンプルな一足ですが、“純白”と“漆黒”をどのように履き込んでいくかで、全く違う仕上がりになると思います」
遊び心を残した新作をみて、「今後は“友二郎”と“勘三郎”にならぶ、第三のマスターピースにしていきたい」と、今後の展望を述べる濱田さん。スニーカーの皮を被った革靴、と言っても過言ではない比類なきジャパンスニーカーは、革靴好きも認める極上のローテクと言えます。
▼ THE INTRODUCTION ▼
NEXT▶