

革靴偏愛エディター×三陽山長で作る
「次世代のオンオフ兼用靴」
三.
サンプル完成!
……が、完成にはまだ遠し
365日革靴を履く私・エディター小曽根と三陽山長による新作シューズ開発もいよいよ佳境。“オールド・イタリア”、“カジュアルにも合うスクエアトウシューズ”というこれまでの三陽山長になかったコンセプトを掲げて発進し、いよいよサンプルシューズが上がってきました。はやる気持ちを抑えつつ仕上がりを目の当たりにすると……あれ、思っていたものとちょっと違う⁉

取材・文
取材・文
編集者 小曽根 広光
編集者 小曽根 広光
かねてから無趣味なのが悩みだったのですが、最近は「オーダーメイド」と答えるようにしています。現在はビスポークのスーツ1着、ジャケット3着、レザーウェア1着、靴1足、絵1点、メイド・トゥ・オーダーのメガネ1本が進行中。ひとつ完成すると「早く次もオーダーしないと」と若干焦りがちなのですが、これって禁断症状?
スクエアトウのつもりが、なんだか丸っこい……
スクエアトウのつもりが
なんだか丸っこい……

上のプロフィールで書いたとおり、私のライフワークはオーダーメイド。なかでもビスポークが大好物なのですが、そこには大抵“仮縫い”というプロセスがあります。本番を製作する前にざっくりと組み上げたサンプルのようなもの(服の場合は裁断を終えた生地を仮留めしたもの)を作ってもらい、フィット感やデザイン、全体のバランスなどを確認&調整するのが目的です。最初のうちは“どこか気になるところはありますか?”と尋ねられてもよくわからず、“いえ、特に……”と目を泳がせながら答えるのが精一杯だったのですが、ある時からなんとなくリクエストすべきポイントが見えるようになってきて、最近は図々しく“ここをもう少し修正できますかね?”なんて注文をつけたりしています。
さて、今回ご紹介する靴作りの模様はちょうど“仮縫い”にあたるものですが、いつものような気楽さではとても臨めません。サンプル完成の一報を受けたときには、“イメージどおり仕上がっているかな……”と巨大なプレッシャーが押し寄せてきました。聞けば今、サンプルは浅草のファクトリーにあるとのこと。これはできる限り早くチェックせねば!
私の一軍シューズと“理想の靴”のイメージ
私の一軍シューズと
“理想の靴”のイメージ

……ということでやってきました、三陽山長の浅草ファクトリー。昨年は毎月のように取材で通っていたので、再訪するとなんだか安心感を覚えるようになってきました。出迎えてくれたのは、ファクトリーマネージャーのキムさん。「こちらがサンプルです。アッパー素材はダミーの革で、吊り込みや底付けも仮組みですから、フォルムの立体感はもっと出てくると思います」とのこと。なるほど、そのあたりは仮縫いと同じ感覚ですね。どれどれ……
うんうん、これまでの三陽山長とはひと味違う顔つきになっていて、これに本番の革が乗るとさらに個性が引き立ってきそうです。ただ……、今回最大のポイントはスクエアトウの木型なのですが、なんだかラウンドトウっぽい? 一体どうしてでしょうか……
私の一軍シューズと“理想の靴”のイメージ
私の一軍シューズと
“理想の靴”のイメージ

こちらが、今回新開発した木型「R3021」。これだけ見ると、確かにスクエアトウです。つま先の幅を広くとるとこで、四角いけれどシャープすぎない“オールド・イタリア”感がよく表現されていると思います。でも、実際靴になると予想外に角が取れた印象に。これは、木型を修正したほうがいい……?
「難しいところではありますが、問題は別のところにあるかもしれません」と話すのは、ファクトリーに同行してくれた三陽山長・企画担当の上村さん。「木型をもっと鋭角に修正すると、ちょっとトゥーマッチな印象になってしまうかもしれませんね。というのも、現状でもアッパー自体はスクエアトウに仕上がっています。丸く見えるのは、アウトソールのコバが丸みを帯びていることが原因ではないでしょうか」
なるほど! ということは、ソールのトウ周りをもっと四角く修正すればいいってことですね。じゃあ、さっそくリクエストをキムさんに伝えて……
「ちょっとお待ちを。まだ何日か時間に猶予がありますから、一度オフィスに持ち帰ってじっくり検討しましょう。履き心地や服装と合わせたときのバランスなど、実際に足を入れてチェックしたほうがいい箇所もありますから」と上村さん。確かに、急いては事を仕損じるといいますもんね。というわけで、後日ふたたび検討の機会を設けることにしてファクトリーをあとにしました。
じっくり見て、履いて、修正ポイントを吟味
じっくり見て、履いて
修正ポイントを吟味


というわけで、数日後に改めて三陽山長オフィスへやってきました。「さっそく履いてみてください。姿見もありますから」と企画兼営業担当の濱田さん。今になって考えると、やはりファクトリーで慌ててチェックするよりも、広いところで落ち着いて吟味しほうが細かいところまで目を配れますね。
……フィッティングについては、さすが三陽山長といったところ。まだ本番の仕立てではないので履き心地は十分にわからないところもありますが、現時点でもカカトが浮いたりすることはありません。新しい木型ですが、見た目とともにフィットが変わってしまう心配はなさそうでした。


さて、改めてサンプルを見てみましょう。やはりラウンドトウのような印象が強いですね。ここを修正するのが一番のキモになりそう。それから比べてみると、一番右のプレーントウは履き口がかなり広くとられているのがわかります。そのぶん甲が短く見える形になり、これは近頃人気のパンプス風ローファーにも通じるところがあっていいなと思いました。ただ、足をホールドする面積が少なくなるので、フィット感の観点からするともう少し履き口を小さくしてもいいかもとのこと。う〜ん、これは迷う……。でも、現状でもユルく感じることはないですし、せっかくの個性が薄まってしまうのはもったいなので、ここは現状をキープしましょう!
3足ともに、コバの修正が最重要ポイント
3足ともに、コバの修正が
最重要ポイント


ではいよいよ、本格的に修正を。まずUチップから見ていきましょう。こちらは小さめのエプロンにスプリットトウというデザインがポイントです。つまみ縫いで仕上げることで力強い表情を演出しているのも特徴ですね。ただ、“オールド・イタリア”感を盛り上げるにはやはりスクエアトウでなければ……そこで、コバを角張らせる修正を加えました。
「やはり木型は現状維持で正解でしょうね。コバも四角く、木型も四角く、という造形だと、ちょっとわざとらしい印象に見えてしまうと思います。あくまでスクエアでありながら、コバとラストの鋭角感に差をつけることでメリハリが生まれるのでは」と上村さん。確かにそうかも!
あわせて気になったのが、羽根の形状。こちらのサンプルでは羽根の先が三角形を描くVフロントになっていますが、クラシックな表情にするならもっと水平に近づけてもいいかも。加えて、U字のエプロンをもう少し小さく。これによって、より独特な雰囲気になりそうです。
穴飾り大きめの素朴さは活かしたいけれど……
穴飾り大きめの素朴さは
活かしたいけれど……


続いて外羽根セミブローグ。こちらもトウのコバを角張らせるのは同様ですが、迷ったのはパーフォレーション&メダリオンの大きさでした。もともと、あえてカントリーシューズと同じくらい大きな穴飾りを入れて素朴な雰囲気を狙っていたのですが、トウキャップやメダリオン部分を見ると穴が横に伸びてしまっています。本番はスエードも乗せることになるので、より穴が広がってしまうかも。これはちょっと気になる……というわけで、穴の大きさを0.5㎜だけ小さくすることにしました。「トウキャップやベロなどのピンキング(ギザギザの刻み)はどうしますか?」と訊かれましたが、こちらは現状をキープして素朴さを活かすことに。
シンプルながら個性が光るプレーントウに
シンプルながら
個性が光るプレーントウに


外羽根プレーントウもUチップと同様に、羽根をより水平に近づけてクラシック感をアップ。前述した履き口広めのデザインとあいまって、シンプルながら個性のある靴になりそうです。外羽根プレーントウといえばミリタリーのオフィサーシューズが定番ですが、それともひと味違った顔つきに仕上がりそう。ブーツカットやストレートレッグなど、裾幅広めのカジュアルパンツに合わせても相性が良いかもしれません!
3タイプのデザインで新モデルを製作決定!


修正箇所をまとめると、こんな感じになりました。コバを角張らせてスクエアトウの雰囲気をしっかり出すというところが一番重要なポイントでしたが、それ以外のデザインはかなりよくまとまっている印象。微差を調整する程度で大きな変更は不要でした。
さて、次回はいよいよ完成品をお披露目。実際に私物の服と合わせて、コーディネートについても色々検討してみようと思います。ぜひ、ご注目ください!

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