1980年代の
東ドイツで見つけた
私のコートスタイル
キャスター・ジャーナリスト
安藤優子
YUKO ANDO
日本の“かっこいい”女性キャスターの先駆者ともいえる安藤優子さんは、近年そのファッションセンスでも注目の的!中でもコートには目がないという安藤さんに、その溢れるばかりの愛情と、見事なセンスのルーツを伺った。
- 安藤さんは自他共に認めるコート愛好家だと伺っていましたが、今日の見事な着こなしでそれが実証されました!
- もう好きすぎちゃって、お店を開けるくらい持っています。クローゼットに入りきらないのでずいぶん処分したんですが、それでもまた買っちゃう。これは深刻な問題です(笑)。
- 安藤さんをそこまで駆り立てるコートの魅力ってなんでしょうか?
- コートって、すごくドラマチックじゃないですか。私がコート好きになったのは、1980年代に東ドイツのベルリンを取材したときだったんですよ。
- 東ドイツですか?
- まだドイツが東西に分かれているときで、東ドイツはバリバリの社会主義国。当然私たち取材班には、面倒を見てくれる・・・というか監視役の女性がついていたのですが、彼女がコート好きで、毎日色んなデザインのコートを着て現れるんです。それが信じられないほど素敵だったのですが、なかでも一番私の記憶に残っているのが、トレンチコートだったんですよね。
- 素敵といっても、当時の東ドイツはそれほど豊かな環境ではなかったわけですよね?
- そう。彼女は物資に限りがある社会主義時代の東ベルリンで、精一杯のお洒落をしていたんですよ。どんよりした東ベルリンの冬の風景と、彼女の燃えるような赤毛、そしてコートの組み合わせは、物語の世界を彷彿させるほどドラマチックなものでした。彼女とはすごく仲良くなって帰国時には見送りに来てくれたのですが、そのときはトレンチコートにベレー帽を合わせていて、本当にかっこよかったです。コートが私にとって特別な服になったのは、それ以来ですね。
- 安藤さんはキャスターやジャーナリストとして世界中を飛び回る日々の中で、社会で活躍する素敵な女性たちのファッションを目の当たりにしてきたわけですね。
- そうですね。私がテレビに出始めた頃は、日本には女性アナウンサーはいても、女性キャスターなんていない時代。まだ原色系のスーツを求められるような状況でした(笑)。でもそんな時代に出会った、フランスをはじめとするヨーロッパの女性キャスターたちは、実にさりげないパンツスタイルで、ニュース番組に出演してもにこりともせず辛口のコメントを残すわけです。戦場のレポートをするときなんて、防弾チョッキもつけずにTシャツに短パン、ゴムぞうりみたいな格好で取材しているんですよ。男性におもねることなく自信を持って取材する彼女たちのスタイルには、すごく刺激を受けました。
- おそらく、日本のニュースキャスターでメンズ仕立てのジャケット&パンツスタイルでテレビに登場したのは、安藤さんが最初なのでは?と思いますが。
- それは本当にそうでした。だから最初の頃はハレーションがすごかったですよ。当時は女性キャスターが“男性の隣にいる”という役割を求められる時代。女性が男性と同じようなスーツを着ることは、許されていなかったんです。だから私は相当戦いました。プロデューサーからはキラキラを求められたこともありますが、自分が喋る内容よりも前に出てくる服は着たくなかったんです。ですから出張に行くときなんて、ブラックとネイビーのジャケットとパンツ1本、あとは白いTシャツだけで押し通してきました。あとはもちろん、トレンチコートも。
- やはりトレンチコートも愛用されていたんですね。
- もう、ありとあらゆるものを着てきました。トレンチコートはスウェットの上に羽織ってもサマになるから、中継のときにはすごく重宝するんですよ。現地時間午前4時、厳寒のワシントンDCからの取材とか(笑)、きっと映像にたくさん残ってると思います。
- コートにはどんな要素を求められますか?
- やっぱり普遍的なデザインで、長く着られるものという条件は外せませんね。
- それはトラディショナルということでしょうか?
- もちろんアメリカに留学していた時代もありましたし、トラディショナルな装いはベースにあるんですが、フランスの小粋さも原体験としてあるんです。だからそのふたつが合体したようなスタイルが好きですね。
- そんな目の肥えた安藤さんから見て、今日お召しになったコートはいかがでしたか?
- コートって、着る人のイメージづくりに最も大きな役割を果たす服だと思うんですが、そういう意味でこの一着は袖を通すことで自信を与えてくれる、申し分のないコートだと思います。SANYOCOATさんは昔からよく着ていましたが、『100年コート』というコンセプトもいいですよね。私、本当に物持ちがいいので(笑)。
- それは嬉しいお言葉です!
- ものづくりの丁寧さもさることながら、生地の発色、裾の広がり方、エポーレットの大きさや位置・・・。コートの力なのか、すごくドラマチックな表情が出ますよね! デザイン的にはトラディショナルにも、ラフに崩しても着られるコートだと思うのですが、今回はベージュの色味を生かしてホワイトを基調に着こなしてみました。
- マニアックにご覧いただきありがとうございます(笑)。コートづくりって、本当に細かいこだわりの積み重ねなんです。でも、安藤さんの迷いのない着さばき方も最高に素敵でした!
- 私、服に着られるのが嫌なんですよ。特にコートってすごく正直な服だから、その存在感に負けると、途端に借り物みたいに見えちゃうでしょう? そこでちょっと袖をまくって手首を見せたりするだけで、こなれた雰囲気になるんです。私はジャケットでもなんでもすぐに袖まくりしちゃうから、昔は“袖まくり安藤”と呼ばれてました(笑)。
- 安藤さんのようなスタイルのある方に着ていただけて、コートも喜んでます!
- トレンドとかブランドじゃなくて、好きなものは好きと言い続けたいし、自分のスタイルは譲りたくないですよね。・・・そうやって、またコートが一着増えてしまいました(笑)。
- ぜひ末長くご愛用ください(笑)!
<Rain Wool>バルマカーンコート ¥121,000
安藤優子/キャスター・ジャーナリスト
1958年生まれ。都立日比谷高校からアメリカ・ミシガン州の高校へ留学し、卒業後上智大学に入学。在学中にスカウトされ1980年にテレビ朝日系の『BIG NEWS SHOW いま世界は』でデビュー。同局『ニュースステーション』の報道では、ギャラクシー賞個人奨励賞を受賞する。1987年からは『スーパータイム』を皮切りにフジテレビの報道番組におけるキャスターを30年以上にわたって歴任。湾岸戦争の現場取材などを通し、新時代の女性キャスター像を確立する。現在TV番組への出演のほか、椙山女子学園の客員教授を務め、多忙な毎日を送る。Instagramなどを通して発信する気取らない素顔とファッションセンスも注目の的!