継承されていく技術や、
背景のストーリーに
心惹かれる。
アナウンサー
武田真一
SHINICHI TAKETA
長年ニュースの現場で活躍し、現在も幅広いメディアで活躍を続ける武田真一さんは、こだわって作られたものやヴィンテージを愛し、服も修繕しながら着ることを楽しんでいる。さまざまな経験を経た上での、もの選びの基準や、仕事に対する考えを伺った。
- 風格を感じるコート姿でした。着用感はいかがでしたか?
- もっとかっちりした着心地を想像していたんですが、実際に袖を通すと驚くほど体にフィットしました。カジュアルな服装にも自然になじんで、さすが王道中の王道だなと感じました。仕事でスーツを着ることが多い反動もあって、休日は少し力の抜けた服装をすることが多いんです。でも、こういうベーシックなアイテムも昔から好きで、古着のカシミヤのステンカラーコートなどもよく着ています。
- コートにはどんな思い出がありますか?
- 若い頃は、コートを「大人の象徴」のように思っていましたね。大学1年生のときに初めてステンカラーコートを買って、よく着ていました。映画で、コートを着た人がニューヨークの街を歩いていて、そのコートが風を受けてふわっと広がるシーンを見たことがあるんです。その姿がかっこよくて、「いつかあんなふうに着たい」と憧れていました。実際は風なんて吹いていないのに、自分でコートをひらひらさせたりして(笑)。今でもコートは好きで何着か持っています。柔らかい素材のものが好みですが、ここ数年は、きちんとした仕立てのコートにも惹かれるようになりました。今回100年コートを着てみて、改めてその魅力を実感しました。
- 洋服を選ぶときは、何を基準にしていますか?
- とにかく着心地がいいこと。最近はコットンやウールなど、自然素材のものばかり着ています。若い頃はアウトドアウェアのような高機能素材も好きでした。災害現場を取材することも多かったので、防水性や耐久性は本当に頼もしかったんです。でも年齢を重ねるにつれて、自然素材の気持ちよさを改めて感じるようになりました。それと、服が持つストーリーにも惹かれます。昔ながらの製法で丁寧に織られた生地だったり、職人さんが時間をかけて仕立てていたり、草木染めだったり。そういう背景を聞くと、ぐっと心をつかまれます。それから、日本の職人さんがどんどん減っているとか、技術の継承が少しずつ失われているという話を聞いていて、とても心配になっています。だから服を買うときも、できるだけ手仕事にこだわったもの、日本でつくられたものを選ぶようにしています。
- 100年コートは修繕しながら長く着続けることをコンセプトにしています。
- そこには本当に共感します。僕自身、古着も好きですし、服を直しながら着ることも楽しんでいます。体型が変わればサイズを直しますし、靴もソールを張り替えながら履いています。長年服を見てくれている“師匠”のような存在がいるんですが、その人はボロボロになったスエードのローファーに、パッチを当てて履いているんです。それが本当にかっこいい。このコートも今はまだ真新しいですが、袖や肘に少しずつ自分の癖がついて、刑事コロンボが着ているコートみたいに少しくたっとするくらいまで育てていきたいです。
- ご自身が受け継いで来たもの、受け継ぎたいものはありますか?
- 息子と体格が近いので、着られなくなった服を譲ることも多いです。でも最近痩せたので、何着か返してもらったり(笑)。父から譲り受けた服もよく着ていました。着倒して処分してしまったものもありますが、今思うと残しておけばよかったなと思います。僕はヴィンテージも大好きなんですが、2000年頃に買ったアコースティックギターが、25年くらい経ってようやくヴィンテージっぽくなったというか、自分だけの一本になってきた感覚があります。新品では味わえない、育てた時間が刻まれていく感じがすごく好きなんです。
- これからも変わらず守り続けたいものは何ですか?
- 「何でも楽しくやる」ということです。長くサラリーマンとして働いてきて、その頃は気づかなかったんですが、いろいろな人と出会って、一緒に仕事ができること自体が本当にありがたいことなんですよね。もちろん、仕事ではぶつかることもありますし、うまくいかないこともあります。でも、それも社会の中で必要とされ、誰かと一緒に何かをつくっているからこそ起きること。だから最近は、そういう出来事も少し俯瞰して見られるようになりました。「いいじゃないか、青春してるな」と思える自分がいるんです。嫌なことも苦しいことも含めて、健康で働けることが幸せなんだと思っています。年齢を重ねるほど、その時間が愛おしく感じられるようになりました。できることなら、これからもずっと現場にいて、人と関わりながら仕事を楽しんでいたいです。
武田真一/アナウンサー
1967年、熊本県生まれ。1990年にNHKへ入局し、『NHKニュース7』『クローズアップ現代+』など数々の報道番組でキャスターを務める。災害報道の現場にも数多く携わり、2016年には『NHK紅白歌合戦』の総合司会を担当。2023年にフリーへ転身し、現在は日本テレビ系『DayDay.』のMCをはじめ、ラジオ番組『JAM THE PLANET』(J-WAVE)のナビゲーターなどを務める傍ら、講演会やエッセイの連載、イベントMCなども精力的に行う。ギターとコーヒーが趣味。