服を大切にすることは、
世界との関係を
大切にすること。
一般社団法人エシカル協会代表理事
末吉里花
RIKA SUEYOSHI
末吉里花さんは一般社団法人エシカル協会代表理事として、消費と社会の関係性について発信を続けている。100年コートはその考え方と自然に重なるものだった。日々の積み重ねが、社会を形づくる──そんな視点からコートについて語ってもらった。
- 末吉さんが発信している、エシカルという考え方について教えてください。
- 私たちは、エシカルを「エいきょうを シっかりと カんがえル」ことであると伝えています。自分だけではなく、関わる人たちや地球環境、人間以外の生き物も含めて、誰も犠牲にならないあり方とは何かを、日頃から考えるよう心がけています。今は「リサイクルできるから」とものを大量に作って大量に消費する流れもありますが、それでは結局、地球環境への負荷を増やすことになり本末転倒だと感じています。大切なのは、まず今あるものを長く使うこと。その上で修理しながら次の世代へ渡していくことだと思います。
- 以前から100年コートを愛用してくださっていると聞きました。
- 100年コートは2013年に生まれたと聞いておりますが、私は2015年から愛用しています。知人が三陽商会さんで働いていて、コンセプトに共感したのがきっかけでした。私、工場にまでお邪魔したんですよ。職人の方々が丁寧にものづくりをされている現場を見て、とても感動したことを覚えています。
- 実際に着用されて、どんなところに良さを感じましたか?
- ライナーを付けるととても暖かく、外せば軽やかになるので、スリーシーズン活躍してくれます。肩を美しく見せてくれるラインや、きれいに立つ襟のデザインもとても好きですね。身につけた瞬間、細部まで丁寧に考え抜かれていることを実感できるコートです。今、これまで着ていた100年コートをメンテナンスに出させていただいているところなんです。本当によく着ましたが、着込むほどに風合いが増していくのが印象的でした。
- メンテナンスの話が出ましたが、100年コートは修理を前提にした設計をしています。
- 素晴らしいですね! それはヨーロッパでも最先端の考え方で、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の政策の中では、最初から修理しやすい設計にしたり、リサイクルしやすい構造にすることが重要視されているんです。 100年コートはまさにそういう想いでつくられていると感じますし、日本でつくられている服がとても少なくなっているなか、国内で丁寧に生産されている点にも感銘を受けました。
- ご自身も修理やリメイクをすることはありますか?
- 私は不器用で自分ではできないんですが(笑) 、黒染めやお直しなどを専門の方にお願いしています。日本にはもともとお直しを大切にしてきた習慣があったと思いますが、今ではものをメンテナンスに出すこと自体が、あまり一般的ではありませんよね。直すより買い替えた方が安い場合も多いですし。その点、フランスでは生産企業から集めた資金を財源にして、リペアの補助金に充てるというスマートな仕組みがあり、気軽に手入れをお願いできる環境が整っています。そういう文化が、もっと根付いていくといいなと思います。
- コートにまつわるエピソードはありますか?
- 中学、高校時代をニューヨークで過ごしたんですが、私の中でニューヨークのイメージってコートなんですよ。かっこいい女性たちが素敵なコートを肩で着て颯爽と歩いていたのを見て、そのパワフルな姿に憧れていました。だからコートを着ると、そのイメージが蘇って、自然と気持ちが引き締まるんです。でも実はアメリカのコートってすごく重いんですよ。みんな背が高くて体格もいいから気にならないんでしょうけど、日本人が着ると少し重たく感じることもあります。だからこそ、日本人の体に合わせてつくられた100年コートは、無理なく着こなせるところがいいなと思います。それでいて、ニューヨークで憧れた女性たちのような、凛とした佇まいも引き出してくれるように感じています。
- 末吉さんにとって、いい服とはどんな服ですか?
- まずは、どんな背景でつくられた服なのか、そのストーリーが見えること。フェアトレードの服をつくっている現場を訪れる機会が多かったのですが、そこでつくられた服を着ていくと、本当に喜んでくださるんです。つくる人とのつながりを実感できると、自然ともっと大切にしたいという気持ちになります。実は、今日つけているネックレスは、曽祖母の帯留をリメイクしたものなんですよ。曽祖母から叔母へ、そして私へと受け継がれてきました。そういうストーリーがあると誇りに思えますし、「素敵ですね」と言ってもらえると、ついその由来を話したくなりますよね。
- これからも大切にしていきたい価値観をお聞かせください。
- 私の好きな言葉に、宮澤賢治さんの「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」というものがあります。こういう活動をしていると、自分自身が持続可能でなくなってしまう瞬間もあります。それでも、世界のことを考えることと、自分を大切にすること、どちらも手放したくない。だから私は、無理をして頑張る一人の100歩より、100人がそれぞれの場所で小さな一歩を踏み出すことが、世界全体の幸福につながると信じています。
末吉里花/一般社団法人エシカル協会代表理事
1976年生まれ。中学・高校時代をニューヨークで過ごし、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、アナウンサーとして活動。TBS系『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターを務め世界各地を取材する中で、環境問題や貧困、人権といった社会課題への関心を深める。2015年に一般社団法人エシカル協会を設立し、持続可能な社会の実現に向けた普及啓発に取り組む。講演や執筆、企業・自治体との協働など幅広い活動を展開。日本におけるエシカルの第一人者として認知されている。