
過去と未来を繋ぐ「AMACA」のフィロソフィー【Part2】
Hideko Takekawa × Tomoko Hirai
今年で設立20周年を迎えた「AMACA」。そのルーツを振り返りつつ、ブランドのフィロソフィーとそのクリエイティビティについて、新旧のディレクターたちによる対談の後半です。2005年に「AMACA」を立ち上げた武川英子さん、そして現在ディレクターを務める平井知子さんが20年間継続してきたもの、そして記念のカプセルコレクションについて語りました。

武川英子/Hideko Takekawa
文化服装学院を卒業後、複数のブランドの立ち上げやディレクションを経験。その後、TAKEKAWA OFFICE INCORPORATEDを設立し、ファッション・ライフスタイルビジネスに携わる。2005年にAMACAを立ち上げ、2009年までクリエイティブディレクターを務めた。

平井知子/Tomoko Hirai
大手アパレル企業で婦人服デザイナーとして経験を積んだ後、独立。デザイン事務所MUSEプランニングを主宰。2013年秋冬コレクションよりAMACAのファションディレクターに就任。ロサンゼルス在住。
「お客様のクローゼットの中に5年、10年と残る服が作りたい」(平井)
ーー20年前にAMACA立ち上げの際のコンセプトやエピソードを教えてください。
――20年前にAMACAが誕生した時から続いているものについて教えてください。
武川さん(以下、武川): イタリアで出会ったクルーネックのカシミヤニットとカーディガンのアンサンブルはデビュー当時から今も続いています。私が惚れ込んだファインゲージの質の高い素材が主役のツインニットは、お客様から定番としてずっと愛される存在になるべく取り上げたので、それが継承されていて嬉しいです。
平井さん(以下平井):私もツインニットのように普遍的なアイテムをきちんと発信し続けることは、ブランドにとって大事なことだと思います。流行にも挑戦したいけど、トレンドだけを追うのではなく、スタンダードなアイテムと組み合わせることが大人のスタイルとしては重要な気がしています。例えば、スカートが流行っているシーズンにも、ツインニットは必要です。長年のヒットアイテム、AMACAらしいクロップドパンツもさまざまなトレンドに対応できるアイテムの一つです。
武川:トレンドの服と合わせたときにしっくりくる、ということは大切です。やはりスタンダードで完成度が高い服は、大事に長く着られるものになるから。コロナ禍を経て、よりそうなっている気がしています。スタイリングはその時々に合っている必要があるので、時代の気分の服にマッチするスタンダードアイテムはいつも必要だと考えます。
平井:だからこそ、AMACAではお客様のクローゼットの中に5年、10年と残る服が作りたいと思います。洋服の整理をする際に「またいつか着るんじゃないかな?」と思って、しっかり残してもらえる普遍的な魅力を持った服作りを目指しています。
「歴史と伝統があるものは、時に磨かれている本物です」(武川)
――デビュー時から続いているリバティやアシーナ ニューヨークを選ばれた理由は?
武川:歴史と伝統があるものは、時に磨かれている本物です。イギリスのリバティ社が手掛ける生地もそうです。非常に細い綿糸を使った上質なコットン生地にリバティ柄を載せたタナローンはAMACAの立ち上げ当時から使っています。
アシーナ ニューヨークの帽子は、今も続いているアイテムの一つです。このブランドは、他のショップの店頭で見かけ、独自性と魅力を感じました。その頃は折り畳める帽子がなくて、これは便利だと思ったのも始まりです。機能性も高く、品格があります。

デビュー当時からコラボレーションしているアシーナ ニューヨークの帽子。これは武川さんが気に入って取り組むことに。
平井:リバティの生地は、とても物語性があるんですね。一つ一つの柄にストーリーがあって、深みがある。なので、AMACAで取り入れる柄を選ぶときもシーズンの方向性に合わせながら、柄の物語とリンクさせて決めています。大人の品格や優しい雰囲気が表現しやすい素材。それが叶うのは積み重ねてきた伝統があるからこそですし、他では表せない上質感と品格がプリントに表れていると思います。
武川:今ではAMACAのアイコンともなっているリバティですが、実はブランド設立時にそれを使うことは検討を要しました。当時、リバティはハイミセスらしいデザインのブラウスが多かったからです。「AMACAらしいリバティシャツを作りたい!」と強く思ったことを覚えています。柄選び、シルエット、デザインでオリジナリティを表現して、今も継続するアイテムへと成長しました。

リバティの生地もAMACA創立時からの大切な要素。20周年記念のコレクションでも取り上げている。
「毎シーズン、モノ作りの出発点は白シャツでした」(武川)
――20周年を記念したカプセルコレクションにもリバティプリントを起用されました。
武川:このカプセルコレクションのシャツは、AMACAのデビュー時に使っている柄をセレクトして、シルエットを今らしくアップデートしました。デビュー時は、ウィットのある柄だから新鮮で魅力的なブラウスになると思ったことを覚えています。
平井さんがおっしゃったように、この柄にはすごくストーリーがあって、それが感じられたから選びました。カプセルコレクションには、白シャツも加えました。生地はトーマス・メイソンです。白は色の表現がとても大事で、さらしの白とオフホワイトの2色を必ず作る、というコンセプトがあったくらいです。私がAMACAを手掛けているとき、毎シーズン、モノ作りの出発点は白いシャツでした。
平井:分かります!白って、色々な白がありますよね。本当に凛とした女性像を体現するためには白いシャツはスタイリングに取り入れやすい象徴的なアイテムだと思います。
武川:カプセルコレクションでは、今の気分を表したシルエットのシャツもリバティ生地で作りました。ワイドパンツやボーイフレンドデニムと合わせたら、今らしいスタイリングになります。

(写真左)武川さんが手がけた20周年のカプセルコレクションのシャツは、AMACAの原点である白シャツとリバティプリントが選ばれた。
(写真右)カプセルコレクションについているスペシャルなタグは、アマカレッドが印象的。武川さんからのメッセージにも注目。
「20年間、積み重ねて来たクリエイティビティや歴史が
今のAMACAの魅力に繋がっている」(平井)

この日が初対面だったお二人。AMACAのこと、ものづくりにこと、さらに二人が大好きなワインについて会話が弾みました。
――20周年を迎えたAMACAについて一言。そして、今後はどのように進んで欲しいとお考えですか?
武川:私が立ち上げた20年前から、こんなに色々なことを継承し続けて頂けていること、また今回、20周年を記念してカプセルコレクションの制作を担当させてもらったこと、さらに平井さんと対談する機会をご用意頂いたこと、すごく光栄で得難いことだと思っています。
ファッションの語源は人を幸せにすることだと思うのですが、それを仕事にできることもまた幸せだと思います。
20年前と今では、お客様にとっての服のポジションは変わってきている中で、暮らしを楽しむ女性たちの人生をより豊かにする服づくりをこれからもAMACAでは追求して欲しいです。
――20年間、変わらない普遍的なAMACAの魅力は何だと思いますか?
平井:“優しく見えて凛としている女性”と言葉で言うのは簡単ですが、相反する要素をバランスよく取り入れることはとても難しいと私は感じています。
AMACAの強みである、素晴らしい生産背景や高い縫製技術、さらにこだわり抜かれた素材など、細かいことの積み重ねで、それが可能になるのです。
20年間、ブレることなく積み重ねて来たクリエイティビティや歴史が今のAMACAの魅力に繋がっていて、それは他のブランドにはないもの。そういった魅力が、AMACAを選んでくれるお客様の安心感にも繋がっているのではないでしょうか。
Photos:Hisashi Ogawa
Text: Tomoko Kawakami
Direction: FLUX