南佳孝「クリスマス・ソングに思うこと」
クリスマスといえば「ジングル・ベル」か「サンタが街にやってくる」という定番の曲しか知らなかった少年が、毎年のようにクリスマス・ソングやキャロルを歌うアメリカのアーティスト、例えばプラターズやペリー・コモ、ハリー・ベラフォンテなどのアルバムを聴いていたのは、1966~67年の頃だったろうか。
兄姉が買ってきたそんなアルバムを、こんなに静かで綺麗な曲がある、こんなに楽しい曲もあると、一曲一曲ウィスキー・ボンボンを食べるようにうっとりと聴いていた。今から思えばそんな曲たちもかなり自分の中に栄養素として入っているんだろうな。
それが「ボーッと生きてんじゃねぇよ!!」と背中をバシッと叩かれて現実の前に立たされた曲が、ビートルズを解散しジョンとヨーコという名で出した「Happy Xmas(War is Over)」という曲だった。25日を過ぎてしまえば灯の消えた家のようになってしまう日本のクリスマスと違い、FENではその後もずっとオンエアされ続けていたように記憶する。
ジョンとヨーコは、まずベッド・インというパフォーマンスをやり、69年には“War is Over if you want
it”というコピーを大きな看板にしたり、新聞の一面に掲載したりして平和運動の活動を開始していた。70年に『ジョンの魂』というソロアルバムが出て、その次の年にこのシングルだったので、インパクトは背中が痛いほど強烈だった。
世の中は泥沼化してゆくベトナム戦争というネガティブなムードが蔓延しており、想像するだけで世界は変わってゆくというその後の「Imagine」という曲に繋がるメッセージが今から思えば確実にあった。
たった二人の平和運動家が素手で大海に出て行くような危なっかしいイメージをその頃持ったが、ブレることなくその後も活動は続いていった。
ジョンは、あんな事件があって世を去ったが、ヨーコさんはその後も活動を続けており、聞くところによればニューヨークの地下鉄の駅に“Imagine”の文字が書かれたモニュメントがあるそうだ。いつの日か自分の目でそれも確かめてみたい。
それにしても歌には、こんな力もあるんだなぁと、ウィスキー・ボンボンばかり食べている少年はその時思ったのだった。
あれから何十年もたったが、思い出したようにたまにイギリスのミュージシャンたちによるクリスマスの慈善イベントやコンサートがあったりして、やはり日本とはクリスマスに対する思い入れが違うのだなぁとつくづく思う。
Profile
南 佳孝(みなみ よしたか)
シンガーソングライター
東京都大田区出身。1973年に松本隆プロデュースによるアルバム『摩天楼のヒロイン』でデビュー。79年に発売された「モンロー・ウォーク」を郷ひろみが「セクシー・ユー」のタイトルでカバーして大ヒット。81年、片岡義男の小説が原作の映画『スローなブギにしてくれ』の主題曲を歌い、印象的な歌いだしでヒットとなり、91年にホンダのイメージソングとなる。
デビュー45周年となる2018年9月に待望のオリジナルフルアルバム『Dear My Generation』を発売。また、19年10月30日にカバーアルバム第2弾『ラジオな曲たちII』を発売。パーソナリティを務めるラジオ番組FM COCOLO「NIGHT AND DAY」とのコラボレーション作品で、自らセレクトした洋楽・邦楽の名作14曲を収録している。ライブ活動のほか、楽曲提供、CMソングやナレーションも行う。
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