野宮真貴「私のホワイト・クリスマス 」
幼い頃を北海道で過ごした私にとって、クリスマスの記憶は本当のホワイト・クリスマス。真っ白い雪が街を覆い、しんと静まり返った美しい景色を今でも想い出します。厳しい寒さの季節ではあるけれど、クリスマスが一日一日と近づくほどに小さな胸を躍らせたものです。
フィンランド教育の幼稚園に通っていたので、年中行事のメインイベントはクリスマスでした。12月になると天井に届くほどの大きなもみの木がホールに運ばれ、飾り付けをして園児たちはその日を心待ちにするのです。
お楽しみ会では礼拝堂の厳粛な雰囲気の中、園児によるクリスマスページェント(降誕劇)が行われます。私は黄色い星を頭に乗せた“星その3”の役でした。台詞はひとつもありませんでしたけれど、幼い私にとっては大役でした。いちばん盛り上がるのは真っ白い髭を蓄え、真っ赤な服を着たサンタクロースが大きな袋を抱えて登場するその瞬間です。そして園児一人ひとりに両手に抱えきれないほどのプレゼントを配るのです。その嬉しさと言ったら!
遠い北の国フィンランドからやって来たサンタクロースは絵本で見るサンタさんそのものでしたから、その記憶が大人になった今でも心のどこかに強く残っていて、サンタクロースの存在を信じていたい気持にさせているのかも知れません。
もうひとつのクリスマスにまつわる想い出は、小学生の時に夢中だったチャールズ・M・シェルツが描く「PEANUTS(スヌーピーとチャーリー・ブラウン)」のアニメーション。当時NHKで放映されていたこの番組が大好きでした。チャーリー・ブラウンの声を谷啓さん、ルーシーの声をうつみ宮土理さんが担当していて、どこかシニカルでユーモラス、でも不思議と気持ちが安らぐ物語。たびたび描かれるクリスマスのお話の中には、まだ見たことがないアメリカのクリスマスの様子を垣間見ることができて憧れたものです。
そして子供向けアニメーションであるにもかかわらず、サウンド・トラックがヴィンス・ガラルディの洗練されたジャズだったことは、私の音楽人生に少なからず影響を与えていると思います。ヴィンス・ガラルディ・トリオのアルバム『A
Charlie
Brown Christmas』は渋谷系のルーツの重要な一枚です。子供の頃にいい音楽作品に出合えたことは本当に幸運なことでした。
そして90年代に私がヴォーカリストとして携わっていたピチカート・ファイヴでニューヨーク公演をした時に、現地のミュージシャンとセッションをしたのが“Linus and Lucy”。子供の頃の憧れをひとつ叶えたような出来事でした。そんな素敵な記憶に彩られた『A Charlie Brown Christmas』は、クリスマスのBGMに是非おすすめしたい一枚です。
大人になった今も、クリスマスが近づくとワクワクした気持ちになります。イルミネーションが灯って華やいだ街を、恋人同士や子供を連れた家族が楽しそうに行き交うのを見ると優しい気持ちになりますから。
私はシンガーという職業柄、この時期はライブで歌うことも多いのですが、できる限りクリスマスは家族とゆっくりと過ごすことにしています。クリスマスは大切な人を大切に思う日。だからいつもよりおしゃれをして、おいしいお酒とお食事を楽しみながら、ゆっくりと語り合うのです。そしてそこにはいつも素敵な音楽があるといいですね。
来年もみなさんにとって素敵な一年でありますように。Merry Christmas!
Profile
野宮真貴(のみや まき)
ピチカート・ファイヴ3代目ヴォーカリストとして、90 年代に一斉を風靡。「渋谷系」ムーブメントを国内外で巻き起こし、音楽・ファッションアイコンとなる。2010 年に「AMPP
認定メディカル・フィトテラピスト(植物療法士)」の資格を取得。19 年にはデビュー38周年を迎えた。
ソロ・アーティストとして継続的に楽曲リリース、ライブ活動を行なっていて、音楽活動に加え、ファッションやヘルス&ビューティーのプロデュース、エッセイストなど多方面で活躍中。
現在、ピチカート・ファイヴ・ベスト・セレクション・アルバム『THE BAND OF 20TH CENTURY:Nippon Columbia Years 1991-2001』、新刊文庫エッセイ『おしゃれはほどほどいい』が好評発売中。20年3月にはビルボードライブ東京にて「野宮真貴、還暦に歌う。~赤い口紅の女と黒いサングラスの男たち~」を開催予定。
Information
公演概要
「野宮真貴、還暦に歌う。~赤い口紅の女と黒いサングラスの男たち~」
3月12日(木) Guest:横山剣(CRAZY KEN BAND)
3月13日(金)Guest:鈴木雅之
[ご予約・お問い合せ] ビルボードライブ東京 03-3405-1133
詳しくはこちらまで。
http://www.billboard-live.com/pg/shop/show/index.php?mode=detail1&event=11864&shop=1
リリース情報
THE BAND OF 20TH CENTURY:Nippon Columbia Years 1991-2001
詳しくはこちらまで。
https://columbia.jp/pizzicatofive/