今が輝いていなければ、
常に挑戦していなかったら、
生きている意味はない

山崎二郎 JIRO YAMAZAKI (著述家、クリエイター、移動主義者)
テキスト:多田メラニー

山崎二郎 JIRO YAMAZAKI (著述家、クリエイター)

音楽、映画、あらゆるエンターテイメントの表現者に迫るカルチャー雑誌『バァフアウト!』。クラブ・イヴェントのチラシから始まり、フリーペーパー、さらには月刊雑誌になるまでへと成長させたのが、創立者の山崎二郎だ。現在、著述の他、写真撮影、作詞、選曲、ロゴ・デザインを手掛けるクリエイターとして発信している彼と対話していて感じたのは、とにかく好奇心が旺盛だということ。常に新しい物事に触れたいという感覚と興味が、彼の中にこんこんと湧き上がっている。昨年リスタートした、大人版『バァフアウト!』の雑誌『ステッピンアウト!』のテーマである「挑戦し続ける大人」を自ら体現していると言えるだろう。静かで穏やかな語り口からは、若い世代の生き方のヒントにもなるような、希望の言葉が並んだ。

『バァフアウト!』が創刊27年目になって、そして『ステッピンアウト!』も昨年、10年ぶりに復活し、クオリティーの高さを称賛する声も高いですが、創刊させたご本人としては、『バァフアウト!』、『ステッピンアウト!』を今、どのように捉えてますか?

雑誌が27年続くのは非常に奇跡的なことと思っているんですね。でも、求められているから続くわけであって。また、雑誌って、その時代時代の流行を反映するものだから、同じことをやっていると、時代の変化に対応できないと思うんです。けど、27年続いているということは、時代時代の変化にちゃんと対応して、変わるべきところと変わっちゃいけないところのバランスが取れてやれてこれたから、今があるんじゃないかと思います。

  • 左)『バァフアウト!』2019年9月号。表紙は平野紫耀。

左)『バァフアウト!』2019年9月号。表紙は平野紫耀。
右)『ステッピンアウト!』2019年10月号。表紙はオダギリ ジョー。

『バァフアウト!』、『ステッピンアウト!』の良さはどこにあると思いますか?

ウェブ、SNSで情報を受け取ることがメインとなっている方々が多い今、雑誌のありようを考えた時に、ウェブ、SNSではできないことを追求することが大事で、「取っておきたい」と思えるような存在になることですよね。写真を見るにしても画面上と、紙で見るのでは質感って変わってくる。プリントじゃないと感じ得ない質感がありますから。そこを追求することも大事だと思っています。雑誌なんだけど写真集というのが特質、魅力かと。

山崎さんご自身の強みをお聞きしたいです。

割と視点が柔軟ということですかね? 新しいことを面白いって思える感覚が、多分、柔らかいんだろうと思います。今年54歳ですけども、未だに大人になっている感覚がなくて。同い歳と接すると、「大人だなぁ」っていつも思うんです(笑)。27歳ぐらいで自分の精神年齢が止まっていて、ウイークポイントでありますけども、もの作りにおいてはプラスな部分もあるんだろうって感じます(笑)。

  • 1990年、クラブ・イヴェント『クラブ・クール・レジスタンス』を主催。チラシにコラムしたことが全ての始まり。
  • 1991年、フリーペーパー『プレス・クール・レジスタンス』に進化。
  • 1992年、吐き出すという意味の『バァフアウト!』として、雑誌として創刊。

左)1990年、クラブ・イヴェント『クラブ・クール・レジスタンス』を主催。チラシにコラムしたことが全ての始まり。
中)1991年、フリーペーパー『プレス・クール・レジスタンス』に進化。
右)1992年、吐き出すという意味の『バァフアウト!』として、雑誌として創刊。

雑誌編集に留まらずに、著述、写真撮影、作詞、選曲、ロゴ・デザインと多彩なクリエイティヴをおこなっていますが、27歳の視点をずっと持ち続けていられているからこそ、できることというのがありそうですね。

いま言っていただいたことは、その道でプロでやってらっしゃる方に僭越ではあるんですけども。インタヴューとか撮影において、取材相手とのコミュニケーションが生まれる。1回だけじゃなくて何回もおこなうことによって、より信頼性が生まれる。通常ならそこで終わる話が、雑誌編集だけじゃなくて、取材相手のクリエイティヴに自分が入っていく、お手伝いできることがあるんですよね。今はテクノロジーが発達して、何年もかけないと技術を習得できないということじゃなく、センスがあればやれることがすごく大きいですよね。写真にしても、「iPhone」でも撮ってまして(笑)。カメラが非常に優れているので、「こう撮りたい」っていう自分の発想、視点があれば、表現しやすくなっているっていうことですよね。誰もが表現者になれる、いい時代だと思います。

  • 2010年リリースの矢沢永吉のアルバム『TWIST』に「サイコーなRock You!」他、作詞。
  • 10月9日リリースの佐野元春のニュー・アルバム『或る秋の日』ジャケット写真を撮影。
  • 2008年リリースのクレイジーケンバンド『middle & mellow of Crazy Ken Band』他、8枚のコンピレーション・アルバムを選曲。

左)2010年リリースの矢沢永吉のアルバム『TWIST』に「サイコーなRock You!」他、作詞。
中)10月9日リリースの佐野元春のニュー・アルバム『或る秋の日』ジャケット写真を撮影。
右)2008年リリースのクレイジーケンバンド『middle & mellow of Crazy Ken Band』他、8枚のコンピレーション・アルバムを選曲。

ご自身がモデルとなって撮影されるのは今回、初めてだったかと思いますが、やってみていかがでしたか?

12人のスタイルを持ってる方々の中にチョイスしていただいて、大変光栄なことですよね。もう一つ光栄なのが、今回撮っていただいた若木信吾さんは、非常に敬愛するフォトグラファーで、『バァフアウト!』でも昔から何度も撮影をお願いしていたので、その方に撮っていただけるのはありがたいことでした。

撮影で着られたコートの着心地はいかがでした?

〈三陽商会〉という老舗だからこそ持つノウハウ、高い技術。縫製1つにしても、しっかりしていると感じました。

ご自身が愛用されているコートがあれば、そのお話も伺いたいです。

コートって大人が着て似合うアイテム。特にメンズの場合は。そういう感覚がずっとあったので、自分としてはまだまだなんだと思っていました。さっき申し上げたように、自分の精神年齢的には27歳で止まっているとこもありますので(笑)、もうちょっと自分が大人になって(笑)、もしくは渋くなっていったら(笑)、似合うんじゃないか? まだ自分には似合わないんじゃないか?と思ったんですけども、今回、着る機会を頂いて、ここからコート・ライフが始まるんじゃないか?と思いました。長年連れ添って味が出て来るのを楽しんでいきたいなって。

山崎さんのファッションのルールはありますか?

僕が代表をやっている会社名が〈ブラウンズブックス〉っていうんですけども、僕がブラウン好きというだけなんです(笑)。なので、基本的に色はブラウンかベージュ。その差し色でネイヴィー、時にはパウダー・ピンクをチョイスします。

着心地などにもこだわりが?

タイトに着たいというのがありますね。あと、移動が多いので、移動に楽な素材も大事なポイントですね。セットアップにしてもジャージとかのストレッチ性がある素材を選んだりしています。

移動される時のポイント、例えば、仕事のためにはここのカフェ、ゆっくりしたい時はこのカフェなど分けられているんですか?

まさしく。朝7時半から家の近所のカフェに行くんですけども、そこは執筆する場所で。夕方ぐらい、リラックスしてプランニングするような時は違うカフェと、カフェが大好きなもので分けてやっています。カフェ好きが高じて、「バァフアウト!」、「ステッピンアウト!」編集部は土日はカフェになっています(笑)。

そうなんですか(笑)。日々のルーティンっていうのは決められているんですか?

起きる時間、寝る時間は共通にして、同じ時間帯で行動していますね。そうすることによって、自分のリズムができたり、体調の変化が分かりますので。

いつ頃からそういうお考えに?

40歳を超えて、コンディションを自分で作らないと良いクリエイティヴに結ばないってことを実感してきてからですね。

お忙しいと思うんですが、一息つける時間というのは何をされるんでしょう?

今、スマホを常に見てる状況がある中で、ボーッとしたり、何も考えない、情報を入れないってなかなか難しいですよね? クリエイターやエディターのようにキャッチする情報量が多い仕事だと、余計に何もしない、情報を入れないことがバランス的に大事だと思います。面白いのは、ボーッとしているといろんなアイデアが浮かんだり、自分の内側からの声が聴こえてきたりと、「自分がこうしたい」というものが見えてくる。なので、その時間は必ず意識的に作っています。

  • お気に入りのカフェで執筆。

お気に入りのカフェで執筆。

現実から一歩離れてみると、そこが気持ち良くなってしまって、つい日々の忙しさに戻っていくのが嫌になったりしますが……切り替えはどうされていますか?

1日のスケジュールを時間で決めるっていう、シンプルなことですね。時間が決まっていると習慣になり、習慣になると普通になりますから。

歳を重ねると、「できて当たり前」と、褒めてくれる人が少なくなりがちですよね。ご自身のモチヴェーションを保つ秘訣が知りたいです。

尊敬し影響を受けたアーティストの佐野元春さんがおっしゃった言葉に感銘を受けまして。「クリエイティヴに於いて、他人の評価、売り上げの結果じゃなくて、自分自身がちゃんと満足したかどうかが大事」と。今の時代、SNSも含めて評価って届きやすく、特に、悪い評価の方にどうしても目に付いてしまいますよね? そこで、他人の評価を基準にしちゃうと、「褒めてくれない」と達成感が感じられなくなってしまいがちですけど、自分自身がどう評価したのか?と。軸は自分であるっていうことですね。自分が褒めてあげると。

その軸を見失ってしまいそうなことはないですか。

疲れていたり、健康じゃないと、ネガティヴな気持ち、弱気になりやすくなるので、コンディションや、テンションをキープすることが大事なんじゃないかって思います。

それから、平日・休日を問わず、毎日トレーニングされていると聞きました。

僕、快感原則に従って行動する人間で(笑)、苦痛なことはしたくないんです。ジムで鍛えてるっていうと、「歯を食いしばって」って連想しがちですけど、そうじゃなくて。週末、草野球をやっているんですけども、ゲームで結果を出すためのトレーニングで、トレーニングが目的じゃないからやれるんですね。やっているトレーニングも、僕が敬愛するイチロー選手がやっている初動負荷トレーニングといって、通常のウエート・マシンと違って、関節、身体を柔らかくするための特殊なマシンなんですね。全然苦痛じゃなくて、フワフワと力を入れずに楽にできるようなマシンなので、毎日できるんです。年齢を経ると、身体が硬くなったり、可動域が狭まったりしますけど、逆に可動域を広める、身体を柔らかくすることがいいパフォーマンスに繋がりますから。実際、やればやるほど、ゲームで結果が出たりしているので、非常にありがたいです。

なぜ、野球なんですか?

今と違って、我々の子供の時はスポーツは野球しかなくて、しかも競争率が高くて、チームには上手い子じゃないと入りづらかったんですね。僕は下手で入れず、1人で壁にボールを当てていたんですけども(笑)。「野球選手になりたい」って多くの子供が思う夢ですが、それを今、形を変えてやれるんじゃないか?って思ったのが40代ですね。で、いま言ったトレーニングを始めて。「週末野球選手」と自称しているんですけども、選手というのは、さっき言った他人の評価じゃなくて、意識のありようなんじゃないか?と勝手に定義付けて(笑)。節制、思考、トレーニングをしてゲームで結果を出すという「意識」ですね。年齢を経ると真っ先に衰えるのは脚力ですけども、初動負荷トレーニングをすることによって、逆に早く走れないか?と。実際、イチロー選手が実践してましたので挑戦してみようと。今はチームに所属しないで、人数足りない際の助っ人募集に応募してゲームに出ています。行くと、僕が一番歳上で、ほとんどの場合が20代のチーム(笑)。そこに交じってプレイしているのが楽しいんです。

  • 石井琢朗選手(広島東洋カープ時代)他、プロ野球選手のロゴをデザイン。
  • 「週末野球選手」と称して、2018年、年間141盗塁を記録。

左)石井琢朗選手(広島東洋カープ時代)他、プロ野球選手のロゴをデザイン。
右)「週末野球選手」と称して、2018年、年間141盗塁を記録。

「SANYOCOAT」のキャッチ・コピーが「Coat for Life 明日はもっと、似合ってる。」。これからの人生で何をしていきたいですか?

今までは対象物があって、取材をする。今流行っているものをキャッチして、伝えると、常に軸が外にあったんですね。ですが、今では雑誌編集はスタッフに任せられていますので、これまで54年生きてきて得た自分しかない情報を、自分を軸にして発信していきたいです。具体的に言うと、書籍を出していきたい。

その動きは、既にされていますか?

今12本連載をやらせてもらっていて、それがまとまり次第どんどん書籍にしていきたいと思っています。同年代もそうですけど、下の年代の方々に伝えていくことをおこなうべき年齢なんじゃないかと。「Coat for Life明日はもっと、似合ってる。」というキャッチ・コピーで言うと、「今、これが流行ってるから」とか、「今、自分がこういう気分だから」とアイテムってチョイスしますけども、その対極で、自分が服に合わせていく。さっきのお話みたいに、最初は似合わなくても似合う人間になっていくっていうのは、成熟したファッションの考え方だと思うんですよね。似合う人間になっていくイコール「成長」。それを促すアイテムがあるのは、人生において楽しいことなんじゃないかな?って、「Coat for Life」っていう言葉からインスパイアされて考えました。3年ごとにコートの定期検診をおこなってくれる「100年オーナープラン」のケアプログラムも素晴らしいですよね。通常なら、買い換えて欲しいのに(笑)。一度、袖を通したら、ずっとケアしていきますって、「Coat for Life明日はもっと、似合ってる。」が単なるコピーではなく、思想であると実践している証左ですから。

山崎さんが目標とされるような、「こういう人になりたい」と思える人との出会いは、これまでありましたか?

先ほど出てた佐野元春さん、矢沢永吉さんと、お亡くなりになられたんですけど、ムッシュかまやつさんですね。3人とも、目線がフラットというか、上から目線じゃないんですね。常に敬語で喋っていただいて、1人の大人として扱ってくれる。その姿勢がカッコ良いって思ったんですね。自分もそうありたいと思います。年齢を経ると、新しい世代に対して否定しがちですけども、むしろ、今の新しい世代の方々ってすごいなって。逆に彼らから学びたいって思います。やっぱり、過去にどんな実績があっても、「今が全て」というか。今が輝いていなければ、常に挑戦していなかったら、生きている意味はないかと。つい「いいや」と思いがちな自分に「喝!」している毎日です。

PROFILE

やまざきじろう/1965年埼玉県生まれ。1枚のクラブ・イヴェントのチラシが、フリーペーパー、そして雑誌へ。1992年、インディペンデント・カルチャー・マガジン『バァフアウト!』を創刊し、27年継続するという奇跡が続いている。2008年には「挑戦し続ける大人たちへ」をテーマにした『ステッピンアウト!』を創刊。現在は雑誌編集を離れ、著述家として12本の連載をおこない、写真撮影、作詞、選曲、ロゴ・デザインと1つの枠に留まらず、多彩なジャンルに於けるクリエイターとしての顔も持つ。「挑戦すること」をライフテーマに掲げ、「週末野球選手」と名乗り、草野球に於いて盗塁数更新に挑戦。53歳の2018年、106試合に出場し、141盗塁を記録する。

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