かっこいいけどキメすぎない。
ぼくにはステンカラーコートがちょうどいい

光石研 KEN MITSUISHI(俳優)
テキスト:山下英介

光石研 KEN MITSUISHI

日本を代表する変幻自在のバイプレーヤーとして活躍しつつも、近年では力の抜けたファッションやライフスタイルのセンスに、若い世代からの注目が集まっている光石研さん。軽やかにして誠実なそのパーソナリティは、ステンカラーコートの着こなしにも、見事に映し出されている。

――光石さん、今日はありがとうございます。私たちのステンカラーコート(バルマカーンの100年コート)がまるで長年着ているかのようにお似合いでした。

実はぼく、1980年代のはじめ頃から、ステンカラーコートはよく買っていたんですよ。「スタイルカウンシル」を結成していた頃のポール・ウェラーに憧れて、ジーンズを合わせて、ちょっとフレンチアイビーっぽく着こなしていました。まあ、お金がなかったから全部古着でしたけどね(笑)。あとは、うちの父がスーツの上に着ていたステンカラーコートも格好よかったなあ。

――トレンチコートもお好きだったんですか?

もちろんトレンチコートは憧れではあるのですが、ぼくにとっては少しハードルの高いコートで、なかなか手が出ませんでしたね。何年か前にものすごく格好いいのを見つけて思わず買っちゃったんですが、全然似合ってなくて、2回着て手放しちゃいました。その点ステンカラーコートは新橋のおじさんだって気軽に着てたわけですから(笑)、ぼくだって取り入れられるかなって。

――ご自分なりのファッションのルールはあるんですか?

ルールなんて偉そうなものはありませんが、とにかく気負って着ないというか。玄関にあったものをそのまま着てきました、みたいな感じがいいなって、いつも思っています。でも、昔から「明日はデートだからこれ着ていこう」みたいな感じで、ものすごく考え込んじゃうんですけどね(笑)。でも、やっぱりキメてるのは照れくさいんですよ。

――今回ご着用いただいたステンカラーコートはいかがでしたか?

ぼくも色々と着ては手放してきましたが、シンプルなステンカラーコートって、意外と難しいんですよね。どうしても昭和の残像が残っちゃうというか(笑)。その点これは、Aラインで背中がちょっと割れているところがかっこいいですよね。生地も柔らかくてこなれているし、裏地のチェックもかわいいなあ。

――実はこのコート、英国に伝わる乗馬由来のコートをベースにデザインしたもので、馬に乗りやすいよう、プリーツを深めにとっているんです。生地は洗いをかけて柔らかくしたもの。そして裏地のチェックは「三陽格子」といいまして、歌舞伎に登場する衣装の柄「翁格子」をアレンジしたものなんです。

昭和のおじさんが新橋で着てたステンカラーコートよりはスタイリッシュだけど、かといってトレンチほどキメてもいない。その塩梅がかっこいいなあ。実は一昨年くらいに古着屋で買ったステンカラーを人にあげちゃったので、ちょうど新しいのを探していたんですよ。これなら手放さずにずっと着られるかな(笑)。

――100年コートには、「100年オーナープラン」というのがありまして、 3年に1回はお預かりして、大切にメンテナンスさせて頂きます(笑)。

『刑事コロンボ』がよれよれのステンカラーコートを着たまんま、葉巻をくわえながらプジョー・403に乗りますよね? このコートも、そんなふうにラフに着られたらいいな。・・・なんて、いい歳してガキみたいなこと言っちゃってすみません(笑)。

PROFILE

みついしけん/福岡県出身。高校在学中に『博多っ子純情』(1978年公開/曾根中生監督)のオーディションを受け、主演に抜擢される。以後、様々な役柄を演じ、名バイプレイヤーとして活躍。2016年には映画『お盆の弟』(2015年/大崎章監督)・『恋人たち』(2015年/橋口亮輔監督)にて第37回ヨコハマ映画祭助演男優賞を受賞。2019年には『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京系列)にて第15回コンフィデンスアワード・ドラマ賞主演男優賞を受賞。近年の主な出演作に、映画『逃げきれた夢』(2023年/二ノ宮隆太郎監督)、『波紋』(2023年/荻上直子監督)、『だが、情熱はある』(日本テレビ系列)、『弁護士ソドム』(テレビ東京系列)、『フェンス』(WOWOW)、『星降る夜に』(テレビ朝日系列)などがある。

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