いいコートを着ると、
いいフィールが来る

ミュージシャン

佐野元春

MOTOHARU SANO

テキスト 山下英介

偉大なるミュージシャン佐野元春さんと、そんな彼の姿に憧れた少年が、大人になってつくった『100年コート』。その出会いは偶然ではなく、魂が引き起こした必然なのかもしれない。永遠のロックスターと美しきコートのセッションを、しばしお楽しみあれ。

今日は佐野さんの撮影に対するイメージがものすごく明確だったことに、驚きました。着こなしに関しても、ボタンの留め方や襟の立て方はもちろん、生地に出るシワ1本の見せ方ひとつにもこだわっておられましたが。
コートは好きですからね。日頃からステンカラーコートはよく着ています。今日の撮影も楽しみにしていたんですが、イメージ通りの素晴らしいデザインでした。
コートをどう着たら美しく見えるのかを、佐野さんは知り尽くしていますよね!
いや、大したことじゃないんだけど、ぼくには60年代からブリティッシュロックミュージシャンのコート姿を見続けて、これは格好いいなって憧れてきた歴史があるからね。だから自分が着るときも、しっかり格好よく着たいなって気持ちはありますよ。
佐野さんにとってのコートの原風景って、なんだったんですか?
そもそもぼくの祖父がコート好きだったので、大人になったらあんな服を着たいなって、子供心に思っていました。祖父はセスナ機のレンタルの仕事をしていたから、当時の日本人としては珍しく海外にもよく行っていたし、いつも素敵なお土産を買ってきてくれたんです。だから美的なセンスということでは、祖父の影響は大きかったのかな。
ステンカラーコートといえば、佐野さんが1986年に発表されたアルバム『カフェ・ボヘミア』のジャケット写真が印象的ですが、あのオフホワイトのコートのスタイリングは佐野さんご自身の提案だったんですか?
自分でやりました。ブラック&ホワイトのフロントカバーにしたかったので、それに合わせて。思い返してみると、ぼくがコートを着たカバーって、『カフェ・ボヘミア』と『或る秋の日』(2019年)の2枚だけなんだよね。
実は今『100年コート』をディレクションしている坂田真彦さんも、当時『カフェ・ボヘミア』を買って、そのコート姿に猛烈に憧れたそうです。坂田さんはその後大好きだったデザイナーさんのもとに弟子入りしたんですが、のちに佐野さんのコートはその師匠がデザインしたものだったことを知り、不思議な縁を感じたのだとか。そして今、そんな坂田さんがディレクションしたコートに、佐野さんが袖を通している。人間の憧れとか嗜好って、どこかリンクしているものなんですね。
ああ、それは少し前に聞いてびっくりしました。坂田さんとは縁があるね(笑)。三つ子の魂百までもなんて言うけれど、人間の方向性って小さい頃にある程度決められるような気もしますよね。ぼくの母はすごくお洒落な人で、よくハリウッドスターの写真をもとに型紙を引いて、自分の服をつくっていたんです。4〜5歳だったぼくは、陽だまりのなかでミシンを踏んだりチャコを引く母の姿をいつも見ていました。
佐野さんのスタイリッシュさのルーツが窺い知れるエピソードですね。今日の『100年コート』はいかがでしたか?
いいコートって、袖を通すだけでフィールがいい感じで来るんだよね。今日のコートにはそれがあった。ドレープがきれいなのは、生地とデザインのおかげだよね。90年代はラフでルーズなスタイルに傾倒したこともあるけど、やはり今になって、自分はタイトでオーセンティックなスタイルのほうが好きなんだなってわかってきました。
先ほど英国のロックミュージシャンたちからの影響について伺いましたが、佐野さんの着こなしからは、それだけじゃなくてどこかパリっぽいテイストも感じるのですが。
ああ、それはぼくが10代の多感な時期によく観ていた、フランス映画の影響かもしれない。ヌーヴェルバーグ時代の映画に登場する男たちって、きまってスーツにトレンチコートを合わせて素敵に着こなしていたんだよね。ハリウッド映画に出てくるコートが、少し大味で外界から何かを守る鎧みたいなイメージだったのに対して、フランス映画のコート姿は圧倒的にお洒落だったから。
お祖父さん、お母さん、そして英国のロックミュージシャンやヌーヴェルバーグのフランス人俳優たち・・・。そういった様々な要素が渾然一体となって生まれた唯一無二の装いが、今日の佐野さんのスタイルなんですね!
そうかもしれないね。
<100年コート>
スタンダードモデル バルマカーンコート 
¥114,400

佐野元春/ミュージシャン
1956年東京都生まれ。1980年にレコーディング・アーティストとして活動を開始。1983〜84年にかけてのニューヨーク生活を経たのちに、DJや雑誌編集など多岐にわたる表現活動を繰り広げる。1992年にアルバム『スイート16』で日本レコード大賞アルバム部門を受賞。2004年には自身が主宰する独立レーベル「DaisyMusic」を始動し、現在に至るまで先駆的な試みを続ける。代表作品は『サムデイ』(1982)、『ビジターズ』(1984)、『スウィート16』(1992)、『フルーツ』(1996)、『ザ・サン』(2004)、『コヨーテ』(2007)、『ZOOEY』(2013) 、『MANIJU』(2017) 、『Where Are You Now (今、何処)』(2022) など多数。

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