洗って、着込んで、ヨレても素敵。
自分らしくコートを着よう

ファッションディレクター

鴨志田康人

YASUTO KAMOSHITA

テキスト 山下英介

日本のセレクトショップの歴史を切り拓いてきた伝説的なバイヤーにして世界的なウェルドレッサー、鴨志田康人さん。現在はポール・スチュアートのメンズディレクターを務め、今季初めてSANYOCOATとコラボレートを果たした彼が、“着手”と“つくり手”ふたつの立場から、そのコートを分析する。

鴨志田さんにとって、コートとはどんな存在なんですか?
一番好きな洋服じゃないかな。長くて大きくてボリューム感があって、袖を通すだけでサマになっちゃいますから。業界の尊敬すべき先人たちや、映画の登場人物たちのコート姿が、今もなおたくさん目に焼きついていますよ。
具体的にどんなスタイルがお好きなんですか?例えばハンフリー・ボガードとか、ジャン・ギャバンあたりでしょうか。
もちろんそのあたりの映画は観ていましたが、実は個人的には刺さらなかったんです。そういうハードボイルドな雰囲気よりは、『ティファニーで朝食を』(1961年)のジョージ・ペパードのバルカラーコートとか、劇作家ノエル・カワードのポロコートみたいな着こなしが好きでしたね。軽やかに羽織っているような姿が、自分には魅力的に感じられたんじゃないかな。
コートの軽快さ、ですか。
あとはフィレンツェの有名な仕立て屋でアントニオ・リヴェラーノさんという方がいるんですが、どこかヨレっとした、彼のアルスターコートの着方も大好きです。イタリアのおじいちゃんたちが自分とともに歳を重ねたコートを着ている姿って、本当に魅力的ですよね。コートって丈夫だし、スーツほどサイズ選びがシビアじゃないから、体型が変わってもいいし、本当に世代を超えて着られるんですよ。だからこそ、いいものを買わなくちゃいけない。
いいコートの条件って、何でしょうか?
やっぱり流れるラインですよね。膝下丈のコートで、一気にきれいなドレープをつくれるメーカーはすごいですよ。後は上襟から肩にかけてのラインでしょう。それはテーラードジャケットと同じで、ビスポークでもなかなか難しいことです。
そういう視点で見たときに、SANYOCOATはいかがですか?
もう別格でしょう。これだけ立体感があって美しいコートは、なかなかできません。特に襟付けの美しさや、そこから生まれるロールの出具合は美しい。同じパターンを別の工場につくらせたら、その違いは歴然と出るでしょうね。実は一度やってみたいんだよな(笑)。それは冗談として、SANYOCOATさんみたいに自分がやりたいものを想像以上のクオリティでつくってくれる工場があったら、つくり手としては本当に助かりますよね。
今日着られているバルカラーコートもすごくきれいにフィットしていました!
そうなんですけど、実は新品なのがちょっと恥ずかしいんですよ。だから本当は、すぐに洗濯機にぶち込んで外に2週間は外に干してから着たかった(笑)。そうするとコットンの色も少し褪せて、いい雰囲気になってきます。コットンだろうがウールだろうが、ぼくは洗濯機に入れちゃいますよ。芯地も少し縮んでいい感じになるんだよな。
読者のみなさん、自己責任で楽しんでくださいね(笑)。話は変わりますが、最近の街ゆく男たちのコート姿についてはいかが思われますか?
みんな四季を感じさせないようなものばかり着ているし、ぼくはもう目をつむるしかないですね。だからノーコメント(笑)。それだったらむしろ、昔没個性だと言われていた昭和中期のサラリーマンのほうが、ずっと基本に忠実だし格好いいじゃないですか。
そこをなんとか、アドバイスをお願いします!
上質な服を長年着込んでいくと愛着が湧いてきますよね。そうなると絶対手放せなくなる。そういう服との付き合い方って格好いいなと思います。それは日々の生活にどう向き合うかと同じことじゃないかな。だから、気概といったら大袈裟かもしれないけど、いいコートを着てほしいですね。
マスターシールド ライディングコート ¥209,000

鴨志田康人/ファッションディレクター
東京都出身。多摩美術大学を卒業後、1982年にビームスに入社し、店舗スタッフを経て企画、バイイングを担当する。1989年にはユナイテッドアローズの設立に参画。メンズクロージングの企画、バイイングなどを担い、2004年からは同社のクリエイティブディレクターに就任。稀代のバイヤーとしてのみならず、ウェルドレッサーとしてもその名を世界に轟かせる。2018年にオフィスカモシタを設立。ユナイテッドアローズのほか、「ポール・スチュアート」の日本におけるディレクターなど、国内外を問わずアパレル企業の企画監修業務を手がける。

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