そのトレンチコートは、
次世代に継承できますか?
ミュージシャン
坂本美雨
MIU SAKAMOTO
テキスト 山下英介
音楽家としての活動を軸に、文筆家やテレビ・ラジオの司会といった顔も持ち、私たちの毎日に暖かな時間を届けてくれる坂本美雨さん。平和で心安らかに過ごせる社会を次世代に継承したいという彼女の願いは、その作品のみならず、モノ選びや装いの哲学にも見事に表現されている。
- 坂本さん、今日は深いネイビーのコートを着ていただきましたが、ダークカラーがとてもエレガントでお似合いですね。
- ありがとうございます。トレンチコートは久しぶりなんですが、昔から黒いコートばかり着ていました。スマホに昔の写真が残ってるんじゃないかな・・・。あ、トレンチコートにラモーンズのバッジ付けてる(笑)。
- 今日のフェミニンな装いとは正反対ですが(笑)、昔のロンドンっぽい着こなしもまた素敵です!黒がお好きなのには理由があるんですか?
- やっぱり安心しますね。世の中に対して強くいられる、みたいな感覚がロングコートにはありますよね。戦うわけじゃないけど、ある意味では鎧のような感覚もあるかもしれません。今日はエレガントなアクセサリーや、うちの娘がつくってくれたブレスレットとコーディネートしていますが。
- 幼少期から、坂本さんのまわりには素敵な大人たちがたくさんいたと思いますが、ファッションについて影響を受けた人はいるんですか?
- 母方の祖父はショーン・コネリーに似てすごくお洒落な紳士で、それこそトレンチコートをよく着ていました。あとはやっぱり母親の着ているものには憧れたかな。ステージ衣装にも徹底的にこだわって、ぜんぶ自分で選んでいましたから。母が大切に着ていた「自然ヴィンテージ」は私が受け継いで、今でもよく着ています。
- この『100年コート』は、まさに未来へと継承することがテーマなんですよ。アフターメンテナンスまで責任を持ちますので、本当に100年持つようにつくっています。
- とても素敵です。ぜひ娘にも引き継いでいきたいです。彼女のほうが似合うような気もするし(笑)。今、私の娘は9歳なんですが、最近では洋服を買うときに、“引き継ぐ”ということを意識するようになりました。あと5~6年もすれば彼女が着られるようになりますよね? そう考えると「よりよいものを厳選して買おう」という気持ちになります。ファストファッションの抱える社会的な問題を考えると、やっぱりいいものを長く着ることが大切ですし、たとえ洋服一着でも自分がお金を使うことって、社会に対する投票行為だと思うんです。この『100年コート』はどのようにつくられていますか?
- 『100年コート』は青森の七戸十和田駅の目の前に構える、自社工場でつくっています。“世界一”なんていうのはおこがましいですが、熟練職人たちが一着一着、心を込めて縫っていますよ。先ほど“継承”ということを仰いましたが、最近では技術の継承も行うべく、若い社員も積極的に雇用しております。
- 青森なんですか!? 祖父も母も青森だし、私自身も青森産でございます(笑)。そのスタンスをお聞きして安心しました。不自然なほど安いものを見ると、うちの娘くらいの歳の子たちが働いているんじゃないかって不安になってしまいますから。そういう意味では、つくり手の顔が見える服は安心ですね。
クラシックモデル ダブルトレンチコート
¥155,100
坂本美雨/ミュージシャン
1980年に音楽一家のもとに青森県で生まれ、東京とN.Y.で育つ。1997年に「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義で歌手デビュー。音楽活動を軸に、ラジオやテレビの司会、ナレーション、執筆、演劇など、その表現の幅は年々広がっている。2011年よりラジオ番組『坂本美雨のディアフレンズ』(TOKYOFM/JFN系全国ネット)のパーソナリティを担当。2024年4月からは『日曜美術館』(NHKEテレ)の司会を務めている。愛猫家としても知られ、著書の『ネコの吸い方』(幻冬社)のほか、自身のSNSでも愛猫〝サバ美〟や娘との暮らしを綴っている。2021年にリリースしたアルバム『birds fly』、2022年に活動25周年を記念してリリースしたシングル『かぞくのうた』など、音楽活動も精力的に継続。最新作は2023年にリリースしたEP『あなたがだれのこどもであろうと』。