量というより質で勝負できる花屋に、
どうにか私たちがなれたらいいなと
壱岐ゆかり YUKARI IKI(フラワーアーティスト)
テキスト:多田メラニー
気っ風が良く、清々しい女性。フラワーショップ〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉代表を務める壱岐ゆかりに出会った印象だ。花に魅了され、全く異なる職種から突然花屋になった彼女は、羨ましいほどの決断力と行動力でグングンと夢をものにし、今やルールに縛られない独特なアレンジメント・スタイルが人気のフラワー・アーティストとして活躍している。「花は必要不可欠なものではない」からこそ、花屋としてどう行動するべきなのか? 目の前の花のみならず、生産業者も含め業界全体の未来までも見据える、彼女の今の想いに触れた。
今日は原宿駅近くにある壱岐さんのお店〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉アトリエの方にお邪魔させていただきました。お店の入り口にも自然と植物が根を張っていて、お店に辿り着くまでもワクワクするような、素敵な空間ですね。
ありがとうございます、素敵でしょう?(笑)。 とても気持ちのいい場所なんです。元々、この仕事を始める前は、PR業をやっていました。ただ、週末があまりにも暇で(笑)。花屋は「自分を磨きたい」という意味も込めて始めた、私の“一人塾”みたいな感じですね。ここまで続けられるとは思わなかったのですが、挑戦してみてよかったですし、「何にも考えない強さってあるんだな」と(笑)。年齢を重ねてくると、どうしても自分の勝手な想像で足踏みをしてしまう気持ちが、以前より増えてきた感じがするんです。(店を始めた頃は)怖さもないし、自分の自信のなさ、致命的な自分の欠点を何かで埋めたかったという焦りから、行動していたというか。後先考えずにやった結果、いい方向に繋がったんだなって。
壱岐さんのインタヴューをWEB媒体でもいくつか拝見したのですが、ご自身が表舞台に出られてお店のPRをされることは意識的になさっているんですか?
全く意識していないんです(笑)。極力、個人名でというのは控えるようにしていて。お店としてやっていきたいので、「フローリストとして」「アーティストとして」というのは、全く興味がないんです。自分の性格上、1番より2番の方が好きなので、表に立つ人を引き立たせるほうが好き。それだから、PR業もすごく楽しめたんでしょうね。ブランドのため、デザイナーのためとか。その方の考えがすごく面白かったりすると、共感して「あれどう?これどう?」ってさらにアイデアを出して、さらに輝くっていうほうが興味があったので。お店も、たまたま私が始めただけで、それをチームでいい表現をして、いろんな方々の生活の引き立て役だったり、花屋としての役回りができたら嬉しいなと思っています。
大変さを感じる部分は?
単純に、体力勝負なところだけですね。それ以外はないかな。「花屋は女性の仕事」っていう風に思われがちですが、男女、一緒になってやらないとできない仕事でもあります。都会にある花屋が故の体力というか――街が眠っている時間帯に準備をしなきゃいけないので。準備している最中は見られない状態で動かないといけない、イコール営業時間外は必ず動いていて、さらに、お店が回っている営業時間中も動いている。そうすると単純に、24時間フルとは言いませんが、かなりの労働を課す仕事なんですよね。
花のケアというのも、当然ですが1日も休みがないですし。特に冬場だと、冷たい水を使っての作業は辛そうです。
冬の花屋は激寒ですからね(笑)。SANYOCOATの撮影では、ベストタイプを着させていただいたんですが、生地がフワフワのモコモコで、とても気持ちよかったです。寒い時って絶対にベストを着るんですよ。今回のも動きやすかったですし、丈もちょうどよくて。他にも柔らかい素材のトレンチコートを着させてもらったんですが、市場に来て行くのにちょうどいいなと思いました。個人的には足首すれすれぐらいの長いコートが好きで、お気に入りをずっと着ています。
SANYOCOATでは、3年ごとにコートの定期検診をおこなってくれる「100年オーナープラン」という、愛用品を長く使うためのケアシステムもあるんです。
仕事着はどうしても汚れてしまうので、何枚も同じものを用意して替えが利くようにしていますが、私服は長く使っているものが多いので、そうやってケアをしてもらえると有難いですね。コートだと自分ではなかなか手入れしきれないところもありますし。
お忙しい毎日だと思いますが、お休みがある時は何をして過ごされていますか?
スタッフが増えて、ずっと店にいなくてはいけないという状況が変わったので、家族と過ごす時間が増えました。息子が3歳になった時にやっと時間が作れるようになり、そこでやっと親を始められたというか。時間があれば、ホットヨガとかをするようにしていますが、それは体力作りというよりも、生きていく上で必要な作業なんです(笑)。どうしても前傾姿勢になりがちなので。
最後に、SANYOCOATのコンセプトでもある「Coat for Life 明日はもっと、似合ってる」 のように、壱岐さんがこれからより自分らしく生きるために、目標や展望があれば教えてください。
お花の世界は、たぶん置き去りにされがちな世界だと思うんです。食べ物は体に含むので、近年は特に「産地を選びたい」という状態じゃないですか。でも花に関しては、割とどうでもいいというか、季節や旬は関係なく「今ほしいから売って」ということも多い、都合が利くものだという概念がすごく強いんです。新鮮さが損なわれる前提で、生産者さんからたくさん花が入ってきて、しかも値段が釣り上げられてくるので「花が高い」という概念も植え付けられてしまうから店舗で売れない、そして生産者さんが作っても売れない、そういう悪循環になっている。でもそういう循環って、10年くらい経たないと改善できないんでしょうし、その間に環境の変化もあると思うんです。自然の摂理に沿った動きができる花屋になれたらいいなと。花は必要不可欠なものではない分、難しいと思うんですけどね。個人的な話ですと、この11月には〈渋谷PARCO〉にもお店をオープンします。渋谷の街並がこうも変わってしまうのか……と悲しくなるほどの壊して作ってできあがっている街、そんな街だからこそ嘆くのは簡単だから―——その一角にそびえる、街にとっても人間にとっても必要不可欠な“都会のオアシス”的な存在になっていきたいなと。商業施設に入るのは初めてですが、せっかくの有難いチャンスをいただいたので、いろいろな可能性を試す時間になれたら嬉しいです。
PROFILE
いき ゆかり/フラワーアーティスト。インテリアやファッション・ブランドのPR業を経て、フラワーショップ〈THE LITTLE SHOP OF FLOWERS〉をオープン。現在は実店舗として〈CAT
STREET〉店、一戸建てを改装して作られた〈ATELIER〉店のほか、オンラインショップも展開している。
■ THE LITTLE SHOP OF FLOWERS / CAT STREET
東京都渋谷区神宮前5-17-9 1F ROKU店舗の入り口すぐ
TEL.03-6427-6003
営業時間.11:00-19:00
木曜定休
■ THE LITTLE SHOP OF FLOWERS / ATELIER
東京都渋谷区神宮前6-31-10 restaurant eatripのエントランス前の小屋
TEL.03-5778-3052
営業時間.11:00-19:00
不定休