常に「愛とはなんぞや」って自分に問い続けているし、
みんなにも問いかけているんです

水野愛子 AIKO MIZUNO(〈赤裸々パッション愛の園〉 主宰)
テキスト:多田メラニー

水野愛子 AIKO MIZUNO

自身の感情をオープンに表現することが少ない現代社会に逆らうように、「心の内を曝け出せ」と叫ぶ人がいる。コンテンポラリー・ダンサーの水野愛子は、主宰する演劇〈赤裸々パッション愛の園〉を2016年に立ち上げ、オリジナルの視点で表現と向き合ってきた。演者は水野がスカウトし、老若男女、年齢も職業もバラバラのメンバーが集まる。「ダンスや芝居の経験値なんてどうでも良いんです。とにかく気持ち。赤裸々なパッション、それだけ」。堰を切ったように想いを熱く話始めたかと思えば、しゅんと寂しそうに過去の失敗について語ったりもする。目の前で芝居を見ているのか?と錯覚するほど、彼女の感情は大きく渦巻いており、発せられる言葉はストレートで、それがとても愛おしかった。

愛子さんがダンスと出会い、表現を始められたのはいつからですか?

私が13歳の時、映画『Shall we ダンス?』のビデオを父が借りてきて、家族で鑑賞したんですよ。本当に無意識なんですけど、私、観終わった後にステップを踏んでいました(笑)。その姿を見た父が、〈津田沼PARCO〉のカルチャー・スクールに連れて行ってくれて、「ファンキー・ジャズダンス・クラス」に通い始めました。ジャズってダンスの基本要素が詰まっているんですけど、私が教わっていた小林 聖さんという女性の先生が、いろいろなジャンルを踊れる方だったので、「こんな音楽があるんだ」という衝撃や発見、自分の表現の世界を広げてもらうきっかけも与えてもらって。当時は中学校の演劇部にも所属していたんですけど――私と同じようにダンスを習いながら演劇もしていた友達とよく話していたのが、「やっぱりさ、女優として急には売れないじゃん。そうなる前に先にダンスで芽を出さないと」なんていう将来設計を、中1にして本気で言っていたんです(笑)。10代の時はよく本屋さんに行って、オーディション情報誌から自分に合いそうなオーディションを調べて応募していたので、既に決まっていたんですよね。自分のやりたいことが。

〈赤裸々パッション愛の園〉を始動されたのが2016年。それまでは主に、他の方が主宰される劇団やダンスカンパニーなどに参加されていたんですよね。

はい。私の先輩が脚本を書いて演出されていた舞台に、出演させてもらっていました。今、自分で脚本を書いて演出しているのも、当時、先輩から刺激を受けたからじゃないかな。 仁成さんが原作を書かれて、演出された『海峡の光』という舞台に出演した時も、さんがまさにそういう人だったんですよ。自分が経験してきたこと、感じていることを歌詞にして、脚本にしている。そういう人を間近で見た時に、私はこうなりたいんだと思いました。実際、芝居の稽古を始めたら「下手くそ」「生意気」って言われて悔しかったですけどね(笑)。それでもさんは、「絶対に芝居をやめるなよ」って言ってくださった。「無名とか、有名とか関係ない。脚本にぴったりの子を見付けた」ってTwitterでも発言してくださったんです。地下鉄で子供のように嬉しくて泣いた。報われたから。

先日拝見した、愛子さんの一人芝居『愛を奏でて』にも、「『芝居やめんなよ』って言ってくれたんだ」という台詞が出てきて、愛子さんの人生の一部を感じさせるシーンがありました。日頃、作品を生み出される時は、ご自身の経験や内側から湧き出る想いを投影されているんですか?

直感でパッと作るというよりも、自分が何を感じてきたのかということを、すごく大事にしています。だから人の話を聞きに行くし、ニュースを見たり、新聞も読む。私に教えてくれたこと、話してくれたことをなるべく無駄にしたくないんです。疲れることもありますよ。でも、考えることを止めたいとは思わない。テレビをつければ、香港のデモのニュースとかが流れてくるじゃないですか。仕事を通して香港出身の女性と出会って、実情を話してくれたりすると、無駄にはできないんです。〈赤裸々パッション愛の園〉の作品は、シリアの空爆のシーンを毎回取り入れているんですね。あなたの夢が叶う瞬間と、人が人によって命が奪われる瞬間は、世界で同時に起きているんだっていうことが、一番のテーマなんです。世界から戦争というものが、怒りや憎しみが溶け、許し合える日が来るまで、私は演劇も踊りもやめられないってずっと言っているんです。だから……長生きする気がしないですね(笑)。感じて、感じて、感じまくっているから。「生き急いでいるよね」ってよく言われるんだけど、仕方がない。

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左)水野のソロ公演『愛を奏でて』より
中)公演後、会場となった〈BAHAMA KITCHEN〉スタッフの幹太さんと
右)本公演用に書き溜めたという台詞の数々。今回は使用しなかったが、日頃から思い浮かんだ言葉や想いを書き溜めているという

ちなみに、公演では〈SANYOCOAT〉のコートを着られていたそうですね。

そうなんです。『愛を奏でて』の脚本は、『海の上のピアニスト』を参考にしていたので、実際の物語にも出てくるキャラメル色のコートを着ました。すごく柔らかいし、丈が長いのに重たくないんですよ。劇中、船の甲板に出るシーンでは、かなりアクロバティックにコートを振り回したりもしましたが(笑)、生地が固くないので、すごく動きやすかったです。普段着ているコートも、丈が長いものを選ぶことが多いです。〈SANYOCOAT〉さんの撮影で着たコートは公演時とは別のアイテムでしたけど、それもふわっと包まれる感じですごく着心地が良かったんですよ。(モデルとなった写真を見て)撮影の時、ちょっと緊張していて……なんか、生意気そうな顔してるな(笑)。でも、こういう自分もいるんですよね。

先々、〈赤裸々パッション愛の園〉の公演のご予定はありますか?

東日本大震災の「3.11」を意識して、公演は毎年3月に、原宿の〈BLOCKHOUSE〉の4階でやっているんです。空が見える箱を探しているんですが、場所が空いていないと、半年伸びることもあるので。2020年は初めて〈愛の園〉が開かれた10月末に、大切なものを失う前に、初めての日に、帰ります。キャスティングも自分でやるので、大変なんですよ。私がビビッと来た人を見つけて、出てほしいと思ってもスケジュールが合わなかったり、「もう愛子さんには、ついていけません」って思ってる人もいるだろうし。はっきり言われたこともありましたよ。「愛子はいつも気にかけてくれて有り難いけど、愛に負けたんだ」って。でも、みんな優秀だから、誰かが降りても支えてもらってる。みんなに支えてもらっている幸せをすごく感じています。私は、自分を愛したり、愛さないことを激しく繰り返してきたんですよ。自分を大切にしない生き方もしてきた。だから私に、特に男性達が女性達に抱く純粋さとか美しさを求めて来ないでほしいって思う。みんなが思ってるほど愛子は純粋じゃないよって。常に「愛とはなんぞや」って自分に問い続けているし、みんなにも問いかけているんです。

PROFILE

みずのあいこ/コンテンポラリー・ダンサー。〈赤裸々パッション愛の園〉の主催、演出を務める。 仁成の脚本・演出舞台『海峡の光』や、渡辺えり脚本・演出公演『りぼん(再演)』、 Miki Wave「Red Street」、Calvin Harris feat. Ne-Yo「Let’s Go(Tokyo ver.)」THE RiCECOOKERS「audioletter」などのMVに出演。映画『溺れるナイフ』の振り付け・ダンス指導も行う。水野愛子ソロ公演を4月10日,11日〈BAHAMA KITCHEN〉にて開催。

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