ビギナーの革靴探しもいよいよ終盤。今回は革靴選びに最も重要な“採寸”に注目! スニーカー以上に正確な採寸が必要となる革靴。その理由とは? ポイントは? 素朴な疑問をぶつけながら、正しい革靴の買い方を上村さんにレクチャーしていただきました。
端的に言えば、今把握している自分の足のサイズに合わせて購入するのは厳禁! ブランドによって、木型によってサイズ感が異なる革靴は、スニーカー感覚で考えてしまうと大怪我の元。長く付き合う相棒だけに、妥協せず真にフィットする一足を選びたいところ。
ライター
細谷 駿人
埼玉県生まれ。メンズファッション雑誌で編集として勤務し、2018年に独立。ファッションメディアを中心に時計や美容の編集/ライターも務め、カタログや広告のディレクションも手がける。ごりっごりのゆとり世代のお調子者(笑)。
三陽山長 日本橋髙島屋S.C.店 店長
上村 哲平
高身長のすらっとしたスタイルに爽やかな笑顔が特徴の店長。ファッション好きがこうじて三陽山長に入社し、その後革靴の沼にハマってその暦なんと16年。休日問わずに革靴を履き続けるほどにどっぷり浸かり、今では革靴を履かない日の方が違和感を感じるとか。
細谷 これまでも端々にサイズの話は出てきていましたが、革靴選びにおいてなぜここが最も重要とされているのでしょうか。
上村 靴のサイズと聞くと、おおむね自分の足のサイズは把握しているかと思いますが、その多くがスニーカーのサイズなんです。その把握しているサイズで革靴を購入してしまうと、靴擦れを起こしたり、疲労が溜まりやすかったりなど、足に負担をかけてしまうんです。
細谷 なるほど。初手を間違えて足を痛めてしまったら、それこそ革靴離れにつながってしまいますね。サイズさえあっていればそういったこともないんですか?
上村 全くないとは言えませんが、足を痛めにくくするためにはサイズが特に重要なんです。
細谷 ざっくりいうとどう違うのでしょうか。
上村 スニーカーだとおそらく、把握している自分の足のサイズを基準にややゆとりのあるサイズで履く方もいると思います。
細谷 まさに僕がそうですね。デイリーに使うものは少し遊びがある方が好みですね。
上村 長く履くことを想定せず、革靴に比べれば劣化も早いですからね。極端な話、“今すぐ履いてストレスのない靴”を選ぶ感覚だと思います。いっぽう、革靴は10年20年と履ける上に、履くほどに柔らかくなり、履き心地とともにフィット感が変わってきます。つまり、“馴染んでくる未来を見据えた靴”を選ぶってことなんです。
細谷 求める視点が異なるんですね。革靴が自分の足に馴染んでくるのにどのくらいかかるのでしょうか。
上村 素材や手入れ、頻度で変わってはきますが、およそ半年前後ですね。
細谷 最初は窮屈でもその先に快適な革靴ライフが待っているってわけですね! 最初は我慢ですが、育てていく感覚はなんだかワクワクしますね。
上村 もう細谷さんも革靴の魅力に染まってきていますね(笑)。では、採寸をしていきましょうか!
細谷 採寸をする時に注意する点はありますか? 足が浮腫んでいる時間帯に測るのがいい、みたいなことを聞いたことがあるんですが。
上村 そういった話もありますが、そこまで気にする必要はないです。浮腫みも個人差がありますし、常に浮腫んでいるわけではないですから。逆に浮腫んでいない時に靴が大きく感じてしまうことになりかねないので、こうするべきだ、というのはありません。
細谷 なるほど。あ、でも採寸の際の靴下は影響するんじゃないですか? 今日僕は当然スニーカーなので、少し厚めのカジュアルソックスを履いてきていて、薄手のドレスソックスではないんです。
上村 購入を検討しているモデルにもよりますが、三陽山長では採寸用にドレスソックスを用意していますので、もしソックスがなければお貸出することも可能です。
細谷 それはありがたいですね! では、流れとしては先にモデルを決めるところから始まるんですね。モデル次第で採寸の考え方も変わるんですか?
上村 モデルごともそうですが、大きくは木型(ラスト)ごとにサイズの選び方が変わります。
細谷 そうなんですね! では、一度測ったからもうネットで買ってもいい、と思っていたら失敗するかもしれないですね……。
上村 同じラストのものであれば基本的には問題ないのですが、モデルごとに採寸することをオススメしています。今回はどのモデルで採寸をしますか?
細谷 せっかくなのでアイコンの友二郎でお願いします!
上村 かしこまりました。
細谷 というわけで、ソックスをお借りします! ふらっと立ち寄っても失敗しない買い物ができるのはありがたいですね。
上村 お客様の中には、それをわかっていて靴下だけ別で持ってくる方もいらっしゃいますよ。
細谷 たしかに、事前知識として持っていたらちょっとツウぶれますね(笑)。
上村 ははは。そうしましたら、こちらに踵を合わせて立っていただけますか?
細谷 はい。左右と上部の数字サイズを表しているんですね。
上村 そうです。足の上下のサイズの他に、足幅、土踏まずの長さ(=アーチ長)の3点を計測してサイズを選定します。
細谷 こうしてみると左右で結構差があるんですね。足の形に特徴がある人なら、大きさは同じでも足幅やアーチの採寸次第でサイズが変わりそう。
上村 そうですね。細谷さんのサイズは「7〜7 1/2(25〜25.5cm)」ですね。これを基準に試着して着用感を見ていただきます。
細谷 本当にスニーカーと全然違いますね。スニーカーだと僕の場合、1cm以上大きいサイズで履いていますから。ちなみに、僕の足の形ってクセあります?(笑)
上村 いえ、全くそんなことはありません。むしろ日本人に多い足の形ですよ。
細谷 そうなんですか? 日本人に多い足型は幅広甲高、なんて聞いたことがあります。
上村 40代後半以上の方は、幅広甲高が多いと思います。40代から下の方は、細谷さんのような幅が広くて甲の低い方が多いんですよ。
細谷 そうなんですね! つまり、僕は若い世代に入っていると……?
上村 ……それでは「7 1/2(25.5cm)」から履いてみましょうか!(笑)
細谷 店長わかってますね(笑)。
上村 履いた感じどうですか?
細谷 ついさっきまでスニーカーだったのですごく窮屈です!(笑) ただ、足が全く動かないということでもないし、不快感があるキツさではないです。
上村 サイズも合っているので、今窮屈に感じるのも馴染んできた時には感じなくなってきますよ。もうワンサイズ下の「7(25cm)」の方がより合うかもしれません。
細谷 もうワンサイズ下ですか。試着した際、上村さんはどんな点に注目しているんですか?
上村 お客様の着用感はもちろんですが、つま先の遊びや足幅のフィット感、くるぶしの位置、甲の当たり具合などに注目して見ています。
細谷 くるぶしは実際に靴には影響ないと思っていました。
上村 歩行の際に当たってしまうと足を痛める原因になりますので、履き口からくるぶしまでの距離が多少あるのが理想的です。
細谷 基準はあるんですか?
上村 1〜1.5cm程度空いているといいですね。指一本が入るか入らないかぐらいです。
細谷 なるほど。今の僕の履いた感じだと、全体的にちょうどいいのでしょうか。
上村 甲がもう少しフィットしてもいいかなと思います。あとは、羽根にもう少し隙間が欲しいですね。
細谷 羽根部分は割とピッタリとくっついている感じですね。
上村 ここの隙間が1cm程度空いているのが理想的です。ここまで閉じていると、これ以上シューレースでサイズ調整ができないので、革が馴染んできた時にゆるく感じてしまいます。
細谷 シューレース本来の役割を果たさなくなってしまうんですね。
上村 そうです。履き姿としても、羽根部分に適度な隙間があるほうが美しいとされています。
細谷 なんか不思議な感覚ですね。さっきまでスニーカーだった分、こうして足だけ見ていると自分じゃないみたいです(笑)。
上村 本日のようなスラックスタイプのボトムスには、特に革靴の方がきれい見えますね。
細谷 だいぶコンパクトに見えて、すっきりとした印象です。本当に背筋がスッと伸びるような感覚。
上村 身が引き締まりますよね。
細谷 上品な大人〜って感じです。艶っぽい光沢感もきれいですし、ステージが一つ上がった印象です。
上村 少し歩いてみた時はどんな感じですか?
細谷 今もなお窮屈だなという感覚はありますが、少しずつ慣れてきました。ただ、なんとなくですがほんの少し重さを感じますね。これもスニーカーから履き替えたからなのでしょうか。
上村 もちろんそれも少なからずあるのですが、甲のフィット感が関わってきます。インソールを入れて履いてみましょうか。
細谷 はい。それならシューレースの問題も解決できますね。
上村 どうでしょうか?
細谷 同じ靴なのに全然違いますね! さっきより足がスッと前に出る感覚です。
上村 甲が靴によりフィットしているその状態がベストに近いです。隙間があると足を上げる際に初めて靴に足が当たるので、いわゆる“靴を持ち上げて”歩く感覚になります。そのため、より重さを感じやすく疲労を蓄積する要因になります。
細谷 確かにその感覚がありました!
上村 これだけフィットしていると、靴と足が一体になっているので疲労を軽減し足運びが楽なんです。靴擦れの予防にもなります。
細谷 インソールひとつで解消できるんですね。このインソールの厚さはどれくらいなんですか?
上村 三陽山長オリジナルのもので、厚さは2mm程度です。
細谷 2mmでこんなに変わるんですね! 確実にさっきよりフィットしていますが、窮屈さにそこまで差はないように思います。
上村 一度経験している分、慣れてきたのかもしれませんね。羽根の開き具合もいい感じです。
細谷 先ほどおっしゃっていた「7(25cm)」も履いてみていいですか?
上村 もちろんです。もしかするとこちらの方がマッチするかもしれません。
細谷 当然ですが、結構キツいですね。
上村 足の状態を見る限り、「7 1/2(25.5cm)」より理想的なフィット感ですね。
細谷 では、この感覚が条件を満たしているわけですね。馴染んだ時にどんな感じになるのか全く想像できない(笑)。
上村 インソールなしの状態で合うものがあるなら、そちらをオススメしています。ゆるくなってきたなと思った時にインソールを入れればいいので、アジャストしやすいんです。
細谷 フィット感をキープしたいと思った時にインソールが役立ってくれるんですね。
上村 そうです。最初から大きいものをインソールでアジャストすると、スニーカーはいいんですが革靴はさらにゆるくなるので、調整が難しくなってきます。
細谷 羽根の開き具合も、3パターン見ると全然違いますね。上村さんが言っていた通りの空き具合で、足幅にも負担なく足運びもスッと出る印象です。友二郎なら、僕は「7(25cm)」が合っているんですね。
上村 そうですね。ただ、内羽根式の友二郎に対し、外羽根式のモデルはもう少しゆとりを感じられると思います。
細谷 同じ木型でもですか?
上村 そうですね。こちらはドレスシューズですが、カジュアルなUチップだと同じサイズでも履いた感覚が違うと思います。フィット感に大きな差はないので、多少ですが。
細谷 もしかして革の素材でも違いますか?
上村 そこまで気にする必要はないですが、スムースレザーとグレインレザー(シボ革)ではまた違った着用感があります。
細谷 Uチップは三陽山長の中でもかなり気になっている商品なので、ぜひ履いてみたいです。
上村 かしこまりました。たぶん最初に友二郎を履いた時とは違う感覚があると思いますよ。
細谷 え、そうなんですか?
上村 どうでしょう。サイズは「7(25cm)」になります。
細谷 上村さんの言っていたことがわかる気がします。最初に友二郎を履いた時より窮屈さを感じなくなってますね。
上村 スニーカーからではなく、革靴から履き替えているのでそう感じるんだと思います。
細谷 いやこれ、めちゃくちゃ怖いじゃないですか(笑)。革靴の試着だけで沼にハマらされてる! このままスニーカーに戻った時に物足りなくなってそうな……。
上村 それはあるかもしれません(笑)。
細谷 もちろんそれだけじゃなくて、同じ「7(25cm)」でも結構違って比較的ゆったりしています。外羽根だからですか?
上村 それも一つありますが、大きくはラストが異なります。ドレスラストの「R2010」を採用している友二郎に対し、こちらの兼三郎に採用しているのはカジュアルラストの「R2021」です。
細谷 R2010より、ウィズが少し広く厚みがあるんですよね。
上村 そうです。なので、足の甲や横幅のフィット感に少しゆとりがあるんです。
細谷 「7 1/2(25.5cm)」だとかえって大きく感じてしまいそうです。木型ごとのサイズ選びが重要なのも、これではっきりとわかりました。
上村 また、今回は同じソックスのままでご試着していますが、カジュアル履きする時に地厚なソックスを履くのであれば、サイズを調整してもいいと思います。
細谷 今の感覚なら、馴染んだ時を想定すると地厚なソックスでもこのサイズでいいかもしれません。ちなみに、先ほどシューレースを結ぶ際につま先を上げるようにおっしゃっていましたが、なぜでしょう?
上村 本来はどちらのモデルでもした方が足にフィットしやすいのですが、靴に踵をしっかり合わせてシューレースを結ぶことで、より快適なフィット感を得られるんです。
細谷 そういう違いがあるんですね。馴染めば馴染むほど、余計にこのひと手間は重要ですね。
上村 そうですね。
細谷 で、今自分のスニーカーに戻しましたけど、ぶっかぶかで違和感半端ないです(笑)。
上村 ははは。そうおっしゃる方は多いです。
細谷 数足試着した程度で、革靴の足になりかけていました。特に大きいサイズを履いているので、なんだか不安になるというか疲れるというか。自分の靴じゃないみたい。
上村 革靴好きがスニーカーを履くと疲れる、というのもサイズ選びの違いから生まれているのかもしれませんね。
細谷 すみません。正直、最初聞いた時は何言ってんだ? って思っていたんですが、ようやく納得できました(笑)。
上村 それはよかったです。大事なのは、革が馴染んだ後の履き心地を想定することです。
細谷 そうですね。“今合う”スニーカーに対し、“半年後に合う”革靴。この差はかなり大きいですね。
上村 そして、一番いい時期を長く履けるようにする手入れも大切ですよ。
細谷 ここで手入れに繋がるのか〜!(笑)
上村 そうです!
細谷 そのためには、一足決めないとですね!
上村 お待ちしております。
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