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ファッションエディターが見た
「いい靴」作りの流儀

七.
底付けの極意は“準備9割”!?

七.
底付けの極意は
“準備9割”!?

靴作りの動画などを見たことがある方なら、グッドイヤーウェルト製法の靴の底付けは一瞬にして終わるのをご存じのはず。その手早さこそ職人技なのですが、今回の取材でもうひとつ、重要な気づきがありました。それは、底付けの中間にある準備の工程にこそ、労苦を厭わない手仕事が凝縮されているということ。縫いが一瞬なだけに、“準備が9割”と評したくなる仕事ぶりでした。

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取材・文

編集者 小曽根 広光

今年に入って、ほぼ毎月のペースでファクトリーを訪れています。同じ工場をこれほど繰り返し取材するのは初めて。でも見るたびに新しい発見があり、ものづくりの奥深さを改めて実感。

底付けの幕間に秘められた職人の手仕事

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正直にお話しすると、「一足の三陽山長の靴が完成するまでを全12回の連載で解説する」という当企画の趣旨を聞いたとき、私の脳裏をまずよぎったのは、“そんなに書くこと、あるかなぁ……”という不安でした。しかし実際に取材を開始してみると、それは全くの杞憂。ちょうど折り返し地点となる第六回で、ようやく底付けまで辿り着きました。今となっては“残りの尺、足りるかな……”なんて心配をしております。

さて、靴好きの方には釈迦に説法ですが、底付けにはふたつのハイライトがあります。“すくい縫い”と“出し縫い”です。前者は、中底にウェルトとよばれる帯状の革を縫い付ける工程。そして後者は、ウェルトにアウトソール(本底)を縫い付ける工程です。これによってアッパーとソールが一体になり、グッドイヤーウェルト製法の靴が完成するというわけです。

こちらの写真は、第一のハイライトであるすくい縫いを行っているところ。白いものが“リブテープ”というパーツで、中底に対して「T」を逆さにしたような形で取り付けられます。このリブテープに、専用の機械でウェルトを縫い付けていくわけです。

実際に見るとわかりますが、縫うのはほんの一瞬です。しかし、だからこそ難しい。複雑な曲線を描くリブテープに、ミスなくウェルトを付けていかなければいけません。縫いが乱れれば、これまでの工程すべてが台無し。そう考えるとかなりのプレッシャーですが、熟練職人たちは涼しい顔でこなしていきます。

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……と、ここまでは私もすでに知っていることでした。普通の取材なら「よし、すくい縫いは撮れたから、今度は出し縫いへ……」と歩を進めるところですが、今回は両工程の“幕間”を見て驚きました。次の山場である出し縫いの前に、相当な手仕事が費やされていたのです。

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すくい縫いが終わると、まず中底に鉄のシャンク(芯)を据えていきます。これには接着剤を用いるのですが、ただペタッと貼って終わりではありません。ハンマーを力強く振るって、何度もシャンクを叩く、叩く、叩く。シャンクを中底に沿って立体的に曲げ、馴染ませるためです。

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その後は“中物”とよばれるコルクを隙間なく詰めていきます。グッドイヤーウェルト製法の靴は履いているうちに底が沈み込んでフィット感が高まっていきますが、それはこのコルクが足の形に馴染むためです。ここにも、職人の手仕事が満載。コルクをぎっちり詰め込むためハンマーで入念に叩き、はみ出した部分をヤスリで丁寧に削っていきます。仕上げが終わると、コルク表面にはふっくらとなだらかな膨らみが。目に見えない部分とは思えないほど綺麗な仕上がりです。

美しい手仕上げは、彫刻家さながらの仕事ぶり !

美しい手仕上げは、
彫刻家さながらの仕事ぶり !

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次に行うのは、アウトソールの仮留め。すくい縫いをかける前にノリで貼り付けておく工程です。これも手作業で、ペンチのような道具を細かく使って少しずつ付けていきます。そのあとは、アウトソールをアッパーに合わせて成形する作業へ。台形の刃をもつ革包丁を駆使し、見事な曲線に削り出していく様子はまるで彫刻家のようでした。

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アウトソールの成形が終わったら、ヤスリをかけてコバの仕上げへ。慎重に仕上がり具合を確認しながら、何度も重ねてヤスリがけをしていきます。一瞬にして決まったすくい縫いの様子とは対照的でした。

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出し縫い前の最終工程となるのが、アウトソールの端にぐるりと革包丁を入れて、底を薄く“めくる”工程。この断面に出し縫いをかけていきます。

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満を持して、第二のハイライトである出し縫いへ。すくい縫いと同様に一瞬で終わりますが、職人の手つきに気合がみなぎるのを感じます。

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出し縫いが済んだら、めくった部分を閉じて底付け完了。ちなみに、このように出し縫い糸を隠す仕立てを“ヒドゥンチャネル”とよび、縫い目を隠さず露出させたままの仕様は“オープンチャネル”とよびます。当然、ヒドゥンチャネルのほうが手間を要し、高級とされます。

かなり“靴の形”が出来上がってきましたが、まだまだ完成には至りません。次回は、本格靴を本格靴たらしめる仕上げの工程をご紹介いたしましょう。お楽しみに !

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