

革靴偏愛エディター×三陽山長で作る
「次世代のオンオフ兼用靴」
二.
木型開発と革の微差
悩みに悩んで……
ニッポン職人の技を活かして、これまでになかったオンオフ兼用靴を開発したい! 365日革靴を履く私・エディター小曽根と三陽山長による渾身のプロジェクトをご紹介する連載・第二弾。“オールド・イタリア”、“カジュアルにも合うスクエアトウシューズ”というコンセプトを掲げてデザイン画を起こし、次はサンプルシューズの確認へ……という予定だったのですが、ある日三陽山長チームから「ちょっと木型の件でお話が」との連絡。え、何か事件でしょうか……?

取材・文
取材・文
編集者 小曽根 広光
編集者 小曽根 広光
1984年生まれ。2007年に雑誌「Men's Ex」へ配属後、本格靴を含むクラシックファッションを一貫して担当。以来、傑作と称される靴を一生懸命集め、英・米・仏・伊・日・西・中欧と世界各国の名門はひと通り経験。
“3ミリの差”で木型の顔がガラリと変わる
“3ミリの差”で
木型の顔がガラリと変わる

「すみません、私のリクエスト、難しい問題などありましたでしょうか……」と、三陽山長の企画兼営業担当・濱田さんに尋ねる私。意気揚々と掲げたコンセプトが絵に描いた餅に終わったらどうしよう……と不安が脳裏をよぎりましたが、「いえ、今のところ特に問題はありませんよ。ただ、今回は木型から開発する新モデルなので、もう少し詳細を詰めたほうがいいと思いまして」との返答。ホッ、よかったぁ〜。でも、木型については「R3010」ラストをベースにして、つま先の幅をもう少し広げる方向性で製作……という感じでまとまりましたよね?
「はい、方向性はそのとおりなのですが、スクエアトウのフォルムは微差が靴の表情へ如実に反映されるので……」と説明するのは、同じく企画担当の上村さん。
私の一軍シューズと“理想の靴”のイメージ
私の一軍シューズと
“理想の靴”のイメージ


「どこかが 3ミリ変わると、もう別物。それが革靴業界の定説なんです。たとえばこちらをご覧ください。左は『R309』ラストを採用した『友之介』。スラリとしたトウシェイプで、モダンなシャープさを感じさせますよね。対して右は、『R3010』ラストの『友也』。こちらはつま先の“幅”を広くとることで、クラシックな重厚さを演出しています。同じスクエアトウでも、いわば真逆の表情に仕上がるのです。今回の“オールド・イタリア”というテーマは木型のフォルムがキモですから、そのあたりのイメージを明確に共有したいと思ってご連絡させていただいた次第です」
なるほど……確かにミリ単位の違いで全く表情が違う。私がイメージしていたものに近いのは「R3010」だけれど、オールド・イタリアの顔つきとはちょっと違うような……こちらは英国靴のスクエアトウに近い雰囲気ですが、もう少し朴訥とした雰囲気のスクエアトウになればドンズバなんですよね。
「でしたら、『R3010』をほんの少しだけショートノーズにして、つま先の幅を広くとりましょうか。三陽山長で近年人気の『R2021』という木型があるのですが、そのスクエアトウ版みたいなイメージになるかと思います」
それいいですね!「R2021」はつま先にボリュームのあるラウンドトウで、カントリーテイストなモデルに採用される木型。そこに「R3010」的なニュアンスを加えれば、オールド・イタリア感がグッと出てきそうです。いやぁ、詳細の打ち合わせを提案してもらえてよかった。
「どこかが 3ミリ変わると、もう別物。それが革靴業界の定説なんです。たとえばこちらをご覧ください。上のモデルは『R309』ラストを採用した『友之介』。スラリとしたトウシェイプで、モダンなシャープさを感じさせますよね。対して下のモデルは、『R3010』ラストの『友也』。こちらはつま先の“幅”を広くとることで、クラシックな重厚さを演出しています。同じスクエアトウでも、いわば真逆の表情に仕上がるのです。今回の“オールド・イタリア”というテーマは木型のフォルムがキモですから、そのあたりのイメージを明確に共有したいと思ってご連絡させていただいた次第です」
なるほど……確かにミリ単位の違いで全く表情が違う。私がイメージしていたものに近いのは「R3010」だけれど、オールド・イタリアの顔つきとはちょっと違うような……こちらは英国靴のスクエアトウに近い雰囲気ですが、もう少し朴訥とした雰囲気のスクエアトウになればドンズバなんですよね。
「でしたら、『R3010』をほんの少しだけショートノーズにして、つま先の幅を広くとりましょうか。三陽山長で近年人気の『R2021』という木型があるのですが、そのスクエアトウ版みたいなイメージになるかと思います」
それいいですね!「R2021」はつま先にボリュームのあるラウンドトウで、カントリーテイストなモデルに採用される木型。そこに「R3010」的なニュアンスを加えれば、オールド・イタリア感がグッと出てきそうです。いやぁ、詳細の打ち合わせを提案してもらえてよかった。
“オールド・イタリア”なアッパー選び、何が正解?
“オールド・イタリア”な
アッパー選び、何が正解?



「サンプルシューズが上がったタイミングでも大丈夫なのですが、せっかくお越しいただいたのでアッパーの革も選びましょうか」と濱田さん。あ、それも肝心ですね。木型のイメージが鮮明になったところで、今決めてしまいましょう!
と言ってはみたものの、膨大な革見本を目の前にするとしばしフリーズ。黒と茶だけでこんなにあるのね……。自分が個人的にオーダーする靴なら好みだけで決められますが、製品化するものとなると難しい! 濱田さん、お客様からは今、どんな革が支持されているんでしょうか?
「大まかな傾向でいうと、あまりにも硬いアッパーは敬遠される方が多いですね。やはり今の時代、コンフォートというキーワードは不可欠。見た目はよくても、すぐ履き疲れてしまうような靴はちょっと難しいかもしれません」
うっ、私ちょうど、バッキバキのピッグスキンとかカントリーグレインがオールド・イタリアっぽくていいかなと言おうとしていたんですが……
「気持ちはわかります(笑)。オールド・イタリアな靴といえば、アッパーもかなり無骨なイメージですもんね。ではそのあたりの雰囲気を見た目では演出しながら、今どきの快適さも味わえるような革を選んでいきましょうか」
というわけで、濱田さん・上村さんの知見も頼りつつ、悩みに悩んで決めたのが以下のラインナップ。特別狙ったわけではないのですが、いずれもイタリア随一のタンナーと名高いイルチア社が手がけた革になりました。いわずと知れた名門ゆえ、クオリティも抜群ですよ!
質実剛健な見た目を裏切るソフトなシボ革
質実剛健な見た目を裏切る
ソフトなシボ革


デザイン的には最もオールド・イタリア色の強いスプリットトウのUチップ。本来はかなりゴツゴツとしたシボ革を採用するのが定番です。そんなイメージも鑑みながら選んだのは、「ムース」と名づけられた革。大きなシボが入った表情はかなり骨太な印象ですが、手触りは見た目を裏切るほどソフト。その名のとおり、ムースのようにふんわりとしたタッチです。これなら、オールド・イタリアの醍醐味である朴訥とした表情を演出しながら、快適な履き心地も両立できるはず。
特上クオリティのカーフとスエードを厳選
特上クオリティの
カーフとスエードを厳選


内羽根式で作られることが多いセミブローグシューズをあえて外羽根式にすることで、タイドアップしたスーツスタイルからカジュアルまでマッチするようデザインしたこちら。穴飾りも大きめにして素朴な雰囲気を高めつつ、素材はあえてスムースレザーにしたい! というイメージが当初からありました。そこでチョイスしたのは「セタニール」(右)という革。美しいツヤが絶品のボックスカーフです。本来はストレートチップやホールカットなどフォーマルな靴に使うのが定石ですが、実はオールド・イタリアな靴にも相性抜群! と踏んでいます。さらに、「このモデル、スエードで作っても格好よさそうですね。2種類作りましょうか」という濱田さんからのありがたい提案により、ブラウンスエードの「アリカンテ」(左)も採用。“銀付き”といわれる特上クオリティの素材です。
ヴィンテージ調のシボ革でジーンズにも合う一足に
ヴィンテージ調のシボ革で
ジーンズにも合う一足に


ボリュームのあるスクエアトウにすることで、ミリタリーのオフィサーシューズ的にも履けるよう狙った外羽根プレーントウ。これはぜひ、ウールパンツだけでなくジーンズにも合わせて履いていただきたい! で、選んだのは「アルカザール」という素材。沈没船の中から発掘されたという伝説の革、“ロシアンカーフ”をイメージして開発されたレザーで、力強いシボがヴィンテージテイストをムンムン感じさせます。シンプルなデザインだからこそ、少々パンチのあるアッパーを選んでみました。これは本当に万能な一足になりそう!
さて次回こそ、サンプルシューズがお目見え。新開発の木型はどんな顔つきになっているのでしょうか? 私も日々、ワクワクしながら過ごしています!
3タイプのデザインで新モデルを製作決定!

とりあえず言いたい放題を伝えて帰路についた私。そして約1か月が経ったころ、「絵型が完成しました!」と連絡が。浮き足だってオフィスへ向かうと、見事なデザイン画が出来上がっていました。
お伝えし忘れていましたが、デザインをどうするか悩んでいた私に、濱田さんから「せっかくなので、やりたい靴は全部カタチにしてみましょう!」と嬉しいご提案をいただきました。で、今回は欲張って新型を3種類も製作することに。
上のモデルは、マストロヤンニの写真に最も近いイメージ。あえてパンチドキャップトウではなくセミブローグにして、カジュアルにも振りやすくしてみました。左下は、オフィサーシューズ感覚で履ける一足をイメージした3アイレットの外羽根プレーントウ。デザインとしてはよく見る形ですが、オールド・イタリアなスクエアトウとの掛け合わせでかなり新鮮になるのでは、と予感しています。右下は、フィレンツェ風なUチップ。エプロンが小さく、つまみ縫いのスプリットトウが入る剛健さが魅力です。3足のなかでは一番クラシコムードな一足かもしれません。
方向性が定まったところで、サンプルシューズの製作に着手。さて、想像どおりの一足に仕上がるのでしょうか? その結果は、次回お伝えいたします!
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