鴨志田康人流ウェルドレッサー術 鴨志田康人×河合正人 新刊『The three WELL DRESSERS』を語り合う


 

横浜「信濃屋」顧問の白井俊夫さん、セレクトショップの老舗「SHIPS」顧問の鈴木晴生さん、そしてポール・スチュアートの日本におけるディレクター鴨志田康人という、日本のメンズファッション界の“三賢者”が登場する本『The three WELL DRESSERS(ザ スリー ウエルドレッサーズ)』(万来舎)が書店に並び始めました。
この新刊は、メンズファッション界の話題をさらった写真集『JAPANESE DANDY』のプロデュース&ディレクションをした河合正人さんがプロデュースしたもので、三賢者の生い立ちから現在までをテキストと、すべて撮り下ろし写真でビジュアル構成された豪華本です。

 

Photo. Shimpei Suzuki / Text. Makoto Kajii / Edit. FUTURE INN

 

 

1957年と58年生まれの同級生対談が実現!

 

──白井俊夫さん、鈴木晴生さんとご一緒に登場ですが、河合さんから本の話があったときはどう思われましたか?

 

鴨志田 辞退しようと思っていました(笑)。

 

河合  最初は嫌がっていましたよね(笑)。

 

鴨志田 だって、お二人のような業界の大御所と一緒に話すこともないだろうし、「いやいや勘弁してください」と確かに言いましたね。

 

──この『The three WELL DRESSERS』はどういう発想からスタートされたのでしょうか。

 

河合  構想は写真集『JAPANESE DANDY』を作っているときからあって、最初はお一人ずつの本が成り立つだろうなと思っていました。でもよく考えたら、3人が生きてきた時代はもちろん違いますが、それぞれが通ってきた道、ベクトルが一緒だと思ったわけです。「スタイルの血統」というか「トラディショナルの系譜」というか。

 

──なるほど。それは強く感じますね。

 

河合  さらに、3人がちょうど10歳違いなんですね。戦後のメンズファッションの大きなムーブメントであったブランド「VAN(ヴァン)」の影響をほとんど受けなかったにも関わらず、アメリカのモノと文化に惹かれた白井さん、VANに入社し、日本的なアメリカントラディショナルを築いてきた鈴木さん、そして、VANの服を買い、服好きになっていった鴨志田さんの3人の歩みを一冊にまとめたら、戦後の日本のメンズファッションの歴史の一断面を捉えることができるのではないかと思い企画しました。

 

──日本の男にとってVANは大きな存在でしたからね。

 

河合  鴨志田さんが57年生まれで、自分が58年の早生まれの同級生で、私たちは確実にVANの洗礼を受けているわけで、お互い洋服を好きになっていった過程はよく分かりますが、それは白井さんとも鈴木さんとも違うわけです。

 

鴨志田 河合さんから「10歳違い」という話を聞いたときに、面白い企画だなと思いました。10歳違いで、ちょうど僕になるんだなと。

 

 

それぞれが定義する「ウエルドレッサー」とメッセージ

 

──本の出来上がりを手にしていかがですか。

 

鴨志田 クオリティが高いですね。質感が高くて、本としての佇まいが良いです。

 

河合  白井・鈴木・鴨志田の3人が揃って写っているオフィシャルな写真は印刷物ではないはずで、表紙に据える価値があるビジュアルになっています。

 

──本のタイトルが『The three WELL DRESSERS』ですが、それぞれ“ウエルドレッサー”とはどう定義されて、何を読み取ってほしいですか。

 

河合  私は、「トラッドをベースに、自分のパーソナリティも含めて上手に表現できている人」でしょうか。それに加えて、それを表現するための人生もWELLであればなお良いですね。

 

鴨志田 例えば、今回の表紙、3人それぞれの時代背景がスタイリングに出ていますが、継承していく「脈」というか「芯」のような親和性を感じますよね。

 

河合  『JAPANESE DANDY』もそうですが、若い人にテーラードを中心とした洋服を着る楽しさをもっと知ってほしいですね。先輩たちがこれほど自由な気持ちでおしゃれを楽しんでいると同時に、人生のヒントにもなる本になっていると思います。

 

鴨志田 10歳ずつジェネレーションは違いますが、メンズのファッションが持つ「変わらない良さ・美学」を感じてほしいですね。また、ファッションとは「自分の個性を大切にすること」も伝えたい。3人の生きざまから何か感じるものもあるだろうし、自分目線で読んでもらえればいいと思います。

 

河合  鈴木さんがNYへ行って受けた「ポール・スチュアートの衝撃」の詳細な記載もありますので、ぜひお手にとってお楽しみください。

 

 

ポストコロナ時代のファッションと生き方

 

──話は変わりますが、外出自粛中はどう過ごされていましたか。

 

鴨志田 生まれて初めてといっていいほど、朝から晩まで家にいました。そして、皆さんと同じく、普段なかなかできない「断捨離」に時間を費やしました。もう着ない服を処分したり、家の隅々まで掃除したり、クルマを洗車したり、靴を磨いたり、アイロンをかけたり……。普段は手をかけられないことをしているうちにささやかな幸せを感じて、すごく楽しい時間でした。充実していましたよ。

 

河合  私は取り立てて何をしていたということもなく、普段通りの生活でした。

 

鴨志田 断捨離していて気づいたのは、「普段着を持っていないな」ということで、前回紹介した部屋着的なラウンジウェアやワンマイルウェアが欲しくなりました。あと、服を整理していて思ったのは、改めて「良いモノはいいな」ということ。クリエーターとして、「クオリティの良いもの」を作らないとと思ったし、やっぱり「素材が大事」など、いろんなことを感じましたね。自分にとっての価値観や愛着など、いろんな目線で服を見ることができて、また勉強になりました。

 

河合  今回のコロナウイルスによる世界的な自粛によって、洋服に関しては「その人が愛する服じゃないと残っていかないし、残す必要もない」ことに気づいた人が多いと思います。これからは、「服と一緒に育っていく/育てていく」という感覚になるでしょう。

 

鴨志田 そうですね。自分はファッションの役割とは、「カルチャーの一つとして重要なエレメント」だと思っています。人々の生活の中で、その人たちのライフスタイルを彩っていくものだし、コミュニケーションの中で大事なエレメントで、それを形作っていくのがファッションの役割。服とは、人々を幸せに豊かにするピースフルな存在なので、服作りは、皆さんの人生のお役に立つことができる、やりがいのある仕事だなと改めて痛感しています。

 

 

愛せる服を手に入れてともに生きていける、新しい時代へ

 

鴨志田 今回のコロナ禍を俯瞰して見てみると、地球にコロナウイルスという悪玉をぽんと投げてみたら、当たり前に思っていた経済至上主義や国際紛争など、世界中がボロを出した感じで、皆さんもきっと「世界は何も進化していないな」と思ったはずです。今回のことをきっかけに、平和について等身大で考えないといけないし、人と人のコミュニケーションや地に足の付いた生活を見直す中で、等身大のファッションがあればいいと思います。

 

河合  特に、ジョルジオ・アルマーニが、コロナ後のファッション業界について、ファッション業界が直面している問題の解決や、「長く着られる服が求められるだろう」と発言したことには大きな意味がありますね。

 

鴨志田 あの発言は響きましたね。自分が等身大で生きていくことが、ポストコロナ時代の幸せをつかむ一つのヒントになると世界中みんな感じているはずだし、作り手としては、作るのは難しいですが、「当たり前で良いモノ」というものにヒントがあります。

 

河合  モノの良さには、長く着るために素材や縫製が良かったり、ラグジュアリー的な気持ちよさもありますが、ポール・スチュアートの鴨志田さんのコレクションを見させていただいて、作りとラグジュアリー感の両立が上手く表現されていると感じています。

 

鴨志田 ありがとうございます。家で断捨離をしていて、さり気なく「良いな」と思うものは、昔のアメリカ製のシャツのように、実はそんなに難しくないものなんですが、そこから、価値というのは見方によって全然変わってくることをしみじみ感じたので、これからも欲張らずに服と向き合っていきたいと思います。

 

河合  『The three WELL DRESSERS』を読んでいただいて、鴨志田さんがどうやってファッションと向き合ってきたか、ぜひ現在進行形としてお読みください。

 

 

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