TOP > 三陽山長 > FEATURE > 【ファッションエディターが見た「いい靴」作りの流儀】一. 木型にはドラマがある

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ファッションエディターが見た
「いい靴」作りの流儀

一.
木型にはドラマがある

国内外の一流靴工房を数多く取材してきた編集者が、三陽山長の靴作り現場を徹底取材。その製作過程を追いながら「いい靴」作りの流儀を見出す連載企画がスタートします。第一回のテーマは、靴の設計図・木型のお話。

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取材・文

編集者 小曽根 広光

1984年生まれ。雑誌「MEN’S EX」副編集長を経てフリーランスに。スーツやジャケットなどのテーラードウェアが好きなこともあり、年間350日以上は革靴を愛用。

なぜ靴好きは
木型に惹かれるのか

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土踏まずのシェイプを肴に酒を飲み交わしたり、革の香りを嗅ぎながら朝まで語り明かせるほどの靴マニアでは決してない私。ですが、「木型」という言葉には思わずピクッと反応してしまいます。その理由は、ひとつひとつの木型にそのブランドの哲学と美意識、そして試行錯誤の軌跡が凝縮されているから、だと思います。ちょっと大げさにいえば、木型にはドラマがあるのです。

三陽山長の木型に宿るドラマとは何か。それは、「日本人による、日本人のための靴作り」の歴史にほかなりません。2001年に誕生した三陽山長は、「品質本位」というコンセプトを掲げ、「技」「粋」「匠」という三つのキーワードを理念として出発しました。これらはいずれも、日本の職人たちが誇りとしてきた伝統の美学。つまり三陽山長とは、西洋の模倣ではなく日本人ならではの感性を宿した、日本人にしかできない革靴を創り出すという夢を託したブランドだったのです。その根幹をなす要素のひとつが、木型の開発でした。

そもそも「木型」とは?

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ところで、この記事をお読みいただいている皆様のなかには“そもそも木型ってなに?”と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。木型とは、靴のフォルムを形作る土台のこと。しばしば「ラスト」ともよばれます。もともとは文字どおり木を削り出して作っていましたが、現在の既製靴ではプラスチック製のものを使うのが一般的。この木型をくるむようにしてアッパーを取り付け、ペンチのような器具で引っ張りながら固定することにより(これを「吊り込み」とよびます)、立体的な靴の造形ができるというわけです。木型は靴の美しさだけでなく、履き心地にも決定的な差をもたらします。ゆえに、木型は靴の完成度を左右する要といわれているのです。

現場の声が磨き上げた
マスターラスト「R2010」

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三陽山長の木型は一見、紳士靴の聖地・英国からの影響を強く感じさせます。長すぎず短すぎないノーズ、誇張を抑え、自然なカーブを描き出すアウトサイドなどがその典型。しかし私は実際に足を入れたとき、“これは別物だ”と感じました。フィッティングの基準であるボールジョイントだけでなく、足全体にピタッとはまるような感覚を味わえたのです。これぞまさに、「日本人のための木型」の真骨頂でした。

極 友二郎

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「三陽山長の木型は、2010年にひとつの完成をみました。マスターラスト『R2010』の誕生です。ブランド創設時から蓄積した経験を反映した、『日本人のための木型』の理想形といえるものでした」こう話すのは、三陽山長の商品企画を担う濱田 甫さん。「木型作りにおいて一番のキモとなるのは、フィット感と造形美の両立です。快適さだけを求めるなら、足の形をなぞるように木型を作ればいい。しかしそれでは、靴として美しく仕上がりません。そのバランスを最適化して『R2010』へと結実させたのは、数えきれないほどのお客様から頂戴した声でした。約10年間にわたって店頭でお客様の足を拝見し、さまざまな会話をさせていただくなかで、理想の木型が見えてきたのです。いわば“現場の経験”の結晶が『R2010』ラストなのです」

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「R2010」ラストの特徴は大きく三つ。甲の立ち上がりをやや低めに抑え、土踏まず部分を絞り込み、カカトを小ぶりに設計していることです。「日本人=幅広甲高というイメージがありますが、実際にお客様と接すると、むしろ華奢な足のかたが多いことがわかりました。そんな経験のもと、この形に辿りついたのです。カカトを小ぶりにしたのは、海外の靴で問題になりがちなヒールの抜けを解消するため。絞った土踏まずは、背筋をピンと伸ばし立ち姿を美しくする効果も狙いました」と濱田さん。私が初めて三陽山長を履いたときに感じた独特の感覚は、そんな木型設計の賜物だったのです。以下で紹介するように、現在は多彩な木型バリエーションを展開する三陽山長ですが、これらの多くは「R2010」をベースにして生まれたもの。“ローファーやカジュアル靴用に開発された木型でも、ドレスシューズ用の「R2010」をベースにしているのはなぜですか?”と濱田さんに疑問を投げたところ、次のような答えが。「もちろんゼロからの木型開発も試みているんですが、比較すると“やっぱりR2010ベースだな”となるんです。お客様との会話のなかで磨かれた“現場生まれ”の説得力には、机の上で考え出したアイデアは結局かなわないということなんですよね」なるほど、と思わず膝を打ってしまいました。

三陽山長 現行木型解説

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R2010S

「R2010」をスリッポン用に改良した木型。甲をより低く抑え、カカトを小ぶりに設計することで、靴紐のないスリッポンでも高いホールド力を実現しています。写真の靴は「極 弥七郎」。

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R2021

三陽山長の創業期に展開されていた「R202」の進化形として2022年に誕生。ボリュームのあるラウンドトウが特徴的で、主にカジュアルシューズで採用されています。写真は「極 勘三郎」。

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R2021S

「R2021」のスリッポン用。甲を低め、カカトを小さめにしたアレンジは「R2010S」と同様です。丸みを帯びたトウシェイプは、スーツからジーンズまで合わせられるバランス。写真は「鹿三郎」。

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R2013

コインローファーやUチップなどに用いられる木型で、ぽってりとしたラウンドトウが特徴。カジュアルな顔つきのフォルムながら、フィット感のよさはドレス木型と同様。写真は「弥三郎」。

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R309

「R2010」と同時期から展開されている定番木型。スラリとシャープなスクエアトウに加え、つま先を若干内側に振ることで土踏まず部分に余裕をもたせているのも特徴です。写真は「匠 友之介」。

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R3010

マスターラスト「R2010」とスクエアトウラスト「R309」を融合させた木型。シャープでありながら程よくボリュームもあるトウシェイプが特徴で、クラシックなエレガンスを放ちます。写真は「友也」。

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