ファッションエディターが見た
「いい靴」作りの流儀
四.
デザインに見る、
ニッポン靴の美意識
過去3回で木型や革、型紙といった靴作りの土台についてお伝えし、これからいよいよ製作の模様をご紹介……という段ですが、その前にひとつ、触れておきたいことがあります。それは、靴のデザインについて。西洋由来である革靴を、三陽山長はどのように捉え、表現するのか。そこには、日本ならではの美意識がありました。
取材・文
編集者 小曽根 広光
かつては捨て寸が短いコンパクトな靴が好みでしたが、近年は身につけるパンツの裾幅が広めになった関係で、程よいロングノーズを愛用。こういう微差が革靴の面白いところだなと改めて実感。
ニッポン靴の醍醐味は
“調和”にあり
スーツやシャツなどと同様、革靴には“お国柄”が色濃く現れます。最もシンプルでオーソドックスなストレートチップでさえ、比べてみればその違いは一目瞭然。革靴好きたちはそんな地域性もふまえたうえで、自分は端正な英国靴が好きだなとか、より武骨なアメリカ靴のほうが性に合っているな、などと吟味を行なっているわけです。
じゃあ、ニッポン靴の個性ってどんなもの?――ご想像のとおり、ひとつは研ぎ澄まされた精緻さです。三陽山長の代表作「友二郎」を見ても、それがよくわかるはず。細かく、乱れのない出し縫い、寸分の狂いもないアッパーのステッチ、一切歪みなく吊り込まれた立体美など、どこから見ても隙がありません。間違いなく、世界随一のクオリティといえるでしょう。
そしてもう一点、私が注目したいのは“調和”の魅力です。日本は古来より、海外の文化をさまざまな形で取り入れ、融合させることによって新しい伝統を生み出してきました。それを可能にするのは、異文化を理解し、研究し、自らの美意識と掛け合わせるアレンジ力。すなわち、多様な価値を破綻なくとりまとめ、成立させる調和の美学こそ日本の真骨頂だと思うのです。
三陽山長がデビューコレクションを立ち上げる際、お手本としたのはクラシックな英国靴でした。細すぎず太すぎず、自然に丸みを帯びたラウンドトウ、小ぶりなトウキャップなどがその代表例です。しかし、単なる模倣では終わりたくない。そんな想いのもとで三陽山長が挑んだのは、“日本人のための靴”を追求することでした。欧米人とは大きく異なる日本人の足型に合わせて木型を作り込み、それにあわせて型紙も設計。ユルさも窮屈さも感じさせない革新的な履き心地を叶えたのです。それでいて、見た目は海外の靴が好きな人も納得できるバランスにまとめあげました。この見事な調和こそ三陽山長の魅力であり、ひいてはニッポンならではの個性といえるのです。
知っておきたい、
革靴の定番デザイン
ところで革靴ってどんなデザインがあるの?と気になる方のために、現代のスタンダードといえる6タイプをピックアップ。すべて揃えれば、冠婚葬祭から休日まであらゆるシーンに対応できます。
さて、次回は「クロージング」とよばれるアッパーの縫製にフォーカス。ここでも超絶な職人技を次々と目にすることができました。お楽しみに !
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